Ever17〜the out of infinity〜(PS2)
メーカー KID 総合評価 85点(良作〜名作)
ジャンル ADV
発売日 2002/08/29
シナリオ 打越鋼太郎・笹成稀太郎・中澤工・梅田伸明 「inifinity」「Never7」の流れを汲む作品。
名作と謳われたかの作品にどこまで迫れるかが注目された。
またこの作品からついにKIDもPS2への移行を開始した。
原画 滝川悠
サウンド 阿保剛


個人的エピソード
「Never7」は積みっ放しですが「infinity」は結構好きな作品だったので。
また原画の滝川悠さんは個人で発行しているCG集を買ってるくらいには好きな方
というのも購入動機の一因でした。

内容
――水深51mの海中に浮かぶ近未来の海洋テーマパーク“LeMU/レミュウ”。
ここに、なんの前ぶれもなく7人の男女が閉じ込められた。
徐々に失っていくもの:食料・水・酸素。
新たな脅威:深海に棲息する未知のウィルス。
さらに、苛烈な水圧にさらされたLeMUの隔壁は119時間以内に崩壊すると言う。
分厚いガラス窓の向こう側は、濃紺の深い闇……。
この閉ざされた空間の中で、限られた時間の中で、
次々と起こる危機を乗り越えながら、7人は脱出への道を探しつづける。


なぜ彼女は、彼は、ここにいて、出会ってしまったのか……。
彼女達の思惑とは、一体……?
そして、この事故の原因とは……?
残された時間は119時間……。

(パッケージ裏より)
#どうでもいいけどウソの記述が多すぎます(^^;

システムとか
必要メモリーカード容量は60KBで生成されるファイルは1つのみ。

ゲームの基本的なシステムはごくオーソドックスな選択肢分岐型のADV。
全てのシーンやメッセージを回収しようと思うなら少々面倒ですが、単純にクリアするだけならば親切なシステムのおかげもあって難易度は簡単な部類に入るかと思われます。

セーブ数はノーマル30、クイック30の計60個。
このクイックセーブ、任意のタイミングでセーブできるのは勿論のこと、選択肢・場面転換時などに自動でセーブする設定にすることも可能でとにかく便利。
それこそノーマルセーブは使わなくてもいいくらいです(^^;
またセーブ時にはシーンタイトルやサムネイルも記録されるのでどういう場面で保存したかも一目瞭然の親切仕様。
質量ともに文句のつけようもありません。

スキップは既読/強制の両方を実装。
速度は極めて高速で比較的共通テキストが多いこのゲームでは助かります。

バックログは音声再生機能付きの物を用意。
どこまで戻れるかの詳細は調べていませんが少なくとも200ページ以上は戻れるかと思われます。
まあ使っていて不満を覚えるようなことはありえないでしょう。

他に便利な機能として「Memories Off 2nd」にもあったショートカット機能も挙げられます。
1度クリアしたキャラのシナリオの途中から始められる機能ですがバッドエンドの回収時にはありがたい機能。
隅々まで配慮が行き届いたシステムには素直に脱帽です。

鑑賞系はCG・BGM鑑賞およびOPムービー鑑賞と一通り揃っています。


いや〜しかし、相変わらず完璧と言っても過言ではないシステムですね。
他のギャルゲ・エロゲメーカーも少しは見習って欲しいところ(ぉ

絵とか
原画さんの絵は可愛いというよりは綺麗系…になるのかな?
まあとりあえずさほど人を選ばない絵柄だと思います。
塗りも丁寧ですし、綺麗に仕上がっているのではないでしょうか。
プラットホームがPS2に移ったことでCGも高解像度になりましたし。

個人的に特に評価したいのは絵の質が比較的安定していたこと。
KIDのゲームはキャラデザに対して複数名の原画マンが絵柄を似せて描くというアニメのような作業をする関係上どうしても絵にバラつきが出やすいのが難点なのですが、今回に関してはそういった問題があまり見られなかった気がします。


枚数の方は鑑賞モードによれば81枚(パターン違い除く)
これにはポスターなどに使われただけの絵も含まれるので、実際に本編で使用されるのは78枚。
ボリュームを考えるともう少し欲しいと思わなくもないですが、
まあ問題視するほどのレベルでもありません。見せる場面ではキチッと一枚絵使ってますし。

音楽・音声とか
BGMは全27曲、うち3曲がボーカルです。
ちょっとテクノ調?(自信なし)の曲が多いのが特徴でしょうか。
質の方は特別凄いわけではないですが総じて高いレベルでまとまっています。
#中には「いつものKID」としか言いようのない代わり映えのしない曲もあったりしますが…(マテ
でもまあ好みをさておいてもきちんとシーンにあった使い方がなされていたとは思います。

恒例のお気に入りは「Hologramn」「Karma」「Der Mond Das Meer」にOP「LeMU〜遥かなるレムリア大陸〜」。
OPは阿保さんではなく志倉千代丸さんの作品ですが、こちらもいい仕事してます。


音声は男女問わずフルボイス。
どの方も声質・演技ともに全く問題なく合格点レベル。
一部音声のボリュームに若干のバラつきがあったのが少々残念でしたけど(^^;

