6−7話 お好み焼き
ジュウジュウいい音がして、ほんわかいい匂いがしてる。
黒っぴとモコナは、この 『おこのみやき』っていうのに夢中。2人とも、すっかり仲良しさんだね。
昨日の隙なく張り詰めた空気とは一変。今日の黒りんはまたずいぶんと寛いでて、おっきな子供みたい。
羽根探しに興味がないのはいいけど、一緒にお話しようよぅー。
強い巧断の話とか結構好きそうなのに、全然乗ってきてくれない。
きっと、色気より食い気のタイプなんだー。
その彼が唯一反応したのが、前いた国の人の話。
あの店員さん達が、小狼君の国の王様と神官様なんだって。
神官様だっていう店員さんから、特別な力は感じない。この世界では普通の人なんだね。
それでもやっぱり、あの店員さんの性格や性質は、神官さんと同じなのかな。
だったら、他の世界のどこかには、魔力のないオレもいたりするのかなぁ?
こっそり会ってみたいかも。
同じだけど、同じじゃない。魂が一緒の人。
魔力がないオレが、今のオレと同じような人間に育つのかなぁ?
もしも魔力がなかったら、オレはどんな人間になっていたんだろう?
こんなにすぐに知ってる人に出会うってことは、どの世界に行っても、誰かに逢っちゃったりするのかな。
世界ってそんなに狭いものなんだろうか。
もしもあの人と同じ人が、目の前に突然現れたりしたら、オレはどんな反応をしてしまうんだろ……
なーんて考えてる間に、王様と神官様がいい具合に焼いてくれたみたい。
何に使うんだろうと疑問に思ってた木の棒を、みんなは2つに割って上手に使っている。
え、え、知らないのオレだけ? やっぱり違う世界の人なんだねぇ……
おこのみやきは知らないみたいだった黒るーも、このおはしっていうのは知ってるのか。
……ふぅん。器用に動かすなぁ。
「あ? 何だ?」
「ううん。なんでも」
いけないいけない。見惚れてる場合じゃなかった。まずは2つに割るんだったよね?
「えいっ! あ………」
……えっと、おはしの頭がナナメに。片っぽが細くて、片っぽが太いのに……
「ヘタクソ」
「わーん! 黒むーひどいー!」
ろくに話もしてくれなかったくせに、こんな時だけ突っ込むなんてー!
「あ、あのっ、僕もしょっちゅうそうなるんです。綺麗に割るのは結構難しいですよね」
正義君が気を遣ってフォローしてくれる。ううう、ありがとねー。
見よう見まねで持ってみるけど、あははー、全然挟めないや。えいっ、挿しちゃえ。
むー。いつか上手になってやるんだからー!
……うん、おいしいね。おこのみやき。
モコナとのバトル中で、ファイの方なんか見てない…… ってのはちょっと置いといて。
優等生で、なんでもソツなくこなしてきたであろうファイさんに、ちょっとしたショックを与えてみました(笑)
18.6.10
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7話 主
やっぱりね。君に手助けなんて無用だよね。
戦うの大好きー、って感じで、攻撃を避けてるだけでも楽しそうだったけど、刀を持った強さは桁違いだ。
一撃だったね。かぁっこいい!
刀になる前に一瞬現れたのは、青い竜みたいな巧断だった。
あれが黒ぷいの夢に出てきたっていう、妙な獣なのかな。
だったら、明け方の夢で話し掛けてきたのがオレの巧断なんだね。きっと。
「生涯、ただ1人にしか仕えない」 かぁー。
迷いのないその言葉がチクリと痛い。
オレだって、ついこの前まではそう思ってたんだよ。───過去形になっちゃったけどさ。
君がオレの立場だったら、あの人をどうしただろう。
水底に封じたりしないで、きっと、もっと別の方法を探し出したんだろうな。
少なくとも、こんな風に逃げ出したりはしないよね。
知世姫、ってどんな人なんだろ……
あの黒たんが選んだ、ただ1人の主。
無理矢理飛ばされちゃったっていうのに、それでも戻りたいのは、その姫にずっと仕えたいからなんだね。
あの彼にそこまで思わせる人って、すごいなぁ。
額の『呪』だって、その姫に掛けられたんでしょう?
