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台湾明星コーナー
2002年11月号 香港ESQUIRE雑誌 NO.168より
「陶吉吉の黒色柳了哲学」 PART II

「敵は自分」
陶吉吉という人は、単刀直入、社会への鋭い洞察力をもち、更には社会への責任感も感じている。彼はこんな風にも言う。「(多くの人が)自分が見慣れない目障りなものを見ると、それを避けてしまうんだ。」新譜のなかで、美しいラブソング以外は、彼の人間に対する憂慮が描かれている。又、彼が理想とする世界観も描かれている。「DEAR GOD」。これは、彼が911の悲劇を知った時の衝撃を即座に歌として表現したものだ。「911のおきたその日僕はロサンゼルスにいた。あの惨劇が起きたときロスは午前5時だった。まだ眠りの中にいた僕にニューヨークの友達が電話をしてきた。長い時間、呆然としてしまった。頭が働かなくなり何も考えられなくなった。動くこともできなかった。テレビの映像は全て作り物であればいい、映画のシーンであればいいって強く願った。そのとき、僕は泣きたかった。でも泣けなかった。この事件の後、僕は一つのことを悟った。人間の最大の敵は実は自分ではないのかと。911の悲劇は一つの政治的な事件でも、一つの宗教戦争でもない。この事件はまさしくHUMAN TRAGEDY(人類の悲劇)そのものなのだと思う。僕は、次の世代が自分以外の他人を受け入れ、親身になって理解し、そして愛してほしいって強く思う。」現在外見ばかりにこだわり、実力を的確に評価しない今の音楽業界は、イメージと露出度が全てとも言ってもよいかもしれない。陶吉吉は、そのような芸能界のあり方に我慢はするが、妥協だけは決してしない。「僕の仕事のやり方はアイドル歌手とは違う。かれらは一年に6、7回とプローモーションを行う。さまざまなテレビ番組に出演する。僕はそういうことはできない。僕は意図的に身を隠したり、神秘的であろうとしているわけではない。ただ、香港と台湾における音楽環境はどこか変だ。自分になかなか合うものがないというのが現状かもしれない。音楽が香港や台湾では純然たる娯楽、ゲームになり下がってしまっているのではないかと僕は思うんだ。」

「3年間の沈黙は非常にロマンに溢れている」

一般の人の目で、陶吉吉の音楽と、音楽市場の中でインスタント食品のように現れ、綺麗に着飾ったアイドル歌手たちを、単純に比較することはできないだろう。陶吉吉のように信念をもち、それをやり通す強い意思を持つクリエイターだからこそ、仕事が最高潮に達しているときに、広い世間から身をかくすなどという大胆なことができるのだろう。3年余りの時間を費やして、新譜をだし、その間、何のプロモーションも行わず、更には、少しだけ顔を出して、挨拶をする程度のことすら全くしない。それは強い信念があってこそ出来ることだ。普通の人は、「顔を売る」プロモ活動をすることが当たり前と考えている。それに対して陶吉吉は、する必要がなければやらなくてもいいというスタンスだ。自分の理想を貫くことが出来る、自分の好きな音楽をやり通す、そのこと自体が、ロマンで一杯なのではないか。
 「実は僕は規律を重んじ、計画性のあるタイプなんだ。3年の間、表舞台にでることのない生活を送っていた時にも、僕は一生懸命音楽の創作はがんばってきた。聴衆に忘れ去られてしまうことを僕が心配していたかどうか当然質問したいよね?もちろん不安だった。不安を感じないなんてことはありえないよ。でもね、世界はこんなに汚染が進んでいる。僕はいい加減な仕事をして、これ以上環境を汚すようなゴミを世に送り出したくないんだ。この3年間、ある作品を創作するのに、必死になってきた。僕がそんなに必死になっているところを人に見られることは、別に怖いことではないし、本当の自分を他人に見られてしまうことについても、僕は全然気にしない。音楽界の中での地位、さらにはトップに名を連ねることに対し、僕はそれほど必死にはなったりしない。だって、どの道、永遠にトップの座にいられる人間なんていないのだから。」

心のおもむくまま、率直、そして真面目。これらは、タオの音楽製作に対する姿勢である。誰もが彼に対して、彼の嫌がる作品作りを強要することはできない。「僕は自分のやり方というものをもっている。これに関しては、レコード会社が僕から取り上げてしまうことはできない。僕の歌作りは、ちょっと遅いかもしれない。適合させたり、調整したりはする。ただ、どんなことがあろうとも、自分をBURN OUT(燃え尽きる)させてしまうようなことはしないつもりだ。僕はアイドル歌手ではない。彼らは一年に何枚ものCDを出している。でも彼らはBURN OUTはしないだろう。なぜなら、彼らはもともとBURN OUTするものを持っていないからだ。」 何もきにしない男性が、物事をとことんやり抜く強い意志をもつ男性になることはほとんどないだろう。

つづく PART III 

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陶吉吉