Fate/hollow ataraxia(Win)  ※DVD-ROM
メーカー TYPE-MOON 総合評価 80点(良作)
ジャンル NOV
発売日 2005/10/28
シナリオ 奈須きのこ・阿羅本景・森崎亮人 商業第一弾でありながら04年最大のヒット作となった『Fate/stay night』待望のファンディスク。結局05年も最大のヒット作はこれになりそうというのがあのブランドの凄いところか。
原画 武内崇
サウンド KATE・James Harris


個人的エピソード
エロゲをやる人として無視できないタイトルなので当然のように購入。
すっかり感想文を書くのをサボっているので書いてませんが、stay night本編はかなり好きですしね。
(点数評価をするとしたら85点クラスでしょうか)
新規書き下ろしのシリアスなドラマ・コミカルなショートエピソード双方に期待し、
一方で場面ごとにショートエピソードを選んでいくというシステムに若干の不安を覚えつつプレイを始めたわけですが……。

内容
再び運命の幕があがる。それは約束の四日間。

聖杯戦争が終結し、半年が過ぎた。
争いの消えたおだやかな街に、ふたたび現界するサーヴァントたち。
まどろみのなかで繰り返される日常。赤くほころびる日々を塗りこめてしまう矛盾。
それすらも、もはや疑問に思う者はいない。
忘れられたもう一つの聖杯戦争が、密やかに、すべてを抱き寄せながら幕をあける。
それはいつか約束された、運命の四日間――

(パッケージ裏より)

システムとか
必要容量は約2.6GB。
容量自体は最近では目を見張るほどのものでもありませんが、よく考えると音声ないんですよね…。
そう考えるととんでもない大容量だったり。

ゲームシステムはちょっと独特なものを採用。
マップ画面から移動先を選択すると、その先々に用意されたショートエピソードを読む…その繰り返しでゲームは進行していきます。
その行動選択が1日に3回あって、4日目夜まで行くと1ループ終了、次のループへという流れをエンディングまで続ける実質的な一本道ゲームです。
ショートエピソードには大きく分けてストーリー全体の進行度に関わるもの、特に進行には関わらないものの2種類がありますが、
それぞれ未見のものについては進行度に関わるものは「!」、関わらないものは「NEW」の表記が付されるので見逃すこともない親切設計。
同ブランドが同人時代に出した『歌月十夜』では進め方によって見られないイベントがあったりしましたが、本作については
「!」「NEW」を潰していけば自然全部のイベントが見られるように。
そういうわけで最速でストーリーを読み終えるぜ! などの目標を持っている方でもなければ攻略性は皆無と言えるでしょう。

セーブ機能は物語の進行状況を記録するためだけの物で全部で3ヶ所。
スキップは既読スキップのみ実装。一応Ctrl押下で強制的に読み進めることも可能です。
シーン単位でのスキップにも対応しているのは反復プレイを強いられる本作では特に嬉しいところ。大いに助けられました。
バックログは25ページ前まで読み返し可能。
この項については終盤ちょっとわかりにくい話になることもあり、もう少し読み返させて欲しかったというのが率直な感想です。
個人的には倍は欲しかったかな。

鑑賞系はCG鑑賞、BGM・SE鑑賞、ムービー鑑賞、イベント回想を実装。
またオマケ要素としておみくじと絵馬(後述)購入が可能な「遠坂神社」、ゲスト作家を含めた壁紙ギャラリー、花札ゲーム『トラぶる道中記』、横スクロールアクション『風雲イリヤ城』が用意されています。
いずれも、特にオマケ要素についてはてんこ盛り過ぎなくらいで大満足の内容になっております。
……花札はもうちょっと簡単にしていただければもっと大満足だったんですが(ヌルゲーマー)

絵とか
エロゲ業界では珍しいイラスト的ではなくマンガ的な絵柄が特徴の原画さんです。
正直なところ一枚絵としての完成度は(一部例外はあるものの)決して高いわけではありません。
塗りでフォローされているものの、パッと見で惹き付けるアイキャッチという意味では弱いです。
ただ別に魅力がないというわけではなく、立ち絵・キャラクターデザインとしての出来はなかなか良いかと思います。
大量に用意された立ち絵は表情・演技も豊かですっきりしたデザインの絵を上手く引き立てています。