強さを間違った方向に向けないための、戒めの術。
それは黒るーのことを思ってのものだけど、本人にとっては不本意だろうに……
それでも、そんなに慕ってるんだね。迷わず 「帰りたい」って言えるんだ。
小狼君はサクラちゃんがお姫様で、大切な人だって言ってたっけ。
―──もしかして、ひょっとして、黒りんもそんなんだったりして。
君も、そうなの? 知世姫が、大切な人なの?
黒っぴは色気より食い気、食い気より体力の人だと思ったんだけど、違うのかなぁ……?
無意識のヤキモチだとよろしい。こんな初期から。
ファイは知世姫のこと、どんな子だと想像してるんでしょう? こんなロリ…年下だとは思ってないんじゃないかな。
18.6.11
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8話 おいなりさん
「今日のゴハンおいしかったー!」
「そうだねー」
うん、とってもおいしかった。おはしが難しくて、うどんはちょびっとしか食べられなかったけどね。
「黒鋼が作ったおいなりさんはイビツだったけどね」
「あははー」
「うっせぇ!」
確かに大きくて不恰好だったけど、でも大丈夫。ちゃんとおいしかったよ。
「でもちょっと意外だったな。黒ぴーはもっと文句言うかと思った」
「黒鋼だっつーの! ……まぁ、『働かざるもの食うべからず』って言葉は俺の国にもあるからな。確かにこの家じゃ、俺は働いてねぇし」
「ふーん、そっかー」
2人の間にモコナがいてくれるだけで、なんて自然に会話ができるんだろう。
2日目の夜。
また昨夜みたいにピリピリするのはヤダなぁ、と思ったから、今日はモコナを誘ってみたんだ。
うん、大正解ー。
昨日は布団を目一杯離して寝てたから、朝起こしにきたモコナに、「ケンカしてるみたいでよくないのー!」って怒られちゃったんだ。
加えて、「モコナ、ファイと黒鋼の真ん中で寝るー!」の一言で、今日のお布団は仲良くお隣同士。
黒みゅうのこめかみに、青筋が立ってるのが見えたような気がしないでもないけど、気にしないー。
今日1日一緒にいたから、少しは警戒も解いてくれたと思うんだけどね。
大体オレって、そんな危険人物には見えないと思うんだけどなぁ。
……まぁ、本当のところはアレなんだけどね。黒みんにはそれが判るのかも。
忍者ってよくわかんないけど、お姫様のボディガードみたいなことをしてたのなら、当然なのかな。
「いっぱい食べたねぇ」
「うん! モコナいっぱいお手伝いしたから、おなかすいちゃったの」
「オメーはうどんに七味掛けただけだろうが」
「なるとも乗せたもん! 黒鋼なんか、お揚げが破けて、ご飯がはみ出してたくせにー」
「揚げが小せえんだよ!」
モコナのポカポカ叩く攻撃は、黒っぴには全然効いてないみたい。
怒鳴り口調なのは昨夜と変わらないけど、なんだか楽しそうー。
「ファイは上手に詰めてたもんねー」
「えへへー。ありがとぉ」
「味は同じだろうが!」
「えー、モコナ知ってるもーん。黒鋼ってば、ファイが詰めたのばっかり食べてたの!」
「え…」
「なっ」
あ、攻撃効いて、る…? 黒たん、言葉に詰まってるよ。
「知るか! たまたまだ。もう寝るぞ」
こちらに背を向けて、即行で寝る体勢に入ってしまった。
ねーねー黒さま。それ、ホント……?
おいしいって、思ってくれたのかな。
もちろん、あれを作ったのは嵐さんと空ちゃんで、オレたちはご飯を中に詰めるのを手伝っただけだけど。
自分で詰めたのより、オレのが食べたかった? おいしそうに見えたの?
