歌月十夜(同人)
サークル TYPE-MOON 総合評価 80点(良作)
ジャンル NOV
発売日 コミックマーケット60(2001/08/10)
シナリオ 奈須きのこ 「同人の限界」に限りなく近づいたと言われる「月姫」のオフィシャルファンディスク。同人のファンディスクは初か?
1500円でどこまでできるのかに注目された。
原画 武内崇
サウンド KEITA HAGA


個人的エピソード
「月姫」本編が気に入ったので迷わず買いました。
運良くサークル入場できたので、手早く買えましたがその時貰った
うちわを会場のどこかに落としてしまったのは、また別のお話(´Д`;

内容
トンデモナイ夢を見た。もう、とにかく支離滅裂で、
トンデモナク楽しい夢だったのか、トンデモナク恐ろしい夢だったのか
それさえも確かじゃないぐらい、ごちゃごちゃした夢を見た――――

窓の外には白い雲。
ほんの少し眠っている間に一度きりの暑い夏が
もうそこまでやってきていた――――

―――― 今宵、影絵ノ街ニテ君ヲ待ツ ――――
(サークルHPより)

システムとか
必要容量は約160MB。相も変らぬ低容量です。
ゲーム自体は前作「月姫」同様、高橋直樹氏制作のフリーソフトNScripterで動作していますが、バージョンアップの結果前作より便利になっているのではないかと。

セーブ数は20個。セーブする状況がほとんどないのでこれだけあれば十分でしょう。困ることはありません。

スキップは強制スキップと既読シーンスキップを搭載。
今回は既読シーンについて「どのようなシーンか」がシーンタイトルで表示されるようになって、便利度さらにアップです。これで以前のように「今どの辺りのシーンなんだろう?」と悩むことがなくなりました。

前作にはなかったバックログも今回は用意。
ただ、このバックログは「全体を幾つかのブロックに区切り、そのブロック頭までは戻れる」という
割と特殊な形式になっているので使い勝手がいいかと言われると疑問は残ります。
まあ、あるだけありがたいので贅沢は言えないんでしょうが…。

鑑賞系はCG鑑賞のみ。やっぱりBGM鑑賞くらいは欲しいですね。

さて、このゲームは有り体に言ってしまえばループ物です。
「黄昏草月」と呼ばれる本編があり、何度もループし様々なフラグを立てることで
「夢十夜」というサブシナリオが出現したり、あるいは「黄昏草月」そのものが進行していきます。
1ループの長さがあまり長くないこと、既読シーンはスキップできること、
1度立ったフラグは消滅しないことから作中のセーブはほとんど要らないのは
便利なんですけれど……この構造ゆえに難易度はかなり高めです。
#ループ物は特有の“話が進んでいるのかわからない”という問題で難易度が上がりやすいですけど(^^;

「黄昏草月」の本筋にしても、イベントCGにしても、「夢十夜」出現にしても
複数回プレイに渡ってフラグを立てなくてはならない物が大半ですし、
中には見逃してしまうと再インストールして挑戦しなくてはならないCGもあります。
かなり詳細なヒントモードが用意されてはいますが、「見逃すと回収不能CG」はちょっとやりすぎかなぁと。
ループ物なのに取り戻せないとはこれいかに?(ぉ

しかし、このCGの件以外は難易度が高いとはいえヒント機能は親切ですし、
システム自体は安定していますので大きな不満はありません。

絵とか
同じ人が描いているので当然と言えば当然ですが、通例イラスト色が強い
ゲーム原画の中においては異彩を放つマンガ的な絵を描く方です。

絵周りに関しては、原画のクオリティアップもさることながらイベントCGの塗りが随分改善されました。
これなら一般市場に出回っている物ともある程度は渡り合えそうです。
#あくまで「ある程度」であって見劣りはしますけど(^^;

前作では塗りの粗さが大きな不満の一因だったので、この改善は嬉しいところ。

枚数は鑑賞モードによれば56枚。
パターン違いを除くと50枚といったところでしょうか。
鑑賞モードではこの他にゲストイラスト14枚、投稿イラスト105枚が
参照可能ということも一応付記しておきます。
いずれにせよファンディスク的作品に収録される枚数としてはかなり多い部類かと。