塗りの方は独特の塗りですが、先ほど軽く触れたようにかなりレベルは高いです。
全般的に光の描写が上手いですが、特に夜のかすかな光の塗りは非常に幻想的で絵の完成度を大幅に引き上げているのではないでしょうか。

また、このゲームの絵を語る上で欠かせないのが「見せ方に対する配慮」。
言うなればカメラワークとでも表現しましょうか。
『stay night』でもそうでしたが、フェードイン/アウト・スクロール・レイヤ書き換えなどゲームエンジンの機能をフルに駆使した演出は見事。
演出担当のつくりものじさんは死んでいそうですが、絵素材をいかに魅力的に見せるかという配慮に関して言えばこのメーカーは間違いなく業界最高クラスの1つだと感服しました。


枚数の方はCGモードの枠的には本編分として181枚。
差分を含めると軽く300枚を超える全体のボリュームに負けない十分な量かと。
また、本編向けCG以外にミニゲームをクリアしたり、作中様々な条件で入手できるお金を使って絵馬を購入することで入手できるCGが存在します。
内容としては主に立ち絵の設定資料などですが、そちらが107枚。
……いずれにしても凄まじい量であることには変わりありません。いや凄いわ(^^;

音楽とか ※音声はありません
BGMはPCM方式で収録、全52曲。うち3曲がボーカル曲です。
……ってサラッと書いてますけど52曲ってとんでもない曲数ですね。
中には『stay night』で使われたもののアレンジなどもありますが、多くは新規に作曲されたもの。
ちょっとエロゲではあまり見ないボリュームかと。まずはゲーム同様の圧倒的ボリュームに感服します。
1シーンしか使われていないような贅沢な使い方ができるのもこのボリュームならですね。

さて肝心の質の方はというと良くも悪くもBGM的な枠に収まっている、と言えばわかりやすいでしょうか。
ゲーム中での使われ方としてはいずれも場面に合っていて良かったと思います。しっとりした曲、熱く燃え上がる曲いずれも役割は果たしていたかと。
ただ一方でゲームを終えた後に、なお耳や心に残る曲はそれほど多くありませんでした(^^;
あくまで添え物としての役割に徹していて、ゲームのBGMとして及第点ではあるものの誉めるほどのものではないというのが正直なところです。

そんな中での個人的お気に入り曲を挙げると『hollow(intro)』『stranger』『legend』『encounter』あたりでしょうか。
ボーカル曲がいずれも自分に合わなかったのが痛いです。


音声は特になし。『stay night』本編もそうでしたし賢明な判断だと思います。
これに音声を付けていたら……というより奈須さんの文章に音声をそのまま付けても決して良作にはならないでしょうし。

シナリオ・その他
大ボリューム、超充実。でもボリュームの割に浅くない?

う〜ん、このゲームに関しては苦言を呈するだけでも怖い人に叩かれる可能性があるので書きにくいことこの上なしなのですが、1行でサクッとまとめるとこんな感じですかね。
ま、これだけじゃ当然何のことやらわからないと思いますので簡単に説明を。

まず最初に誤解がないように書いておきますけど十分に面白かったです。
世間一般のファンディスク水準から比較すれば勝負にすらなっていません。
「ファンディスク」と名のついた商品に常にこのクオリティを求められるのであれば、世のほかのメーカーは絶対に作ろうとすら思わないでしょう。
ねこねこのファンディスクは例外的にコストパフォーマンスがいいですけど、あれはバルドシリーズというリソースがあればこそできることですから。
『歌月十夜』も同様でしたが、これは過剰なまでのサービス精神と汚い話ですがそれを実現するだけの資金含めた余裕がある彼らにしかできないことだと思います。
実際『Fate』はお化けタイトルですよね。
去年出た作品なのに聞いた話では今年になってもまだ軽く1万本以上は出荷されてるということですし(^^;
まあその出荷数の話は置いておいて、とにかく詰め込めるだけ詰め込んだ――そんなお祭り作品なので少なくとも元作品が好きな人が買って損をすることはないでしょう。