……えへへ。本当にたまたまだったのかもしれないけど、それはもうどっちでもいいや。
なんだか嬉しいから、勝手にそう思っておくことにしようっと。
こんなつまんないことが、何でこんなに嬉しいんだろう。
どんな重要任務を1人でやり遂げて賞賛された時だって、別に何も感じなかったのに。
環境が一気に変わったから、感覚がおかしくなってるのかな。
出会ったばかりの君たちと、一緒に歩いたり食べたりおしゃべりしたり、そんなことがいちいち楽しくて、苦しくなったりするんだ。
ほんの2日前にあれだけの事をしでかしておきながら、こんなにも簡単に楽しいと思えるなんて、自分が信じられない。
でも一緒にいると楽しいんだ。些細な、何気ないことが嬉しいんだ。
可愛いし、微笑ましいし、ホッとするんだよ。
……どうしよう。ホンワカ和んでる場合じゃないのに。
オレ、逃げてるのに。罪人なのに。いつかお別れする人なのに。
この旅が幸せだ、なんて、思っちゃったらどうしよう。
この人たちが大切だ、なんて、思うようになっちゃったらどうしよう……。
そろそろ捏造入りま〜す。
ファイさん2日目にして早くもメロメロっぽい。『仲間』 というのに免疫がなさそうです。
18.6.12
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8話 黒→
またこのヘラい魔術師と同室なわけだが、2日目ともなるとさすがに眠い。
いつまでも気ィ張って徹夜を続ける訳にも行かねぇし、向こうが怪しい素振りでも見せたら起きりゃいいか、と割り切って眠ったんだが……
───何かに反応して目が覚めた。
一体何が神経に障ったのかと気配を窺うと、隣で寝ているへにゃ野郎の呼吸がおかしい。
横向きに身を縮め、枕にしがみ付くようにして顔を半分埋めている。何だ、具合でも悪ィのか?
「ファーイー?」
奴を覗き込むようにしていた白まんじゅうが、困ったように俺を見上げてくる。
悪い夢でも見てうなされてやがんのか。顔は見えないが、肩や拳が震えるほどガチガチに力が入ってやがる。
「おい」
なら起こせば済むことだと手を伸ばしかけ……躊躇する。
起きたら起きたで、またうるさそうだよな。
あのへらへら顔を貼り付けて、取り繕った言い訳でもされるのかと思うとムカつく。
昼間のフニャけた奴とは程遠い、この追い詰められた様子はどうだ。
いつもへにゃへにゃ笑ってる奴だが、見掛けどおりの腑抜けのはずはねぇ。それは判る。
それが何だ、このザマは。
魔女の所ではあのガキほど切羽詰まっちゃいないように見えたが、こいつも何か、手に負えないものを背負って来てるってか。
元の世界にだけは帰りたくねぇ、っつってたな。逃げてやがんのか。一体何をやらかした。
自力で世界を渡れるほどのすげぇ力を持ちながら、こうも怯えなきゃならねぇってのは。
……ま、関係ねえっちゃねえんだが。
「ファイ、起こした方がいいかなぁ?」
今にも揺さぶりを掛けそうな白まんじゅうを制し、今度こそ手を伸ばす。
枕の端を固く握り込んだ手に、掌を重ねる。ビクリとした震えに構わず、上から押さえつける。
暫くは苦しげに呻いてやがったが、そのうち徐々に力が抜けて、引きつっていた呼吸が元に戻った。
「黒鋼さっすがー」
「……代われ。俺ァ寝る」
白まんじゅうをひっ掴んでヤツの手に押し付ける。後は任せた。
「うん。モコナ、ファイと一緒に寝てあげる」
得体が知れねぇのは相変わらずだが、コイツに寝首をかかれる危険はなさそうだ。そんな余裕はねぇだろ。
だったらもう気に掛ける必要はねぇ。朝までゆっくり眠らせてもらうとするか。
やっぱ今の段階で、手を握ってやる黒ぷーってあり得ないですよね。すいません〜
そして眠りが浅いどころか、枕元で会話されてもぐっすり起きないファイになってしまった。
黒→ファイらしきものに持ってくのは、さすがにちょっと早過ぎる気もしますが…… まぁいいや(開き直り)。
18.6.13
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9話 移動
大変大変、モコナと正義君が攫われちゃったよー!
