あした出逢った少女(Win)
メーカー MOON STONE 総合評価 60点(及第点)
ジャンル サスペンスノベル
発売日 03/05/30
シナリオ 元サーカスのシナリオ&CGスタッフが立ち上げた新ブランドの参入第1弾。「サスペンスノベル」というエロゲには珍しいジャンルが話題を……呼んだかな?(ぉ
原画 青桐静・みずきほたる・鷹乃みすづ・影風
サウンド たくまる

※以下の評価はDVD版についてのものになっています

個人的エピソード
「水夏」の第3章がほとんど病的と言っていいくらい好きなので買いました(^^;
あの叙述トリックとサスペンスノベルというジャンルは親和性が高そうでしたし、
何よりあの見事な構成力にもう一度酔ってみたかったので。

内容


近くにカルデラ湖を控え、自然に囲まれた田舎の村――「高千穂」村。
その高千穂村において、主人公は、ぼんやりと空を見上げていた自分に気付く。

――――記憶喪失

過去に関する記憶が失われてしまっていた。
奇妙な事に、昼間だというのに、空が、夕暮れと日の出を合わせたような、
おかしな色に見えた。

従姉だという女性に連れられ、主人公は、「橘高」家にて居候する事になる。
その家には、美しい4人の姉妹が居た。

ひとときの、穏やかな日常。


――やがて、悲しい事件が幕を開けた
(パッケージ裏より)

システムとか
必要容量は2.5GB。
正直なところフルボイス仕様だということ、BGMデータもインストールすることをふまえても一体どこにそこまでの容量が必要なのかよくわかりません(^^;
基本的には割と小粒な作品ですしね……。
ただ、HDD容量に余裕が無い人のために同日発売のCD-ROM版のデータ(必要容量1.2GB)も収録されている親切さは評価したいと思います。

システムの方は独自システムを採用。
動作もそれほど重くなく、必要な機能は一通り揃っている良くできたシステムかと思います。
攻略サイトを見たり、別ウィンドウでメモを取りながらプレイする私としては別ウィンドウがアクティブになると、動作が止まってしまうのは不満ですが、重箱の隅レベルのことなんでほとんどの方は気にならないでしょう。

セーブ数は49個+オートセーブ1個。
ほぼ一本道のゲームですし、特別難易度が高いわけでもないので数としては十分でしょう。

スキップは既読シーンのみ可能。
一瞬サーカスに倣ってあらすじモードが付いていることに期待しましたが、さすがにそれは無茶な注文だったようです(笑)
まあこれに関しても一本道であることを考えれば実際問題として困ることはありません。

バックログは約175ページにわたって読み返すことが可能。
なお、この際に任意のボイスを再生することもできるようになっております。
いわゆる「一つ前の選択肢に戻る」機能も実装されており、この辺りは至れり尽くせり。

鑑賞系はCG、BGM鑑賞のほかにシナリオ回想、おまけHシナリオが用意されています。
Hシーン以外の様々な場面も読み返せる方式は――何かと引き合いに出すのはあまり気が進まないのですが――サーカスが有名ですが、ここのもそれと同様と思っていただければ良いでしょう。
「あの場面ってどんな話だったっけ?」という物忘れの激しい私みたいな人には非常に便利(^^;

新規参入ということで若干不安だったのですが、オートモードなども実装されている立派なシステムでした。
この辺りは今までにも何本も制作に携わってた経験が生きているのかもしれません。
何にせよこの項目に関しては合格。他の新参メーカーも見習ってください(ぉ

絵とか
とりあえずゲームのジャンルには合ってないよね(禁句)
かといって劇画調とかにされても、それはそれでエロゲ的には困るのですが。

純粋に絵柄として見る分にはちょっとロリ入りすぎですけど、ちんまくて可愛い絵柄だと思いますが、
冒頭にも書いたように実際ゲームのジャンルや、案の定殺伐としたシナリオと並べると絵がやや浮いている感は否めません。
ジャンルも前面に押し出していたことを考えると、もう少し頭身高めのキャラクターにしておいた方が良かったのではないか?という印象を受けました。


質の方は基本的には可もなく不可もなく。「原画の頭身に拒否反応が無ければ」といったところでしょうか。
ただ複数名で原画を担当している関係上か、時々崩れた絵や恐ろしく手を抜いたような原画・
やけに平坦な塗りのCGがあるのが目に付いたのは残念
です。
それにしても「○○は誰が描く」とかではなく、同じキャラでも違う人が描いている絵が混じっているとしか思えないくらい違う絵柄が混じっているのは何か原因でもあるんですかね?
もう少し統一感があれば崩れたと感じる回数も若干は減ったかな、という気がするのですが…。

枚数は鑑賞モードによれば232枚(パターン違い含む)。
ここから独断と偏見でパターン違いCGを除くと総数は95枚。
枚数は十分で、これに関しては何の不満もありません。

音楽・音声とか
BGMはWAVで収録、全22曲。うち1曲がボーカル曲となっています。
曲調はゲームの流れ同様、柔らかでほのぼのした曲・サスペンス調の曲に綺麗に二分されています。
どちらも雰囲気によくマッチしていて使い方も上手かったと思いますが、
特に柔らかな曲調の物は「田舎の夏」という作品全体の舞台に非常にハマっていて印象深いです。
さすがLittlewingのたくまるさん、いい仕事してます。

