22話 薬
「あーあ。ボロボロだねぇ」
秘術の水に落ちてやられた小僧の足を看ていたヘラいのが、そっちの手当てが終わったのか、薬を片手にやってきた。
「お互いにな」
「今度は黒さまの番だよー」
「あ? おめぇのが先だろーが」
どうせ自分は後回しなんだろ。
「だって黒たんの服、袖まで溶けてたでしょー。オレより重傷だよ。……腕、痛くない?」
「どってことねぇ」
どう見ても、そっちのが痛そうだろうが。
「春香ちゃんに貰った薬だよー。ちょっとベタベタするけど、よく効くんだってー」
「自分でできる。おめぇも塗っちまえ」
ドロリとした薬を掬って腕に延ばすと、見た目は悪ィが、確かに痛みが引いてく感じがする。
「お、いいなこれ」
「ホントだねー。どうやって調合するんだろ? 秘術も必要なのかな?」
「顔にも満遍なく塗っとけよ。斑になるぞ」
まぁ、治るときはどうしたって斑にはなると思うけどな。痕が残らなきゃいいんだが。
「分かってますー。薬、嫌な臭いがしなくてよかったね」
なんだかまどろっこしくチビチビと塗ってやがんな。薬をケチってんのか?
「貸してみろ」
「えぇっ?」
たっぷり手に掬って、首筋や耳の後ろに塗ってやる。
「わ! い、いいよ。自分で塗れるよぅ〜」
自分に塗ったときは判らなかったが、コイツの白い肌だと、塗ったそばから血行が良くなっていくのがよく判る。
おお、すげぇ効き目だな。
「うー、頭の皮までヒリヒリするー。髪、抜けちゃうかも〜」
「頭のてっぺんにも塗っとけ。……ハゲるなよ」
確かに、あの雨のせいでコイツの髪もバサバサだな。俺のは元々だが。
「……何見てんのー? まさか想像してる!?」
「は?」
「わーん! オレが禿げたら、黒ぴょんだって禿げるんだからー!」
なんつー会話だ。
「黙れ」
黄色い頭を抱え込んで、再び薬を手に取った。てっぺんと言わず、髪をかき分けてベッタリと塗りつける。
「やーめーてーー!」
「うるせぇ、暴れるな!」
「もー信じらんない……」
でき上がったのは、池に落ちた毛の長い猫みてぇな、情けない頭の魔術師。
「ぶは!」
「ああ、ひどい! 自分でやったくせにー!」
憤慨すればするほど、笑いを誘われる。は、腹痛ぇ。
「似、似合ってるぞ……」
「もう! 自分にもちゃんと塗るんだよ!」
「……おう」
ま、俺も禿げたくはねぇしな。
Q ここはどこですか。 A ……や、屋根の上、とか? ここの家って一部屋しかなさそうだったし、どこにしましょう?
手当てなら春香か姫がするのでは、というツッコミはさて置き、誰ですかこのニセモノの人たちは。
黒様に素ボケをやらせて楽しかったです。あ、もちろんこの薬にも、血行を良くする効能はありませんので念のため。
黒鋼の髪が脱色してたら面白いかも。
18.6.28
し、しまったー! 17巻現在、黒鋼って敵と戦ってる時しか笑ってなくないですか?
ましてやファイ相手に声を立てて笑うなんて、ありえねぇ……
原作者様的に、もっと大事な場面(最終回?)のために取っておいてあるのかもしれないのに! (11/5追記)
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22話 まがにゃん
羽根が戻って眠ってしまったサクラちゃんも無事に目を覚ましたし、悪者領主がいなくなってこの町も平和になったし、そろそろこの世界ともお別れだね。
「こっちこそありがとぉ。春香ちゃんにもらった傷薬、良く効いたよー」
秘妖さんの雨にやられてヒリヒリ痛かった顔も手も、薬を塗ったらすぐに治まったよ。
お母さんが作ったのかぁ。オレも調合の仕方、教わりたかったなぁー。
オレたちでいっぱい使っちゃって、ゴメンね。
……ど、どうしても思い出しちゃうんだけど、黒ぽんが薬を塗ってくれたことは、なるべく思い出さないようにしてるんだよ。
だってドキドキして、頭に血が昇っちゃうからさ。
だから、こっちに集中集中……って、あっちがどうしても気になるんだよぅ〜
「くろがねのいじわるーっ」
「なにぃ」
オレたちがお別れの挨拶をしてるその後ろで、モコナが黒りーに絡み付いている。
どうしたの? 黒ぴーにいじめられた?