と思ったら言葉まで通じなくなっちゃって、困っちゃったね〜。
ああ、本当にオレたち、別の世界の人間なんだね。
落ちてた手紙が読めるらしい小狼君に連れられて、地下を走る細長ーい乗り物に乗って移動。
やー、大の大人が2人して子供に引率されてるのって、なんだか情けないねー黒ぽん。
ここまで来るのも大変だったね。
小狼君だって言葉が通じないだろうに、人に手紙を見せて、この辺の地図を貰って、目的地までの経路を調べて。見よう見まねで小さな紙切れを買って、機械に通して。既に満員でこれ以上乗れないと思った乗り物に押し込まれて、押し潰されそうになって。
ぎゅうぎゅう詰めの箱の中で、ドアに押し付けられて身動きが取れない。
こ、こんな人口密度、初めてだよー。苦しいよぅ、いつまでこうしてなきゃいけないのー?
更にカーブに差し掛かったときに、黒たんがドアに手を突いて、小狼君とオレの楯になってくれているのに気がついた。
わー、今度は黒りーに庇われちゃったよ。オレってば、今日はいいとこナシ?
さり気なく守ってくれてる黒ぽんを見てたら、昨日の夢を思い出したよ。
あの人の夢を見たんだ。あの人に見つかった夢。
冷たい水の底から、見透かすような視線でじっとオレを見詰めていたんだ。
じりじりと後退ってたはずなのに、不意に思いもかけない方向から手を掴まれて───
ビックリした。捕まったと思った。
慌てて振り払おうとしたけど、がっちり握られて逃げられなくて。
……でもそれ以上のことはなくて、しっかり掴まれた掌からじんわりと温かさが伝わってきた。
あの人、じゃ、ない? あの人の手は、こんな温度じゃないもの。
じゃあ、誰……?
そのとき何故か、何故だかなんとなく、こっそり、……黒みー? とか思っちゃったんだ。
そんなはずないよね。って、ぶんぶん打ち消したところで目が覚めて。
……オレ、バカだなぁ。なに期待してたんだろ。
しっかりきっぱり打ち消してから目を開けたはずなのに、予想どおり我関せずで背を向けて眠っている君を見て、ちょっとがっかりするなんて。
代わりにそこにはモコナがすやすや眠ってて、ちっこい手とおっきな耳でオレの手をふんわり包んでくれていた。
……あれはモコナだったの?
でもこんな優しい感触じゃなくて、もっと力強い感じがしたんだけどな。
あの人から離れられないオレの意識を、強引に余所に振り向かせるくらいの。
そう、今オレの頭のすぐ横でぐぐっと突っ張っている、黒い人の腕みたいに。
知らん顔して実は優しいなんて、反則だよー。頼りたくなっちゃったら困るでしょ。
ノラでやってく決意をしてた猫に、優しくしたらダメなんだよ。1人で生きられなくなっちゃうでしょー。
でも…… ありがと。
鼓動が感じられるほどの距離でコツンと頭を寄せたら、夢とおんなじ熱を感じた。
そんなこんなで漸く、なんだかおっきな建物(お城?)に到着ー。
あー、いたいた。屋根のてっぺんの、変なお魚みたいなののシッポにぶら下がってるよ。おーい!
見つけた途端に、また言葉が解るようになった。やっぱりモコナのおかげだったんだね。
モコナってば、翻訳機の機能も果たしてたんだ。高性能〜。
ここにも人がやたら大勢いたけど、犯人はどうやらあの女の子みたい。
あ、ここでようやくオレも役に立てるね。オレって言うか、オレの巧断だけど。
んじゃ取り敢えず、行って来まーす!