内容は大きく分けて本筋とも言うべき「8人目のマスター」バゼットの話、シリアスなショートエピソード、コミカルなショートエピソードの3種類。
どれも一定レベルの面白さは十分持っていると思いますがバゼットの話とシリアスエピソードはさすがの出来。
特にバゼットの話で数回行われる戦闘描写は『Fate』本編に勝るとも劣らない盛り上がりで読んでいて自然アドレナリンが出るのを止められませんでした。
終盤、エクスカリバーを構えるセイバーの姿を見たときには思わず涙が出そうになりましたよ?(没入しすぎ)
シリアスなエピソードは各サーヴァントの過去を主軸にした話が多く、そのいずれも良い話なんですが数多くのエピソードの中でも出色の出来だと思ったのはキャスターの話でしょうか。
かつてあった世界で葛木を亡くしたキャスターの心情を描いた話なんですが、あれは一見の価値があると思います。
むしろ本編に入れても良かったのでは?(まあ本編作ったときはあそこまで愛情を持っている設定がなかったかもですが)


……さて、で、ここからが「苦言」なんですがコミカルなエピソードについて。
これがどうにもいただけません。
いや「いただけません」はちょっと言いすぎか。
この部分についても正直なところ十分に面白いです。別に大笑いしたりっていうのはないですけど、聖杯戦争のあとにありえたかもしれない日常として楽しく、かけがえのない物として上手く扱われていると思います。
このパートがあるからこそ「繰り返す四日間」という異変に気付きつつも修正に動かないサーヴァントたちの気持ちもわかるし、キャスターやライダーについては過去話でこのパートと絡んだ話もあったりするんで否定するつもりは全くありません。
ただ、それでも。
「玉に瑕」という言葉そのままに1点だけ気になることがあるんですよね。


同じネタ使いまわしすぎじゃない?

各所で言われているようにどうにもアンソロジーくささが気になります。
例えばセイバーだったら「腹ペコキング」、凛だったら「守銭奴・暴力的」、キャスターだったら「新婚ノロケ天国」、ライダーだったら「高身長コンプレックス」……特にセイバーとキャスターはそのネタばっかりだったような気がします。
もちろんこれらは本編にも出てきた要素ですしコメディなんだからそこを強調するのはアリでしょう。
なんですけど、そればかり使いまわすというのはアンソロジー作品と同レベルになってしまうのではないかと。
だってこの辺のネタって、そんなにFate同人を買っていない自分でも何度か目にしたことがあるレベルのネタですよ?
恐らくはアンソロジーコミックなんて買おうものならゴロゴロ転がっているんじゃないでしょうか。
個人的にはせっかくオフィシャルで作るんですから、意外だけど納得できちゃう…そんなキャラの一面をもっと掘り下げて欲しかったなと。
なまじボリュームが大きいだけに似通ったネタの反復が目に付いてしまうというのは皮肉な話ですね(^^;

総評
う〜ん、全体としては面白かったんだけどなぜか細かいところに言及していくと微妙な感じになっちゃうんだよなぁ。
このブランドの描く日常はまだしもコメディとは相性がそれほど良くないのかもしれませぬ(´Д`;

まとめ。そうは言いつつも遊んでおくべき1本。
「シナリオ・その他」の項では色々書いてますが「玉に瑕」レベルであって、これが良作レベルであることは間違いありません。
自分が挙げた瑕疵も人によっては気にもしないでしょう。
次の新作となるとまた1年半以上は待つことになるんでしょうが、それのファンディスクが出るときにはこの難点も解決してくれると信じています。
……って彼らの次の作品のファンディスクっていうのが出るころには2010年くらいになっていそうですけど(笑)

書いた時点での総プレイ時間 36時間30分(本編コンプ、ミニゲームは未攻略)
お気に入りのキャラ ランサー・(キャスター・ライダー)
お気に入りのセリフ 「宣言するとね。一緒に幸せになるんじゃなくて、わたしが、問答無用で、他の誰よりも、彼を幸せにしてあげるのよ」(アナザー遠坂)

初版2005/11/29