シナリオとか
構成とそれを効果的に見せるための演出が素晴らしい!
例によって一行でこの作品のシナリオを評するならばこんな言葉が適切かと。

さて、この作品には各ヒロインに対応した5本のシナリオがあるわけですが、
この5本のシナリオは大きく3つに分けることができます。
倉成武を主人公とした「武編」、記憶喪失の少年を主人公にした「少年編」、
そして武編と少年編をクリアした後に初めて進むことができる「ココ編」の3つです。
以下ではそれを「武・少年編」と「ココ編」とに分けて簡単に感想を述べたいと思います。

*武・少年編
微妙に異なる2つのLeMUに閉じこめられた6人の男女の脱出までを描くシナリオ。
武編に顕著な寒すぎて笑えないギャグ、閉鎖空間に閉じ込められているというシチュエーションに対しての緊迫感のなさなどが気になる序盤は正直あまり誉められたものではありません。
詳細な説明も下手すればテンポを殺しかねないものですし。ぶっちゃけ掴みは最悪です(´Д`;

ただ中盤以降はまるで別物。
連鎖的に様々なイベントが起こる中盤以降は息もつかせず一気に読ませてくれます。
これができるならなんで最初からやらないと思ってしまったくらいです(笑)
「infinity」でも見られた主人公とプレイヤーの情報量が極力同じになるような配慮も相変わらず健在ですし、別のルートを進んでいた時に感じた疑問の解を他のシナリオで出したりといった読ませるための工夫もなされており、この辺りはさすがの一言。

スロースターターながら動き始めると加速は抜群、言葉にするとそんな感じでしょうか。
若干恋愛感情に至るまでの描写が弱い気がするのと、少々話が長くて人によっては面白くなる前に投げたくなってしまうかもしれないというのが難点と言えば難点ですかね。
まあギャルゲーというよりSF(つかメタフィクション)なシナリオな上にこういう作りにしてしまった以上、これらの問題は避けられない事態なのかもしれません(^^;


*ココ編
武編・少年編を結び付け、それまでに出てきた謎の解答を示し、そして物語を終わらせるシナリオ。
「Ever17」の評価が高い理由の恐らく9割はこのシナリオにあるでしょう。
少なくとも私が高く評価している理由の多くはここにあります。
それほどまでにリンクなど物語の構成との見せ方が上手いです。
ココ編に至るまでの4シナリオで知った様々な情報を踏まえた上で、さらにそこまでの謎を一挙に解き明かしていく展開はまさに「怒涛の展開」と呼ぶにふさわしく圧倒されました。

見せ方という意味で言えば、主人公の顔だけはプレイヤーに見えないというADVの大前提として存在している盲点を利用した演出によって「第3の主人公」(バレ)の存在を明示する場面は素晴らしかったかと。
またココ編のラスト、物語全体を総括するフィナーレは30時間以上の苦労に見合うだけの素晴らしいものでした。
やっぱり最後は笑顔じゃないと、ですよね。

……正直これ以上はネタバレ抜きで語るのは難しいのですが、あえて少々語ります。
先述した「情報量を均等にする云々」にしてもそうなのですが、この作品でもう1つ評価されるべきは「主人公=プレイヤー」という図式を徹底して守り、それを活かして物語を描ききったことだと思います。
この点がなければ下手をするとフィナーレはとてつもなく独り善がりな物になっていたかもしれません(^^;
プレイヤーとキャラクターとの、或いは製作者との接触」というテーマはこの図式を示さずしてわかりやすい物にはなり得なかったでしょう。

とまあ、こうして見ると誉めどころばかりですが2,3だけ気になることが。

1つは私にはいくつか消化不良に思える点があったこと。
もう1つはごくわずかながらも急にプレイヤーに向けての説明調の文が出る場面があったこと
(ここまで来たならちゃんとキャラに説明して欲しかった…^^;)
最後の1つは他の4シナリオが結局前振りなのでココ編をやらないと意味がないということ。
武編や少年編のシナリオも面白くはあるのですが、真価を味わうまでに30時間というのは少々敷居が高すぎる感がないでもありません(^^;
まあどれも「強いて挙げれば」というレベルの難点ではありますけど、ね。

総評
久しぶりに素直にいい買い物をしたと思いました。
最初に「米っちょ」とか言い出した時は踏んだかと思いましたけどね(ぉ

まとめ。構成力の高さとテーマ性を兼ね備えた傑作。
いくつか気になる個所もありますが全体として相当によくできています。
たまたま若干似た構成・テーマを持っている「書淫、」に触れたことがあったのでこの評価に落ち着きましたが、もし触れたことがなければ最終シナリオのインパクトに負けて90点をつけていたでしょう。
恋愛ゲームとしてのギャルゲより面白い話を求める方ならプレイする価値ありかと。

書いた時点での総プレイ時間 33時間半(コンプ)
お気に入りのキャラ 小町つぐみ・松永沙羅
お気に入りのセリフ 「予知でも……希望でもない。約束だ」
「死んでも……放してなんかやらないから」

初版2002/10/10