満員電車に乗せてみました。日曜なのに。きっとプリメーラちゃんのコンサート客で混んでたんだよ。むさ苦しそー。
黒ファイ要素のない回だと思ったんですが、隙間をこじ開けました。
言葉が通じたとき、小狼は2人を見ていますが、黒ファイはお互いしか見てないように見えるんですが(笑)
3人で「モコナ!!」って言ってるときの手が。あなた達、息合いすぎ。
18.6.14
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9−10話 空中
さーて、行きますかー。
魔法で空中に浮かぶときの要領で、でも間違えて魔力を使ってしまわないように気をつけて。
オレの中に眠っている獣に呼び掛けると、風がふわりとオレを包み込んで舞い上がった。
そっかー、なるほど。翼を使うんじゃなくて、風を操るんだね。
当たったら痛そうな文字(?)を避けながら、空中を逃げ回る。結構楽しいけど、ねーいつまで続けよっか?
モコナがめきょってならないなら、羽根を取り込んでるのは彼女の巧断じゃないってことだよね。
まさか女の子相手に攻撃できないし、彼女はヤル気マンマンだし、ちょっと困ったなぁ。
(えー。途中ですが、ファイ視点じゃ黒ファイにならないことに気づき、路線変更〜)
あいつめ。
巧断のおかげとは言え、クルクルと自在に飛び回ってやがる。ありゃあ初めてじゃねぇな。
俺に憑いた竜みてぇな巧断にも翼らしきものがあったが、たとえそれで飛べる能力が俺に備わったとしても、いきなりあの動きは無理だ。無様に体勢を崩すのがオチだ。
今までも魔力とやらで飛んでやがったのか?
魔術師ってのがイマイチよく解らねぇんだが、術士や巫女と似たようなモンじゃねぇのかよ。
術を使うといえば、気を集中するため接近戦には向かねぇもんだと思ってたんだがな……
逃げてるだけだが、あの身のこなしは相当に実戦をこなしてるとしか思えねぇ。
─── 何者だ、あいつ。相当な力を持ってたらしいが、それを使わなくてアレかよ。
へにゃへにゃしたり、うなされたりしてやがるくせに、やっぱ油断ならねぇ。
まー取り敢えず、あいつは放っておいても大丈夫そうだしな。任せとくか。
小僧が助けに入りたそうだったんで、一応、止めておく。半端に手ェ出されても、邪魔なだけだからな。
お、そう言えば。
昨日俺が戦ってたときは、あいつがガキを止めてやがった。そういうことも解るヤツだってことか。
しかし、やけに楽しそうに遊んでやがるな。
あいつを取り巻く、緑の光の流れみてぇなのが巧断なんだろう。
最初に大きな鳥みてぇな姿を現した後、すぐにヤツの中に吸い込まれるように消えやがったが、ほんの一瞬、あいつに翼が生えたように見えた。
一瞬で消えたのが惜しいような気が、ちらりと過ぎってしまったのはここだけの話だ。
黒ってば、実は見惚れてたらしいですよ(笑)
巧断の色は、原作でもアニメと同じく赤青緑でいいんだよね。
18.6.15
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11−12話 傍観者
わー、おっきーい。
サクラちゃんの羽根を取り込んでるのは、あのゴーグルの人のじゃなくて、正義君の巧断だったんだねー。
大きい。そして強い。羽根の力で増強されて、手が付けられない。
それでも小狼君は迷わないんだね。大切な人のために。自分で決めたことをやるために。
……無謀だよね。
『信念さえあれば何でもできる』って思えるのは、いいよね。若くて、一途で。
でもね、やってみせるって思うのと、実際にできるのとは違うんだよ。
自分と相手の力を見極めて、冷静に判断しなくちゃ。
相手がどんなに強かろうと恐れず向かって行くってのは、カッコいいけどあまり感心しないな。
君は、生きなきゃいけないんでしょう? これからも、ずっと。
それでも行かせてあげたいって思うのは、自分にはない何かを、いいなと思うから。