質は総じて高かったと思いますが、中でも印象に残った物を挙げると「憂愁」「スレチガイ」に
OPボーカル曲「夏の羽音」辺り。


一方ボイスは男性も含めてフルボイス。
メインキャラに関してはどの方も上手く、キャラにも合っていて安心して聞ける出来です。
で、「メインキャラに関しては」と書いた時点で察しが付くかとは思うのですが、
反面サブキャラの一部の演技はかなりアレではないかと(´Д`;
具体的には水穂と薫。
どちらも同じ方が演じているんですが、この方の演技だけは最後まで馴染めませんでした。
普通に滑舌悪いのは気のせいじゃないと思うんですけど……登場シーンがそこそこ少なめなのが、せめてもの救いですね(苦笑)

シナリオとか
少なくともエロゲではないよね、絶対(マテ
昔のように一言でまとめると、こんな感じでしょうか。

この作品、内容的には序盤の「田舎のほのぼのした雰囲気」と中盤である事件が起きた後からの
サスペンス色全開のシナリオとに大きく二分されます。
これ自体はよくある流れなわけですが、さらにその場面の一部に過去のシーンが含まれるという
特徴があります(決して回想ではないのがポイント)。
この手のお約束で、かつて村で起こったと思しき過去とそれとほとんど相似形を成す現代が延々と語られていくわけですが、その辺の見せ方がちょっと独特です。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが図解すると
<過去>シーン1→↓        →シーン3→↓
<現在>       →シーン2→↑        →シーン4
こんな感じでゲーム全体が進行していく体裁を取っています。
普通この手のは現在を見せた後に過去エピソードを見せる(あるいはその逆)という形を取るのが一般的なので、なかなか面白い試みだと思いました。

ただ、この見せ方には一点だけ大きな弱点を内包しています。
相似形を成す二つの話を並行して、かつ重複する部分はカットして見せるという手法そのものは面白いのですが、プレイする間にどのエピソードをどちらの時代で経験したのかが見えなくなるという問題が(´Д`;
それぞれのシーンでは右クリックで「現在」か「過去」かを確認することは可能ですが、
それらを頭の中で整理しないといけないのは間違いないわけで、その辺りもうちょっと構成に
一工夫欲しいかな
、というのが全体を通じての正直な印象です。
主人公のみならずプレイヤーをも過去と現在の交錯によって混乱させようとしたのだとしたら、
逆に大したテクニックだという説も無いでもないですが(^^;


で、全体の感想はこんなところで「ほのぼの」と「サスペンス」に分けたコメントも。
「ほのぼの」方面については各キャラクターも立っており、セリフの掛け合いのテンポなども良かったのではないかと。
少なくとも恐ろしく平凡な日常シーンを流しているだけなのにもかかわらず、プレイヤーに
きちんと読ませる事実はライターさんの実力を示しているのでは? と思ったりします。
個人的には単なる前振りにしておくのは勿体無いような気もしたり。
あ、4姉妹+田舎+夏で「痕っぽい」というのは禁句です(笑)

「サスペンス」の方については、あえて作中の言葉を借りると「物語に取り憑かれている」という感じ。
話としては割と面白く、特に一連の事件の真犯人が語る恐ろしくマッドな動機は私的には大満足だったのですが、キャラクターの存在をまるで使い捨ての駒以下にしか扱わないのはエロゲ的にどうなのかな?と(^^;

ストーリー上、ヒロイン達とのハッピーEDがただのオマケ要素とほぼ等しいというのは正直微妙。
まあトゥルーEDを見た後にヒロインEDを見ると凄く後味が悪いので、救済バッドED扱いでいいのかもですが…。
個人的には嫌いじゃないですけど、拒絶反応出る人は多いと思います。
キャラクター性だけが強く出ているエロゲ界のシナリオで、ストーリー性を強く押し出すのは個性の一つですけど、これはちょっとやり過ぎだよなぁ(^^;

また、この物語への傾倒ぶりとは別に最後に過去と現在を1本の線で結ぶ
種明かしの部分がかなり超シナリオ強引だったのはちょっと残念でした。
せっかく構成にこだわったり、とんでもなく大仕掛けなギミックを仕込んでいるのに種明かしが強引では良さも半減。
もっと綺麗に全ての糸が繋がるのに期待してたんですけどね〜。

総評
惜しいなぁ…。それが1番率直な感想です。
個人的には気に入ってるんですけどね。何だか文章にしてみると貶してばかりですが(爆)

まとめ。自分の武器に振り回された感がある作品。
武器である「構成に凝ったシナリオ」というのに結局こだわり過ぎた印象が否めません。
で、それをフルに生かせているかというと微妙と(^^;
ただキャラクターオンリーで話に中身が皆無な作品よりはよほどいいと思うので、個人的には次に期待ってことで。

書いた時点での総プレイ時間 11時間15分(コンプ)
お気に入りのキャラ 橘高冬香
お気に入りのセリフ 特になし

初版2003/12/13