23 巻
173・175−178話 待機 知世姫の結界を内側から揺るがして出現した、時空の歪み。 小狼君が羽根を手にした瞬間、闇が飛び散るように次元が裂けた。 さっすがサクラちゃんの羽根。相変わらず、桁違いだなぁ…… 桜の神木の裂け目から見えた何もない空間。あの闇の向こうは、夢の世界へ通じているという。 サクラちゃんの羽根が、小狼君を彼女のところへ導こうとしてるの? それなら、きっと大丈夫だよね? どうか2人とも、無事に戻ってこれますように…… 「……追いかけねぇのか」 黒様は意地悪だー。オレにはもう、そんな力はないって解ってるくせに。 あの東京でことを皮肉ってるんでしょう? でも残念でしたー。 「……待つよ。辛くても」 知らなかったでしょう? 今のオレは、信じて待っていられる程度には、強くなったんだよ。 黒様は知らない。君が無事に目覚めてくれるのを待つ間、オレがどんな思いをしていたか。 知世姫の「黒鋼は死にません」って言葉だけを頼りに、何日も頑張ったんだから。 『こんなに恐いのを待っていられたら、他のどんなことでも我慢して待てる』って思いながら、ずっと。 木の床に座り過ぎて足が痛くて、痺れて感覚がなくなって、真っ直ぐ歩けなくなっても、ずーっと。 黒様の寝顔を見ながら、不規則な呼吸に耳を澄ましながら。ずっと、ずーっと待ってたんだよ。 だから大丈夫。ちゃんとここで、小狼君を待てるよ。 狂ったように舞い散る桜の花びら。それを綺麗だと思う余裕もなく。 バキバキと凄い音を立てて、神木の幹の裂け目がどんどん大きくなって行く。 何か大変なことが起きているのは確かなのに、オレたちはただ固唾を呑んで見守るしかない。 裂け目の向こうに見えるのは、夜魔の国に移動する前に見た空みたいな歪んだ空間。 オレにまだ魔力があったら、きっとあの時みたいに、もの凄い力を感じるんだろう。 歪みから噴き出した質量を持った闇が、サクラちゃんが眠る樹の上からオレたちを押し流す。 小狼君が留守の間、サクラちゃんの躯はオレたちが守らなきゃいけないのに─── と同時に、今まで何も見えなかった時空の裂け目の向こうに、2人の小狼君の姿が見えた。 彼らの姿はまるで鏡合わせのようで、羽根を巡ってお互いに一歩も譲らず。 1つの羽根を奪い合い、手を伸ばし、互いの剣を─── 主人公カポーのターンなので、ほとんど書くことがない。すまないねぇ、ゲホゴホ。 せ、せめて子供たちに「ハッピーバースディ!」と言っておこう……
22.4.1
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