決意に満ちた瞳が、諦めで曇ることがないように。そう祈るような気持ちになってしまうから。
羨ましいような、微笑ましいような気持ちになってしまって……
困ったなぁ。オレ、保護者になれる余裕なんてないんだよ。
強いよね。小狼君も黒様も。オレにはない力だ。
実際彼なら、あの巧断が相手でも、きっとどうにかしてしまうんだろう。
行っておいで。
頑張って、それでもどうしても敵わないようなら、黒ぴーがきっと手を貸してくれるでしょ。
オレ? オレはちょっと、無理かなぁ。
さっきの黒りんの攻撃が、じわじわ効いてるからさー。
「ただのふざけたヤロウじゃない」って…… 睨まないでよ。恐かったよ。
どうしてそう思ったの? じゃあどんなヤツだと思うの? 今ので何が解ったっていうんだよ。
咄嗟に受け流したつもりだけど、ちゃんとできてたかどうかわかんないよ。
落ち着くまで、ここにいさせて。竦んだ動悸が納まるまで。
君と一緒にいたら、落ち着けるかどうかわかんないけど。
黒ファイネタ挟むには、無理がありすぎましたか。
レイアースやCCさくらの時から引っ掛かってたんですが、『思いの強さ=力』って図式には納得いかんのです。
もともと力が互角で 『諦めなかった結果、粘り勝ち』 ならわかるけど、未熟でも
『信念さえあれば、絶対負けない』ってのはどーなんだ。
CCさくらのは別としても、敵だって 「絶対負けられない」 理由をそれぞれ背負って戦ってるのでは? と。
18.6.16
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13話 だあれ
何事にも動じない挫けない心が、グラリと揺らぐ瞬間を見た。
「……あなた、だあれ?」
真っ白な、姫の言葉。残酷な、次元の魔女の対価。
それでもキミは笑ってあげてたね。
怖がらせないように精一杯の笑顔で説明するから、こっちが痛かったよ。
覚えのある、その笑顔。
作り笑いのコツはね、自分では何も感じないことだよ。
自分で痛いと自覚してたら、ダメなんだ。わかっちゃうんだよ。
どんなに痛くても、何も感じないようにならないとね。
小狼君の心を表すように、外は酷い雨。
君も彼が心配なんだね。小狼君がひっそり部屋を出て行ったときから、視線がずっと追っているもの。
黒ぽんは、泣いたりしないのかな。泣きたい気持ちを、強くなることで乗り越えてきた時期が、君にもあるのかな。
オレが最後に泣いたのって、そう言えばいつだったろう。もう思い出せないかも。
知ってる? 泣くのって結構難しいんだよ。
巧断の行動に、宿主の意思はどれくらい反映されてるのかな。
小狼君に寄り添う炎の巧断は、彼が呼び出したと言うより、飼い主を心配して現れた動物みたいだよね。
じゃああそこで傘になっている、オレたちの巧断はどうなんだろう?
オレのと同時くらいに、君のも現れたからビックリしたよ。
黒たんも同じ気持ちだった?
それとも、もともとあの巧断たち3匹は仲良しで、炎の子があとの2匹を呼んだのかな。
オレは別に、「出て来い」って念じた訳じゃないよ?
だけど、小狼君に打ち付ける雨を遮っている彼らの行動は、オレの心に適ってる。
……きっと君も同じだよね。
1人で強くなるしかない小狼君に、せめてこれくらいはしてあげたいって───
その想いは一緒だって、思ってもいいよね。
何も手出しはできないけど、後ろで見守って、支えてあげたいっていう気持ちは。
『泣きたい時に泣ける強さ』ってのがイマイチ消化できてません。『泣きたい時に泣けない弱さ』って??
「弱さを見せたら切捨てられるかも」 とか、そういう心配でもあったのでしょうか。
それとも、「自分が不幸にした人々のことを思えば、泣くなんて許されない」ってなことでしょうか。
はたまた、「哀しい仕事だけど、王の命令だから辛いなんて言えない」 とかでしょうか。
個人的には、2番目がいいな。
18.6.18
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