「モコナもマガニャン読みたかったのにーっ」
あー、それかぁ……
モコナ、モコナ、黒たんは意地悪したわけじゃないんだよ。
秘妖さんに挑んでいったときに、彼女の長ーい爪でボロボロになっちゃったんだ。
……黒さまの命を、守ってくれたんだよ。
あれがなかったら、黒ぽん危なかったんだよ。
だから、そんなに怒んないで?
あの本がなかったら、いったいどうなっていただろう。
黒様の胸は、彼女の鋭い爪に貫かれるか切り裂かれるか、どちらかになってたよね。
それでも負けたりしなかったかもしれないけど、決して無事では済まなかったよ。
「命に関わらない程度のことならやる」って言ったオレの方よりも、「関係ねぇ」って言ってた君の方が、いつの間にか1番危険な部分を担ってるんじゃないの?
オレ、「黒ぴーがなんとかする」とは言ったけど、命まで懸けてくれとは言ってないよ。そんなのやだよ。
確かにあの作戦は、オレじゃ成功しなかったかもしれないけど、君だって危なかったのに……
ねぇ魔女さん、黒みーがまがにゃんを持ち歩くほど気に入ったのは、このためだったんですか?
それならオレはこれから、『必然』 を信じることにしなきゃいけないかな……
次の湖の話と矛盾するんですが……
サクラちゃん頑張って起きてた、って言うんですけど、ここで1晩寝かせてやってください。
ここで1泊させてあげないと、あまりにハードスケジュール過ぎだと思うんだ。
小狼は日が暮れるまで潜水作業しなきゃならないので、足の怪我を癒す時間が必要かと。黒鋼とファイの顔も治ってたし。
翌日の昼くらいまで、ゆっくり休ませてあげてー。次の湖でも野宿したのかどうか、微妙なとこです。
18.6.29
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23話 湖
ねぇ、なんでついてくるのかな。ちょっと辺りを探索して来るって言っただけなのに。
サクラちゃん眠ってるんだから、1人にしちゃダメでしょー?
黒ぷんもモコナも、なんで一緒に来ちゃうのかな。暗くなって火の番は退屈かもしれないけどさー。
探索なんて口実だって、わかっちゃった? 日が暮れてから探索なんて不自然だもんね……
オレがあの場を離れたのは、─── そうだよ。逃げたんだ。
明るいうちはまだ、他の景色に気を紛らせることもできた。
湖面を見ていても平気だった。目に映る風景そのまま、湖はただの湖でしかなくて。
木や草や空や風や霧とともに、この世界を構成しているパーツの1つでしかないのだと納得できた。
……でも夜になったら。
いくら目を逸らしていても、焚き火の炎を映して揺れる漣が気になった。
ただのこの世界の湖なんだっていくら自分に言い聞かせても、あの湖面の下で誰かが眠っているような気がして。
小狼君が息継ぎのために立てる水音にすら、身体がビクリと反応した。
こんなんじゃダメだと思って、だから、少し湖から離れてようと思ったんだけど……
心配させちゃったのかなぁー?
オレはオレなりに、子供達のことを気に掛けてたつもりだったんだけどね。
サクラちゃんが目覚めてから、小狼君の表情が乏しくなったのが気になってたんだ。
すごく心配だっただろうけど、目覚めさせようと一生懸命だった時の方が、いろんな顔をしてたよ。
今の小狼君は戦ってる時だけじゃなくて、微笑んでる時でさえ、どこか痛い感じがするから。
それに、サクラちゃんはごく僅かしかない記憶に不安そうだし、まだ精気に欠けてるしね。
でも黒たんとモコナには、オレのことまで危なっかしく見えてるのかなぁ。
だから見張ってるの?
むー。オレ誰よりも大人なのに、情けないな。
お世辞にも強いとは言えないけど、オレは1人でも大丈夫なのに……
1人で大丈夫なのに、そんなに優しくしてもらったらどうしていいかわかんないよ。
甘やかされて、1人で大丈夫でいられなくなっちゃったらどうするの?
いつまで一緒にいられるかもわかんないのに。そのうち1人に戻らなきゃいけないのに。
でも───
ないしょの秘密技を披露してくれるモコナも、付き合って一緒に歩いてくれる黒さまも大好きだよ。
いつまで一緒にいられるか分からないけど、せめてその間だけは、楽しく過ごせるといいな……
その期間ができるだけ長く続けばいい、なんて思い始めちゃってるオレは、もう大丈夫じゃなくなりかけてるのかもしれない。
もっとこう、「入ってこないで」 とか拒んでくれるかと思ったんですが…… 甘える気満々ぽい?
