■ワイルドで行こう

取材で出かけるたびに、カミさんに言われることがある。
「いいよなー、あっちこっちいろんなとこ行けて。
おいしいもの食べていいとこ泊まってんでしょ。
そんでおいしもの食べておいしいもの食べておいしいもの食べてんでしょ。
あーあ、私もおいしいもの食べたいなあ。おいしいものおいしいもの」
(以下略)
彼女の頭の中は、「おいしいもの」にかなり占有されているらしい。

でもさー、そんなおいしいもんばっか食べてないって。
そりゃあ富良野の焼き肉屋さんはうまかったよ。
特にアスパラガスの炭火焼き、病みつきになりそうだった。
京都で食べた懐石弁当もうまかったさ。
イタリアで紀行のチームのホスピタリティに入り浸ってパクついたパスタは、
もう、止まらないうまさだったしね。
宮崎の寿司もなかなかのものだった。つい二人前頼んじゃったからね。
スペインでノリックと食べた麺パエリアはサイコーだった。
伊豆のアジタタキも忘れられない。岩手のフランス料理屋のステーキは絶品だった。
マレーシアのセパンサーキットで食べたタコスみたいなヤツもうまかったなあ。
香川で食わせてもらったマツタケの土瓶蒸し、逸品だった。
でもほんと、おいしいもんなんてそんな食べてないって。
……食べまくりじゃん。
でも僕は基本的には何を食べてもおいしいって思っちゃうほうだから、
食にはあんまりこだわってないのだ。

しかしカミさんの言う「いいとこ泊まって」は、まず当てはまらない。
特に問題となるのは、そう、ずばりローフーである。
つまり風呂ですね。
日本全国に億万とあるビジネスホテルは、それぞれ特徴がある。
お部屋がキレイだったり、ちょっと広かったり、
Hビデオがコイン投入式で、チェックアウトで恥をかく心配なく存分に堪能できてウレシかったり、
でも100円玉が財布に入ってなくて大弱りしたり、
部屋に普通の小型冷蔵庫があって、コンビニで買ったアイスを冷凍保存できてシアワセだったり、
そんな違いは確かにある。
でも、風呂の狭さだけは日本全国共通なのだ。

まず腹立つのが浴槽だ。どうしろっていうのさ〜、あんなチンケな浴槽。
風呂ってさ、こう、満水状態がベストだと思うワケ。
充ち満ちたお湯を眺めているだけでも、豊かな気持ちになるではないか。
そこに、「だありゃーおりゃあ!」と叫びながら飛び込み、
ばっしゃーんざばざばぁッ!! とワイルドに湯を飛び散らせてこそ、ザ・風呂なのだ。
そうして始めて、「ぶわーーーーっ」とか、「くくーーーーっ」 などの、
シアワセ嘆息が口をついて出てくるのである。
それがなんだよーあの狭くて浅い浴槽は! やる気あんのか? あんコラァ!
と、メンチ切ってる場合ではない。とりあえず、満水状態にしてみる。
見るからに貧弱な眺めだ。水量の少なさに気持ちも荒むぞコラ!
ぷんぷんしつつも、身を沈める。
が、ここでもまた腹立たしい大問題が発生する。
浴槽上辺に設置された排水口からの排水量を上回るとあふれてしまうので(分かるかな)、
ゆるゆるゆるゆる入らないとなんないのだ!
ようやく身を沈めたところで、やはり浅い。
寝そべってみても、ブツが水面から突き出ちゃったりすることもママある。
それはまあ、確かにオレのブツはスゴい。
だからって、ブツだけ温まらなかったら、男としてなんかさみしい。
やっぱこう、のびのびさせてあげたいじゃない!?

さらに、洗髪および洗体(?)に及んで、問題はさらに悪化する。
洗い場がねえじゃねーかよー!!
トイレがくっついちゃってるシステムバスがほとんどなので、
ガーッガシガシガシガシおりゃあどわりゃあ! と洗えるスペースなど皆無なのだ。
やむを得ない。
腑に落ちないながらも、浴槽内で洗髪および洗体を敢行する。
狭い場所で洗うもんだから、なんかこう、動作がちまちましちゃって、なぜか女性的になっちゃうワ。
お湯が跳ねないように、しずしずとシャワーで洗い流しまァす。
……と、オカマ化してしまうわけだ。
でもまあ、ここで一発バイーンと浴槽に浸かってあったまれれば、よしとすっか!

が、事態は思いがけない方向へなだれ込む! はいここで舞台暗転!!
少ないながらも清らかだったはずの湯が、 洗い流した石鹸やシャンプーの泡などで白〜く濁っちゃって、
髪の毛やフケや垢や何か分からん油分やミトコンドリアなどが浮遊しているではないか!
汚ねえ!
これはありがたくない。
しかしここは断固として浸からなければ男がすたる。
で、浸かる。
ぎゃー
なんか浮遊してるものたちが、うれしそうに僕のカラダにすり寄ってくるではないか!!
ひゃー
浴槽から立ち上がると、うーん洗い上がりのお肌、スベスベキュッキュッ!  小島聖みたーい(古いのか?)、
てなはずはなく、
なんかヌルヌルズルズルベッタリコッテリマッタリしてて、ヒジョーにヤな感じなのである。
結局またしずしずとシャワーを浴びて、浴槽を後にする。
何だか内股になっちゃって、身をくねらせてしまうワ。

……納得いかんですよ。
なぜ風呂に入ってオカマ化せねばならんのだ。
ワシャあ、豪快に風呂に入りたいだけなんじゃけぇ!

そう叫び続けて生きてきたけれど、ついにザ・風呂付きビジネスホテルがあったのである!!
10月のWSBK取材で泊まった仙台市内のプレステージ2というホテルは、
なんと普通のご家庭用サイズの浴槽完備!
しかもトイレは別で、立派な洗い場完備!
しかもHビデオが2チャンネル分用意され、100%完全無料全開見放題!
素晴らしい!! パーフェクト!!
浴槽をお湯で満タンにし、ざっばあああんと飛び込み、肩まで湯に浸かり、もう気分はサイコーである。
こうでなくっちゃあ!
で、温まったところで、いざ洗浄だ。
もう泡なんか飛び散らかしまくりながらシャンプーし、
持参したナイロンタオルでガシガシと体を洗いまくる。
ジス・イズ・風呂!! 満喫しまくりである。

が、しかし……。
何かもの足りない。
ワタクシすぐにピンときましたね。
それは、イスであった。
イスがないばかりに、あぐらで洗い場の床に座り込むことになるのである。
生尻なのである。
なんかなあ……。ぜいたくな悩みなんだけどさあ。
生尻はなあ……。
次回同ホテルに宿泊する際は、風呂用イスを持参したい。
できれば手桶も用意しておきたい。洗面器もあればベターだろう。

……って、家の風呂じゃねえんだから。
以上。




…………。
こういうくだらねー話をだらだら書いて許されるのは(誰も許してないか)、
マイ・ホームページならではであろう。
商業誌じゃあ、あり得ないこってす……。
ホームページ、いいんだか悪いんだか。