水夏-SUIKA- DVD(Win)
メーカー CIRCUS 総合評価 75点(佳作〜良作)
ジャンル 「夏」ADV
発売日 2001/08/31
シナリオ 呉一郎・御影 同年の7月末に発売されたCD-ROM版が好評だった「水夏」のDVD版。変更点は音声・BGM・CGの高品質化。
初回版は出荷が少なくすぐに品切れになった。
原画 七尾奈留・いくたたかのん・つきなが
サウンド 猫野こめっと・tororo

※以下の評価はVer.1.01Pに基いています

個人的エピソード
CD-ROM版の好評を聞いて気になっていたのでやってみることに。
それ以外だと…名無しの少女とのHシーンは本当にOKなのか?とか(^^;

内容
海と山に囲まれた常磐村(ときわむら)。
常磐――“永遠に変わらない”と名付けられた村にも、やっぱり夏は訪れる。


漫画好きの巫女さん。

お気楽な先輩。

元気な妹と、お淑やかな恋人……。


神社の縁の下で出会った“名無し”の少女。
帽子につり下げた鈴を鳴らしながら、彼女が村を駆け抜けたとき、
交わることのない運命の赤い糸が絡みあった。


冬の淡雪が溶けた世界で、
夏の水にも暖かさを感じてください。
(メーカーサイトより転載)

システムとか
必要容量は300MB〜1.3GBの間で段階的に選択可能。
システムが特別軽いわけでもないので可能ならフルインストールを推奨します。

ゲームは全4章のオムニバス形式。
1〜3章はノベル形式で進行し、それを総括する4章はADV形式で進行する珍しい体裁を採っています。
選択肢は大量に出るものの攻略に関わる物は別段多くない上、一本道的な色合いが濃い話なので、単純にクリアするだけならば難易度はかなり低いと思われます。

セーブ数は57+クイックセーブ1+オートセーブ1の計59個。
足りなくなることはまずないでしょう。

スキップとバックログはタイトル(7月20日:常磐村へetc.)の振られたシーン単位で管理されています。
スキップは既読シーンのみ。
「あらすじモード」と呼ばれるこのスキップ形式は文字通り、読んだシナリオのあらすじを表示するというものですが、これがなかなか秀逸。これのおかげで高速性を維持しつつ物語の流れを追うことが可能となっています。
なお、あらすじ及び既読文章はCtrl押下による高速表示も可。

バックログはシーン頭まで戻ることが可能です。
これは長いシーンの時は便利ですが、5ページくらいしか戻れない時もあるのでやや微妙かも(^^;
また余談ながら「シナリオ情報」をONにすることで、「そのシーンの長さ」や「進行中のシーンには選択肢があるか」がわかるのがちょっと便利でよかったかなと。

鑑賞系はCG・BGM・OPムービー鑑賞とイベント回想が用意されています。
作中の全てのシナリオが読み返せるというイベント回想はさすがに珍しいかもしれません。

さてシステム面を総括すると基本的には非常に使いやすくまとまっていて○なんですが、
時々妙に動作が重くなったり不正終了することがあったのも付記しておきます(^^;

絵とか
原画さんはかわいらしく手広く好まれる絵柄ではないかと。
いわゆる正統派な美少女絵を描かれる方だと思います。
イベントCG・立ち絵共に塗りのレベルも高く、この方面の評価は高いレベルで安定しています。
背景も海岸など自然物の質感に乏しい面があることを除けば、やはりハイクオリティだと言えましょう。

枚数の方は約50枚(パターン違い除く)
この数字だけ見ると少なく感じるかもしれませんが、パターン違いを含めれば150枚近くありますし、
シーンや視点を細かくカットしているせいか少なさはそれほど感じませんでした。


唯一難を挙げるならば、男性キャラの顔がやたら怖いことくらいでしょうか。
1章主人公・彰の少年時代なんて人類の規格外な顔をしているような気が(ぉぃ
これで男性も上手く描けるようになれば文句なしなんですけれどね〜。

音楽・音声とか
BGMはPCM/CD-DAのいずれかを選択して再生、全22曲。うち2曲がボーカル曲です。

さて、CD-DAをチョイスした場合は同梱のアレンジCDを使用するのですが、
このアレンジCD、あまりアレンジされていなくて(大きく違うのはキャラテーマと「せつなさの中で」くらい?)
アレンジされている曲も格別PCMより優れているということもありません(^^;
いちいち起動時にDVDとCDを入れ替えなくてはならない手間もあり、私としてはPCMを推奨します。