うちのファイは、頭でだけは 「ダメだ」 とか思ってるくせに、行動が全然伴ってないですね。
18.6.30
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24話 気楽
探索と称しつつ何の収穫もなさそうな散策の途中、馬鹿ばっかやってるアイツらに愛想を尽かして帰ろうとしたその時、離れてしまった湖から昼間のような光が立ち昇った。
急いで駆け戻れば小僧の姿はなく、魔術師のコートを掛けて寝かせておいたはずの姫が、水際に蹲るように倒れている。
「サクラちゃん!」
「サクラ、どうしたのっ!?」
人の気配はなかったが、野犬でも出たのかと慌てて抱き起こしてみれば…… 何のこたぁない
「……寝てるだけだ」
寝相が悪ィにもほどがあるだろ、オイ。
「ほんと? ……よかったー。ビックリしちゃったよー」
「モコナもびっくりしたー」
放り出されていたコートを拾い上げ、ヤツは姫を再び丁寧に包み直した。
「……1人にしてゴメンね?」
大切そうに抱きかかえるその表情に、ふと目を奪われる。
小僧の大切な人ではあるが、この姫はコイツにとっても守りたいものになりつつあるのかもな。
……や、別に深い意味じゃなくてな。
白まんじゅうの悪ふざけに引っ掛かった小僧に、ヘラいのがなにやら説教を垂れている。
……嘘臭ぇ。
もっと気楽に行こう、だぁ?
いつも何かに怯えてんのはどこのどいつだ。
それを悟らせまいとして、いつもへにゃへにゃ笑ってんのは。
夜中にビクリと目を覚まして、その後気づかれないよう息を殺してやがんのは。
確かにあの小僧はあれ以来笑うどころじゃねぇようだが、おめぇほど不安定じゃねぇだろ。
あー、白まんじゅうとじゃれ合ってるときは楽しそうではあるがな。
だがまぁ、そう言ってやることによってガキ共はずいぶんと楽になるだろうし、言って聞かせるとすりゃ、このヘラいの以外にはいねぇ訳だが…… 自分を棚に上げすぎだっつの。
忘れようとしたって忘れられない、か─── おめぇもそうだってワケかよ。
誰だかが水底で眠ってる、とかなんとか言ってやがったな。
そいつが目覚めたときに、追いつかれねぇように逃げなきゃなんねぇ、とか。
逃げ続けるだけでいいのかよ。そんなんじゃ、いつまで経ってもビクビク怯えてなきゃなんねぇぞ。
そんなんで楽しい旅になんか、なるはずねぇだろ。
ガキ共に優しくしてやって、保護者になりてぇんならそれもいい。
あいつらだって決して弱かねぇが、励まし支える存在がありゃあ、またずいぶんと違うだろう。
だがな、子供だって中身が伴わねぇモンはすぐに見抜くぞ。
小僧たちのことを思うなら、反対に気ィ遣われねぇよう、せいぜい頑張るんだな。
たかだか数日同行しただけで、黒様はまたなんでそんな偉そうなんですか。おしおきで飛ばされたくせにー(笑)
ファイのモコモココート、ジェイドが寒いからサクラに貸したのかと思ったら、移動前から着てますね。なんでだろ。
野宿して布団代わりに借りたにしても、起きたら返しそうなものですが。
前半と後半でノリが違うのは、ゴールデンウィーク中に書き散らしたメモが後半だけだったからです。
この先、こういうことがちょくちょくありそうです。
18.7.1
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25話 雪
だんだん慣れてきたモコナの次元移動。
今度の世界の情報は、視界が回復するより前に、嫌応もなく馴染んだ温度としてやって来た。
頬を刺す冷たい風。どんよりと暗い灰色の空。
雪が…… 降るね。
肌に感じる温度だけでビクリと竦んでしまった自分に呆れちゃうよ。よく見たら全然違うじゃんかー。
ここはセレス国じゃない。まだ雪は積もってもいないし、何より魔法の気配がないもの。
オレ、どれだけビビってんだろ……
ナイフとフォークとスプーンでの食事に、黒たんはガチャガチャと音を立てつつ悪戦苦闘。肉を相手に、フォーク2本で果敢に挑んでいる。
日本国って、食事にはおはししか使わないのかな? 切るのも口に運ぶのも、あの2本の棒でみんなやっちゃうなんてすごいねー。
小狼君はどっちも使えるんだね。サクラちゃんもそうなのかな?