音楽とか ※音声はありません
BGMはCD-DAで再生、全17曲。
うち、この「歌月十夜」用の新曲が10曲です。
質の方は水準やや上といったところでしょうか。
出来にバラつきが目立つのが惜しまれます。

曲数が増えたことで前作で不満として挙げていた「意味のない無音」のシーンが減ったのが個人的にはありがたかったです。
ただ、我が家では1度だけBGMの再生ができなかったことがありましたが(^^;

新曲の中でお気に入りは「静寂」と「少女」。
……またピアノ曲かよ、というツッコミは受け付けません(爆)

シナリオとか
いかにもファンディスク。
例によって一言で評するならばそんな感じです。

大きく「黄昏草月」「夢十夜」に分けられるのでまずは前者から。

システムの項で若干触れたように、このソフトはループ物です。
そのループの原因であり、「黄昏草月」全体の根幹となるストーリーは「月姫」同様極めてシリアスなものでありながら、CG回収や十夜回収に関わってくるイベントなどの寄り道はおバカなギャグテイスト満載。
もちろん萌えもあります(笑)

普通1つにパッケージングするとどちらかに寄ってしまう気がしますが、
このソフトに関しては「」というファクターを使うことでループも、
シリアスとギャグが混在するシナリオ構成についても解決させています。

勿論、これはどちらも一定以上の質が保たれていてプレイヤー側に不満を感じさせないから
というのもあるわけですが(^^;
二転三転するシリアス部分の展開も、笑えたり萌えたりする寄り道部分も大変楽しめました。
体操服秋葉、萌え〜。アルクのセーター着た翡翠、萌え〜(バカ

あと、前作と比べて冗長性が格段に下がりました。
既読スキップの活用頻度が上がったというのもその1つですが、全般的に修飾過多な傾向が見られたテキストがスリムになっている気がします。
前作、私はそれほど気になりませんでしたがテキストの過剰描写を気にしている方も
いたようですので、そういう方には嬉しいかも。


で、「夢十夜」についても少々。
こちらはノベルアドベンチャーのシステムを利用したSSというのが正しいかと。
全部で10話(うち3話は投稿作)ありますが、選択肢があるのはうち1作ですから。
イメージとしてはオフィシャルのDNMLというのが近いですかね(ぉ

内容は本編後日談、外伝など。
ややギャグ比重が高いきらいはありますが、どれもなかなかレベルは高いかと。
あ、Hシーンがあるものもありますね。しかも丼物が(ネタバレ)
個人的なお気に入りはギャグならオススメは「知得留先生」と「コン・ゲーム」
シリアスなのは3本あって、どれも好きですが1つに絞るなら「黎明」ってとこです。


この作品単品では決して楽しめない上に、十分に楽しむためには設定資料集レベルの知識が必要というのは
「ファンディスク」と銘打っているとはいえ若干敷居が高すぎる感がないわけではないですが、
これらの敷居を跨げたならばシナリオの質は前作同様高いですからまず間違いなく楽しめるかと。

……レンもかわいいですしね(マテ

総評
お祭りを堪能させていただきました。いや、満足です。

まとめ。ファンディスクの模範的作品。

「ファンであればあるほど楽しめる」点と「ファンでなければ面白くも何ともない」点の
双方を踏まえた上で、ファンディスクの模範だと思います。
そしてファンディスクとはそもそもファンしか買わない物だから、それでいいのです。

もっともシナリオ面で書いたように、もうちょっと敷居が低くてもいいような気がしなくもないですが(^^;
(ほとんどキャラ説明とかないですから)

しかしながら1500円でここまでの物をファンに提供できるアマチュアがいることに素直に脱帽です。
これこそが本来プロが持つべき意識なのでは?

点数はファンディスクにファンが点数をつけること自体がバカバカしいので「月姫」本編に倣って85点。
そこから敷居と難易度の高さを踏まえて5点マイナスで80点としておきます。
とりあえず月姫が気に入っている人なら買うべし。

書いた時点での総プレイ時間 15時間(コンプ)
お気に入りのキャラ 遠野秋葉・アルクェイド・レン・翡翠
お気に入りのセリフ これといってなし
…というか「セリフとして好き」というより「シーンとして好き」ってのが多いので

初版2001/08/23