肝心要の曲の出来の方は総じて比較的高め。
特別強く印象に残る曲というのは少ないですが、BGMとして上手く機能しています。
恒例のお気に入りは「夕焼けこやけ」「なみだあめ」「夏の終わりに…」辺り。


音声は主要女性キャラのみフルボイス。
声はキャラに合っている方ばかりですし、演技力もまあ合格点。
BGMだけでなく、こちらもレベルは高いと言って差し支えないかと。
しかし、惜しむらくはちとせやアルキメデスには声がないこと。重要キャラだと思うんだけどなぁ……(^^;
#まあ、ちとせに関しては「アルキメデスのおくりもの」にパッチが同梱されるそうですが

シナリオとか
非常にミステリ的な構成力に富むファンタジー。
何が言いたいやら自分でもサッパリですが^^;、言葉にするとそんな具合になるかと。

え〜、内容について解説しますと「夏」ADVとか銘打っていて一見ホノボノな印象を受けるかもしれませんが、そんなことは微塵もありません。
このゲームは全4章からなる物語のどの章を取り上げても「生と死」だとか「人間の感情」といった生々しいテーマに関する描写が満載です。
死神という特異な存在である名無しの少女が出てくる4章が下手すれば一番そういった物から縁遠いほどに(^^;

このゲームのシナリオで特筆すべきは異常なまでの叙述トリックへの傾倒でしょう。
叙述トリックというのはミステリなどで見られる「ある情報をあえて読者側には伏せておくことで誤読を誘う」という文章技法ですが、このシナリオではおよそ全ての章で何らかの叙述トリックが盛り込まれています。
ゲームならではの視点変化を頻繁に織り交ぜることで構成されたその叙述トリックは見事の一言。
私が単純なだけかもしれませんが、見事に誤読させられてしまいました。

徐々に構成要素が明かされていき、最後で誤読していた真相が明らかになって驚かされるという
パズルみたいなシナリオ揃いで個人的にはかなり好み。
シナリオの構成力でプレイヤーを引き込むというエロゲには珍しいタイプの物語かと。

まあ視点変化を頻繁に使いすぎて慣れないうちは置いていかれがちという難点もあるにはありますが……(^^;


テキスト自体は非常に淡々として特別引き込まれるような文章ではありませんが、
描いてる内容がかなりドロドロした嫉妬だったりするのでこれくらいが適切なのかもしれません。
少なくとも3章までに関しては。


先ほど「3章まで」と書いたように、このゲームのシナリオは基本的に良質で不満はあまりないんですが、ラストの4章だけはいただけません。
確かに死神である名無しの少女や幽霊であるヒロイン伊月が存在する時点で、このゲームは明確にファンタジーに分類されるものでしょう。
しかし、それまでの流れで奇跡も何もなかったのになぜ最後だけ急に奇跡に頼ってしまうんでしょう?
私としては奇跡がないことこそが水夏の特性だと思っていたのですがね(^^;

別にファンタジーですから奇跡を使うのも悪くは無いでしょう。
が、最後の最後あらゆるトリックが明かされた後でなお「奇跡」の存在をプレイヤーに納得させるには、テキストが淡白すぎて引き込む力に欠けていたように思います。
あのラストは物語を締めくくるにはどこか安直な気がしてしまうんですよね……(ぉぃ


構成力に富んでいてシナリオとしては優秀ながらテキストは普通
こんなところが私の正直なシナリオ評かもしれません。

最後に奇跡があることとか全4章構成とか、人のドロドロした部分が3章に凝縮されてるとか色んな意味で「銀色」に似ていると思わなくも無いですが、それはまた別のお話(笑)
……こっちの方がドロドロ度は数段上だと思いますけどね(^^;

総評
基本的にはかなり好きなソフトです。特に3章とか3章とか(ぉぃ
これでオチがもうちょっとパンチの効いた物だったらよかったのに……。

まとめ。ミステリ色豊かな良質ファンタジー。
実際総合的に見てもかなりレベルは高いと思います。
個人的に4章が強い個性を持った各章をまとめるにはやや弱いと感じたためこの評価ですが、
その辺りが気にならなければあと5点〜10点はプラスして構わないかと。
ちょっとダーク系入ったシナリオが好みの方にはオススメです♪

書いた時点での総プレイ時間 17時間50分(コンプ)
お気に入りのキャラ アルキメデス(マテ・京谷透子・柾木茜
お気に入りのセリフ 「さのばびっち、ばんごは〜ん」
「でも……唇にお兄ちゃんの唇の感触を覚えてるもん」
「我が輩と違って、お前には人を抱く腕も歩み寄ることのできる足もある。
あがくだけあがいてみろ…それが人間だ」

初版2001/12/05 最終更新12/24