苦労してやっと食べてるんだから、あんまり横取りしないであげてよぅ、モコナ。
オレたちが食べ終わった後でも黒ちゅーはまだ頑張ってて、それでもモコナが取るもんだからすっかりご機嫌斜め。
でもそのおかげで、イカサマだってイチャモン付けてきた人達を黙らせることができたんだから、まいっかー。
サクラちゃんの羽根っぽい伝説を仕入れたので、北の町に向かって出発ー。
移動手段のお馬さんは買ったから、あとはこの国の服を買って着替えてからね。
あったかい服を買わなきゃね。……雪が、降るから。
今は雪が降っても、積もらずに溶けちゃう時期なんだって。でもこの寒さだと、そろそろ積もるかもって。
積もらないうちに、次の町まで行けるといいね。
訊いてみたら、日本国にも雪は降るんだって。
でも暑いときもあって、それぞれの中間があって、その4つで四季かぁ。へぇ〜、忙しそうだね。
そっかー。黒るんも雪を知ってるのか。
……えへへ。なんか、嬉しいかもー。
それじゃあ、雪人形や雪ランプなんて作ったことあるかなぁ。雪のお部屋や氷の家具は?
ああ、後のは魔法じゃないと無理かな。
子供の頃、君がどんな遊びをしてたか知りたいな。
寒いとき、暑いとき、どんな風景の中で暮らしていたのか知りたいな。
でも、実際にこの目で見たいとは思わないよ。
だってそれは───
雪の話はナーバスになるかと思いきや、嬉しがってしまった。意外な結果だ。
雪合戦とか陣取り合戦とか、大勢での遊びは避けてみました。友達いない説採用。
てか扉絵とアニメに惑わされ、ジェイドに着いた途端に雪景色だと思い込んでて、確認したら全然積もってなかったー!
スピリットも着いた初日はまだ積もってなくて、それなら晴れた日に失踪させた方が、足跡関係ないんじゃ……(笑)
そういやセレス国が1年中雪っていうのも同人的思い込みで、原作からの情報じゃないんだよねー。合ってるのかな。
18.7.2
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26話 使用人
「よくも頭突きしやがったな」
「いやーん、怒りんぼーv」
廊下の隅で黒ぽんとモコナが揉めている。あの2人、いっつも仲良しだねー。
「おーい黒ぷー、早く部屋に入ろうよー」
「だれが黒ぷーだっ!」
振り返った黒るんが引っ張ってるモコナのほっぺが、横3倍くらいにみょーんと伸びている。
わー、どこまで伸びるんだろう? 痛くないのかなぁ?
あ、そう言えば。
「さっきはナイスフォローだったよ。銃持った町の人達に囲まれた時ー」
「父さんと旅してる時にもあったので」
昼間のことを小狼君と話してると、それまでモコナを構ってた黒るんが、オレにターゲットを移した。
廊下の窓枠に腰掛けたオレの正面。モコナを頭に載せ、小狼君との間に割り込んでずーんと聳え立った黒い人。
なーに? コワクないよー。
「そういやぁ、さっきはよくも使用人呼ばわりしやがったな」
「いやーん、怒りんぼーv」
えへへ、オレもモコナの真似〜 ……って、えぇー!?
「い、いひゃいー!」
お、オレのほっぺ……
「おお、よく伸びるな」
伸びないよー!
「やー! いりゃいひょ〜ぉ」
「く、黒鋼さ……」
「わぁー、ファイ、さっきのモコナとお揃いー!」
モコナひどい〜 たすけてー!
……って、オレもさっきモコナのこと、助けてあげなかったけどさ。だってすごく楽しそうに見えたんだもん。
……
………
…………
もしかして、オレも、楽しそうに見えるの?
モコナと黒たんが仲良しに見えたように、オレと黒さまも仲良しに見えてるのかな。
そうなの? だから助けてくれないの? ホントに?
