月姫(同人) 
サークル TYPE-MOON 総合評価 85点(良作〜名作)
ジャンル NOV
発売日 コミックマーケット59(2000/12/29)
シナリオ 奈須きのこ 一時期は最も入手困難と言っても過言ではなかったソフト。口コミで売れていくという古きよき同人的な売れ方が特徴……なのかなぁ。
やる時には睡眠不足と時間確保に注意!
原画 武内崇
サウンド 芳賀敬太


個人的エピソード
とある掲示板で割とセンスの合う人が誉めていたので購入。
その後、ネット上で大いに話題になり今や超有名同人ソフトに。
私が買った頃は普通に棚にあっても誰も買わなかったのに(^^;

内容
子供の頃の怪我の後遺症で「モノの壊れやすい線」が見えてしまう主人公「遠野志貴」は、
8年間預けられていた家を離れ、実家に戻ることになった。

古い洋館での、すでに他人のような妹、そして二人の使用人との新しい生活が始まる。
時を同じくして多発する猟奇殺人事件。被害者は一様に全身の血液を抜かれていた。
ある出来事をきっかけに、志貴は吸血鬼達の壮絶な戦いに巻き込まれて行くことになる。

純白の吸血鬼は微笑む。

「私を殺した責任、とってもらうからね」
(パッケージ裏より)

システムとか
必要容量は約110MB。最近じゃ負担にもなりませんね。
高橋直樹氏が配布しているフリーソフトNScripterを使って作られています。
いわゆるビジュアルノベルに求められる機能はバックログ機能を除いて一通り揃っていると言っていいでしょう。
(バックログだけは元のソフトのバグか、強制終了してしまうため実装は見送ったそうです)
セーブ数は20個。
割とよく死ぬゲームですが^^;バッドエンド時にはヒントが貰えますし、ギリギリ事足りるレベルでしょうか。
私の場合は攻略使って遊んだので十分足りましたけど。
スキップは選択肢までの強制スキップとシーン単位で飛ばす既読スキップが用意されています。
既読の方は「果てしなく青い、この空の下で…。」をプレイ済みの方はそれをイメージしてもらえればほぼ正解です。
先にも書いたように読み返し機能はありません。それだけが残念。
鑑賞系はCG鑑賞のみ。音楽かシーン回想かどっちかは欲しいかと。

でもまあバグとかもありませんし下手な市販品より安定してます(爆)

絵とか
ここの項目はやっぱり同人、といった感が否めません。
キャラデザ自体は線が少なめですっきりしていて(マンガ的とでも言いましょうか)
割と大衆受けしそうではありますが、塗りの粗さが少々目立ちます。
やはりこの分野ではプロ作品に一日の長がありますね。
#中にはプロ顔負けな塗りのソフトもありますけどね、「Remel」とか(^^;

でも枚数の方は十分に多く、鑑賞モードによると133枚。
パターン違いを除くと115枚ほど。うち約半分がHシーンです(ぉ
個人的にはHシーンのCGを減らして本編CGもうちょっと増やして欲しかったです。
ま、塗りの粗さとか私はそれほど気にしない性質なんで結構絵は気に入ってるんですけどね。
アルクェイドも秋葉も翡翠も琥珀さんも弓塚さんも可愛いじゃないですか。
↑誰か1人忘れてます(ぉぃ いや、シエル先輩もいいですけどね。

音楽とか ※音声はありません
BGMは全10曲、CD-DAで再生されます。
質の方は別段高くも低くも無いといったところですが、作中での使い方はなかなか上手く、
しっかり雰囲気にあった曲が選ばれています。
ただ、曲が流れるシーンでの使い方はいいのに無音時間が長すぎます。
それも効果音もほとんどないので完全な無音。
(この辺が先にも書いた「青空^^;」とかとの違いですね)
緊張感を高めるシーンではそれも可ですが、
何かしら曲があった方がいいようなシーンでも無音が多かったのはちょっと残念でした。

個人的には曲数を1.5〜2倍まで増やして欲しいところ。
お気に入りは回想シーンとタイトルの曲。どっちもまたピアノ基調です(^^;

シナリオとか
一言で表するなら正統派一人称伝奇ノベルです。
「雫」「痕」時代のリーフの系譜を継いでいると言えばわかりやすいでしょうか。
バトル有り・主人公の特殊な力有り・旧家の謎有り・狂気性有り・葛藤有り失われた記憶有りと
この手のモチーフはおよそ全て網羅されています。
テーマとしては面白いのでしょうが書くのは難しいネタですね。
既に面白い作品が何本も出てますから。

シナリオは「月の表面」と「裏面」の大きな2つの流れに分かれていて、
アルクェイド・シエルが表、遠野家の面々が裏という形になっています。
先に挙げた要素のうちバトル・主人公の力のあたりが表面には多く出てきて、
他は裏面に多く出てきます(狂気性は両方に)。
相互に直接的繋がりはありませんが情報の補完関係はあるといった作りです。
こういう作りには滅法弱いので非常に気に入りました。
サークルさんの公式見解もそうですが、私も表→裏の順でクリアするのを推奨します。
そっちの方が色々わかりやすいですし。
話としては表の方がすっきりとした終わり方で好きなんですけど(^^;

さて、脱線したので再び解説へ。
シナリオの質は一般市場に出回るソフトと比較しても突出しています。
非常にボリュームがあるのに飽きさせることがありません
音声なしで初回プレイに7時間以上、総プレイ時間にして30時間はかかるにもかかわらず、です。
普通は長時間やっていると面白くてもそれなりに飽きてくるものなんですが…。
また、こういった一人称ノベルにありがちな主人公とプレイヤー間の情報格差もあまり感じませんでした。
これは大したものなのではないかと。

まあ、とにかく長いのに一気にプレイさせ、息をするのも忘れてしまうような面白さは
ここ1年ほどでは「ファントム」以来の感覚でした。
伝奇系にはうるさい方だと思いますが、バトルの興奮・謎や狂気での悩み・泣きと
モチーフ同様、伝奇物に私が求めている感情は全て与えてくれたので満足です。
これで笑えるおまけシナリオとか、シナリオ後日談とかがあればまさに完璧だったんですけど……
まあ、これは多くを望みすぎというものかも(^^;
今後の展開に期待、ですかね。「太陽」の続きとか読みたいなぁ(謎

総評
同人もバカにできません。というかこれが\2500で市販の駄作が\6000って世の中間違っている気がします。

まとめ。限りなく同人の限界に近づいた作品。次回作も期待。
往年のリーフ的作品をまさか同人ソフトで拝めるとは思いませんでした。
シナリオ面では最上級。ただ絵や音楽的演出面には同人ならではの拙さが。
その部分が改善されたら、それが同人ソフトの限界点だと思います。
値段もお手ごろだし、是非やってみてください。一見の価値はありますよ。

書いた時点での総プレイ時間 約30時間(コンプ)
お気に入りのキャラ アルクェイド・遠野秋葉
お気に入りのセリフ 「私を殺した責任、とってもらうんだから」
「だったら簡単だ。動いて触れられる物なら俺の敵じゃない」
「なぁんだ…兄さん、知って…たんだ。…わたし、バカみたい…」

初版2001/02/06 最終更新2001/11/12