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        隣 人 13 
            (恐れ入りますが、今いちど言い訳のページをよく読んでくださいますよう、お願いいたします)




「待てよアリス」
「来るな!」
 自分の部屋に駆け込む私を、火村が追ってくる。ロックしようとして果たせず、ドアを放棄して部屋の奥へ逃げる。2人とも裸足のままの追いかけっこ。寝室へ逃げ込もうとしたところで火村に捉まった。
「アリス!」
 掴まれた腕をぶんぶんと振り回すが、がっちりと掴んだ手は離れない。
「なんや、なんで追ってくるんや。放せ」
「嫌だ」
「オマエに関係ないやろ!」
「あるさ!」
 顔を背ける私の耳元で火村の怒鳴り声がする。
「聞けよ」
「イヤや!」
 もう君とはこれ以上付き合えない。
 何を訊かれても、君を突き放す言葉しか返せない。
 そんなことになるくらいなら、大好きなこの声も、もう聞きたくない。

「アリス」
 耳を塞ごうとする両手を掴み下ろし、もがく私を火村が背中からすごい力で拘束する。
「アリス!」
 もう1度耳元で強く名を呼ばれ、身体がビクンと硬直した。動きが止まる。
 私は目の前の壁紙を凝視した。異様に近すぎて模様に焦点が合わないと思ったら、いつの間にか視界が歪んで滲んでいた。
「本当かアリス。本当に親友だった俺が好きか?」
 押し殺した囁きに近い。鼓膜に直接伝えられる、熱くて掠れた確認。

 その声音に、不意に、非常に奇妙な思いに捉われた。
「……君、だれ?」
「……」
 ぎくしゃくしながら声のする方に首を回すと、至近距離で睨むように覗き込んでくる目とかち合った。
 私の部屋の中で、私を腕に捕らえている火村。隣の火村は、1度も私の部屋に入ったことはない。これはその火村の最初の訪問なのか。それとも……?

「……ひむら?」
「俺は俺だ。最初からずっと、俺は俺でしかない」
「最初って……」
「お前と知り合ってから。学生時代も、今も、これからも。ここに越して来てた間も。ずっとだ」







 ―――オイ。
 ちょお待てや………






「はああ〜〜〜っ!?」
 今度は私が火村の耳元で素っ頓狂な叫びを上げる。当然だよな。これくらい許されてしかるべきだ。
「おっ、オマエ…… もしかして、…ウソ?」
「悪い」
「……わ、悪いで済むかアホーーーーっ!」
 叫んだあと、へにゃへにゃと身体中の力が抜けた。足が萎えて、火村に掴まれていた部分で吊るされたような格好になる。
「アリス?」
 こ、腰が抜けた……






H13.11.4


すいませんすいませんすいませんっ (>_<) <(_ _)>
こ、こんなオチ……