病院へ行こう! その5
理沙さんに暫しの別れを告げて、病室を出た後。
また鶴見さんの案内で屋上まで歩きながら、あたしは真奈美さんとお喋りをしていた。
「良かった、理沙さん元気そうで。」
「そうね。
ね、よしゆきちゃん、先刻なにか…困ってたでしょう?
どうかしたの?」
真奈美さんは鋭い。
ひょっとしたら、先刻彼女が言っていたようにあたしの周りでは誰もが鋭くなってしまうのかもしれないけど。
「ええ、お花……買いそびれちゃったんですよね。」
鶴見さんに聞こえないように声を小さくして、あたしは素直に告白する。
いろいろ心を砕いてくれた彼女に、これ以上気を使わせたくなかった。
「ふぅん、なるほどね。」
あたしのその一言だけで、彼女はあたしがお花を買いそびれたその理由まで察しがついたみたい。
それ以上の説明を求めたりはしなかった。
「でも、よしゆきちゃん。 気にする必要ないわよ。
だって、あのお部屋の花瓶、見たでしょう?」
真奈美さんがいつもの軽い口調で言う。
そう言われてみると、確かにあのお部屋の花瓶は一杯であたしが新しくお花を持っていったとしてもいける余地はなかったかもしれない。
あたしは小さく頷いた。
「……ね? 気にしなくても大丈夫よ。
それに、これは私の勝手な推測だけど……あれ、ゼルヴァくんが持ってきたんじゃないかなあ。」
「……え。」
あたしは、小さく呟いて隣を歩く真奈美さんの顔をまじまじと見上げてしまう。
ゼルヴァさんと言えば理沙さんの彼氏だ。
いつも口ではいろいろ言ってるような噂が流れてるけど、やっぱり理沙さんが一番大事なのかな。
……うん、そうだよね。
あたしはなんとなく笑顔になってしまう。
だって、やっぱり理沙さんには幸せになって欲しいもの。
「勿論、違う可能性だってあるけどね。」
真奈美さんは意味深に付け足す。
それは、一体どういう意味なんだろう。
あたしは緩んでいた頬が少し引き締まるのを感じる。
真奈美さんの顔をのぞき込んでも、彼女はもうそれ以上何も言おうとはせずに含み笑いをしているだけだった。
帰りもサングロイア宇宙港までヘリコプターで送って貰い、鶴見さんとはそこで別れる。
彼女は別れ際に帰りの分のチケットをあたし達に渡すと、最後もきちんとした一礼を見せた。
あたし達は空港内に入り、渡された綺麗な封筒の中から二枚のチケットを出して確認する。
「……あれ?」
あたしは思わず声をあげてしまう。
それは行きに使ったものと違う材質で出来ているようで、妙に手触りが良かった。
「変じゃないですか、これ?」
「どれどれ?」
真奈美さんに二枚のうちの一枚を渡すと、彼女は光に透かすようにしながらチケットの裏表をよく検分した。
「ははあ……面白いわね。」
あたしが自分の分のチケットの表面に記載されている信じられない文字を見つけだしたと同時に、真奈美さんは楽しそうに笑った。
「な…何かの間違いじゃないですか?」
あたしは背中につっと一筋の汗が流れ落ちるのを感じながら、妙な愛想笑いを浮かべて真奈美さんに確認する。
「手違い……って事はないと思うけどね。
でも、いいじゃない? 間違いだとしても。
この状況を楽しまない手は無いと思うけど。」
真奈美さんはにこにこと笑いながらインフォメーションカウンターにつかつかと歩み寄っていった。
あたしは慌てて彼女の後を追う。
真奈美さんがカウンターの中にいた制服姿の女性にチケットを見せると、女性は丁寧に搭乗口の場所を彼女に説明した。
そして、女性に例を言って素早く振り返った真奈美さんとあたしは危うく正面衝突してしまいそうになる。
「なぁにしてるの、よしゆきちゃん。」
「あ……。」
真奈美さんはこぼれてしまう笑みを押さえられないといった風情で肩を震わせながら、あたしを帰りの便の搭乗口へ誘った。
<続劇>
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