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台湾明星コーナー
2002年11月号 香港ESQUIRE雑誌 NO.168より
「陶吉吉の黒色柳了哲学」 PART I

1997年陶吉吉が代表曲である「愛很簡単」で香港の歌謡界に現れたとき、彼の実力はもちろんだが、その独特な名前が人々の注意を引いたと思う。陶吉吉の2枚のCDはアジア各地で爆発的に売れていた時でも、台湾で「音楽の師父」と呼ばれるこのシンガーソングライターは、音楽市場の慣例通りに出せるカードをすべて見せることもなく、公けの場所にほとんど登場しないまま3年をすごした。陶吉吉は「実にクールで、かっこいい」と台湾で言われる。 30歳という男性としての人生の一つの節目を過ぎた陶吉吉はこんな風にいう。「前に向かって歩いていくだけ、自分の人生をコントロールする一式のリズムだけを身につけて、、、」

「芸能界の異端児」

陶吉吉が最新アルバム「黒色柳了」を今年(雑誌が出た2002年)8月に出した頃、回りでは頻繁に陶吉吉とJAYを比較するようになった。さらには、2人が仲が悪いというようなデマまで流れるようになっていた。しかしながら、32歳の陶吉吉にとっては、この様な音楽界における人気の度合いなど、何の意味ももたない。彼にとって重要なことは自分の理念をしっかりもって、本当に好きな音楽を創作していくことなのだ。業界に迎合して人気取りに奔走するようなことは、タオの音楽の世界には入り込む余地はない。完全に3年間沈黙を守ったあとにCDを出したタオは、音楽業界で異質な存在だ。「黒色柳了」を通して彼が発するメッセージは、ただひたすら自分の決めたこと、自分の信じる企画をやり通す意思を持つことの大切さだ。そして、混沌とした環境の下で、何があっても動じないで、自分の目標を達成することの大切さだ。音楽業界における競争がどんなに熾烈なものであっても、陶吉吉はきっといつものように、一言「I’m OK」って堂々と言うことだろう!30歳という一つの境界線を越えたタオはこんな風にいう。「前に向かって歩き続けるだけ。自分の人生を操縦するリズム一式だけを身に着けて。」

もしも黒色柳丁の特別版が発売されなかったら、(タオのファンを含む)皆は、「音楽の師匠」とよばれる陶吉吉という複雑な存在のシンガーが一体どんな容貌をしているのか未だにはっきりとしないままだったに違いない。インタビューを行った日曜日の早朝、記者自身まだ眠たくて朦朧としていたのに、陶吉吉は元気一杯にESQUIREのオフィスにやってきた。数年前に出したCDのはっきりしない写真と比べてみる。この「音楽の師匠」は長髪でもなく、ひげをのばしているわけでもない。彼をみた印象は前よりずいぶんと若返ったのではないかということ。既に30歳を過ぎたなんて、全く見えない!更に、記者は神秘的な印象の陶吉吉が、絶対に夜型人間だと思い込んでいた。創作にたずさわる人間は一般的に夜が深まるにつれインスピレーションが鋭くなっていくはずだから。しかしながら彼の答えは意外なものだった。「人によっては夜のほうが邪魔が入らずにいい仕事ができるっていうよね。でも僕は夜深しする人間ではないんだ。太陽の光は僕にとって大切なもの。どちらかというと規則正しい生活がすきなんだ。昼間はずーと仕事をして夜になる感覚が特にいい。昼間のエネルギーをそのままずっと夜まで持ち続けていくのがいいな。僕の創作は2種類の異なる要素と気分が融合している。太陽のように明るいムードと、夜の暗闇のような別の一面。」

世間は冷たすぎる、思いやりが少なすぎる
創作とはその人間の個人の思想を反映するものである。陶吉吉の新しいCDと以前に出した2枚のCDの最大の違いは、その新しいCDに浸透している強烈な社会意識であると思う。新CDの中の「今晩のニュース」に、陶吉吉はこの一年間に台湾で起きた幾つかのニュースを選び、約2分間の長さに編集した。このテレビのニュースは政治のスキャンダル、自然災害、性犯罪まで網羅されており、世間に対する批判となっている。「現在、台湾と香港の景気はすごく悪い。悪いのは必ずしも経済だけではない。最大の危機は人と人との間の係わり合いがどんどん少なくなっていることだと思う。人間同士のコミュニケーションや思いやりがどんどん少なくなっているような気がする。そして怖いことは、皆にそのような事態が見えていないことだ。僕は社会に対して悲観的なわけではない。ただ、皆がこのような問題に耳を傾け、認識することを祈っているだけなんだ。世の中は毎日たくさんの悲劇が起きている。そして、そのような悲劇がマスコミに弄ばれていることが、実に悲しいって思うんだ。」
 「人」は、陶吉吉が最も気にかけているテーマである。彼の作品には現代人の生活に対する思いがこめられている。「僕は本当に人が大好きな人間なんだよ。もしも一般的に物を大雑把にみるだけの観光が旅行だとしたら、僕は絶対旅行を好きにならない。僕が重視するのは人間との接触なんだ。旅の途中で見知らぬさまざまな人を知り、交流する。そういう楽しみが、本当の旅を体験することだと思う。」
 感受性の鋭い陶吉吉は、現在の社会は冷たすぎると思っている。流行ばかりが幅をきかせ、人間の息吹が少なすぎると考えている。目先の利益をいかに早く掴むかということを人生の哲学にしている人がほとんどではないだろうか。「中国人はお金と地位を持ってして人生の成功とすることが好きだ。僕は中国人はそういう点で負けてしまった民族ではないかと恐れている。たしかに中国人は国際舞台の上で一つの地位を築いてはいる。とくに経済に関して非常に優れている。けれでも、中国人は芸術や文化の発展や人間の精神的な培養を軽視する傾向があると思う。その結果、社会は滅茶苦茶になってしまっている。中国人は蜂の巣を愛するだけで、社会意識が薄弱だ。老子の「道徳経」は実際には中国人に道徳意識がかけていることを風刺しているのだと思う。」 陶吉吉は、歌手以外にも社会奉仕活動に従事するのに適しているように思われる。「世の中にはたくさんの大金持ちがいる。でも僕はその人たちをうらやましいとは全然おもわない。お金があっても幸せとは限らない。このような話をすることが古臭いことだってことはわかってるよ。でも僕がいいたいことは、金持ちイコール成功ではないってことなんだ。」
 たくさんの人がスターは社会に対する使命感を持つべきだと思ってる。でもそれは必ずしも表面的な慈善活動をやることだけではない。「百万行」に参加したり、歌をうたって募金を募ったりでもいいだろう。使命感とは本来自分の内面にある思想を外に向けて発することであるのかもしれない。

つづく (PART II)

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陶吉吉