病院へ行こう! その2
電話の次の日、早速航空便でシーウェイからサングロイアまでのシャトルのチケットが届いた。
片道分のチケットには座席指定の文字「B」が踊っている。
もちろんエコノミーしか乗ったこと無いあたしは多少緊張しながら、当日そのチケットを握りしめて空港に立っていた。
休日ではあるものの、連休とは全く関係ない日取りのために構内の込み具合は我慢できない程のものではない。
お見舞いに持っていくお花はサングロイアで買おうと決めていた。
他には昨日、いつきさんに教わって焼いた紅茶のクッキーを持っている。
空港に少し時間前についたので、心配性のお母さんに一本電話を入れておくことにした。
一週間に一度は連絡をよこせっていうのが口癖なんだから。
「うん、今度の連休に、ゆっくり帰るから……うん……うん、それじゃ。」
電話を切ると、あたしは時計を確認してカウンターへ向かった。
名前を名乗ると、ハイランドクーリエ発シーウェイ経由サングロイア行きの搭乗口へ案内される。
と、その時。
同じ便に乗る人たちの列に並んだあたしの肩を、後ろから誰かが叩いた。
何だろうと振り向いたあたしの目の前には、軽いくせのある髪に縁取られた悪戯っぽい笑顔がある。
「真奈美さん!」
驚いたあたしは、思わず彼女の名前を呼んでしまう。
皆井 真奈美さん。
ファランクスチームのドーラー。
簡単に言えば肩書きはそれだけだけれど、彼女の頭脳にはあたしなんかが及びもつかないような沢山の知識と知恵と悪戯心がつまっている。
「やっほ、よしゆきちゃん。
多分目的地は同じだと思うんだけど、どう?」
真奈美さんは片手でピースをして、もう片方の手で持っている搭乗券をあたしに見せた。
その中には確かにあたしのものとほぼ同じ文字が並んでいる。
まるで間違い探しのように、座席番号がひとつだけ違っていた。
「あはっ、確かに同じ行き先みたいですね。」
きっと、彼女もあたしと同じような経緯でチケットを入手したんだろうな。
そうじゃなきゃ、同じ便の隣座席だなんんて考えられないもの。
「旅は道連れ世は情け。
行きましょ、よしゆきちゃん。」
「はいっ。」
真奈美さんに肩を押され、あたしは彼女と一緒にSSL惑星間旅客シャトルに乗り込んだ。
サングロイア宇宙港につくと、鶴見さんが迎えに来てくれていた。
先日の通信時と同じ赤いルージュをきちっとひき、かっちりしたスーツに身を包んでいる。
「この度は、サングロイアまでご足労頂きまして……。」
と、まるで測ったように正確な角度で頭を下げる。
「いえっ、とんでもないですっ。」
あたしは慌ててお辞儀を返した。
真奈美さんも落ち着いた仕草で返礼をする。
「では、ご案内致しますのでこちらへ。」
背筋をぴしっと伸ばした姿勢で、鶴見さんはあたしと真奈美さんを先導する為に歩き出す。
「流石、新星パワーってところかしらね?
ひょっとしたら、これからもっと驚くような事が待ってるかもしれないわよ?」
真奈美さんがあたしだけに聞こえるようにそっと耳打ちをする。
チケットをぽんと送ってくれたり、鶴見さんが迎えに来てくれた事だけでも充分驚いていたあたしは、彼女の台詞に眉をへの字にしてしまった。
ええ〜っ、これ以上驚く事があるっていうのお?
しかし、鶴見さんが案内してくれた空港の屋上で確かにあたしはもっと驚愕する事になった。
そこには、一機のヘリコプターが待機していたのだから。
「こちらのヘリで病院まで直行致します。
どうぞ。」
鶴見さんは落ち着いた様子で、ヘリコプターの後部座席へ通じるタラップにあたしと真奈美さんを案内する。
「ほら、よしゆきちゃん。
ぼうっとしてないで乗って乗って。」
真奈美さんはあたしの驚きっぷりが可笑しかったのだろう、くすくすと含み笑いを漏らしながらあたしの背中を押した。
「えぁ…は、はい。」
彼女の手で我に返ったあたしは、緊張しながらタラップに足をかけた。
ペリコプターに乗るのなんて、はじめてだよお!
運転手さんを含めて四人が乗り込むと、ヘリコプターはローターを回転させはじめる。
あたしはまるで小さな子供のように、窓に張りついて眼下に広がる小さくなってゆく宇宙港と風景をみつめていた。
<続劇>
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