ようやく解放された両頬が痛いふりをして、オレはゆるゆると込み上げる嬉しさを両手で押し隠した。
……あまりにニセモノな2人ですいません。
小狼が『嘘も方便』を実践したときの黒様、いい顔しましたねー。
アレですか。純情無垢だと思っていた娘の部屋から、同人誌を発見したパパのような?(何言ってんだ)
18.7.3
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27話 馬
小狼君が、雪で白く埋もれた町並みを眺めている。
昨夜はずいぶん降ってるなぁと思ってたけど、やっぱりだね。一夜明けたら、どの家の屋根もみーんな真っ白な綿帽子。
こんな景色は嫌いじゃないけど、余計なことまで思い出しちゃいそうで本当は見たくない。
けど、誰かと一緒なら───
「積もったねぇ、雪」
「昨夜、随分冷え込んだしな」
黒みーも寄ってきて、3人一緒に外を眺める。
あー、オレがドアに近いベッドを選んじゃったから、窓際の2人は寒かったかもー。
ガラス越しにも、降りしきる雪を感じてしまうのが嫌だったんだ。
どうしても外に目が行くから、窓から離れた所にあるベッドを選んだんだよ。ゴメンね。
眠るまでに何度となく目が向いちゃったけど、あの位置からだと、窓との間に黒ぽんがいてくれるから。
黒さまが雪との間を遮ってくれてたから、だからひとまず安心できた。
いろいろと思い出してしまいそうな雪景色も、こうやってみんなで一緒に見ているうちは、ただキレイだと思えるのにね。
また昨夜も子供がいなくなったって、町は大騒ぎだ。
声のおっきなお兄さんにギロッと睨まれたりして、わー、完全に疑われちゃってるねー。
じっとしている方が怪しまれないんだろうけど、でもオレたちは羽根を探さなきゃならないんだ。
町長さんに話を聞いて、歴史書を借りてから北の城に向かう。
この国の文字がただ1人読める小狼君は、馬に乗って障害物を避けながら読む、という名人芸を披露中。
という訳で、今日の小狼君は2人乗りができないので、サクラちゃんはオレの前に乗ってるよ。黒たんと2人で乗るよりは軽くて済むでしょう? それに黒ぴーはモコナと一緒だしねー。
だからサクラちゃんは、オレと一緒。
……なんてね。
お城から戻って馬たちを繋いだ後、オレはちょっとその場に残った。
オレを乗せてくれてる白い馬。まだ会ったばかりだけど、なんとなく懐いてくれてるような気がして、ちょっと嬉しいんだー。
「ゴメンねー。今日は重かったね」
オレがサクラちゃんと2人で乗ったワケ、ホントは重いからなんて理由じゃないんだ。
今日は荷物も載せてなかったし、この黒い馬なら2人乗りくらい平気だって知ってるよ。
ただ、黒りーが誰かと一緒に乗るのが嫌だっただけなんだ。
「ゴメンね……」
誰にともなく謝ってみる。
別に悪いことはしていないし、黒さまかオレかどっちかって言ったら、オレがサクラちゃんを乗せる方が自然だったと思うけど…… でもやっぱり、なんとなく後ろめたい、かな。
「オレ、バカだなぁー」
自分がこんなこと考えるなんて思ってもみなかった。もー我ながらビックリだよ。
サクラちゃん相手にヤキモチなんて必要ないし、そもそもオレには、そんなこと感じる権利も資格も何もないのに。
馬のたてがみに手を置いたまま黄昏てたら、振り返るようにして首を寄せてくれた。
……元気付けてくれてるの?
「ありがとー」
こんなことじゃ、これから先が思いやられるけど。
「オレ、がんばるね」
あんなに要らないと思った旅の仲間。今は、一緒にいきたいってすごく思うから。
一緒にいたいよ、できるだけ長く。いつか追いつかれる、その日まではずっと……
やきもちファイにゃん。黒鋼に構ってもらえないと、あらゆるものに妬きそうで困りものです。
窓から雪を眺めてるときの小狼が、ちょっと黒ファイ前提の小→ファイっぽい(笑)
18.7.4
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28−29話 眉毛
またコイツかよ。
自警団を気取った集団のリーダーなのか、武器を持つ自分が優位に立っていると思い込んで、居丈高に怒鳴り散らす眉毛野郎。
その他の腰抜けどもよりはいくらか気骨があるようだが、威勢良く吠えるだけじゃなんにもならねぇぞ。
子供達を見つけられねぇ自分達の無能を、俺らにヤツ当たりしやがって。
丸腰の人間から、まさか反撃されるとは思ってもいなかったんだろう。実力も測れず、下手に出てたガキに銃を向けたヤツは、あっけなく武器を蹴り飛ばされた。
よりにもよって姫が犯人だとかぬかしやがって、小僧を怒らせて当然だっつーの。
銃を人に向けて振り回すくせに、それが自分に向けられるとは思ってもいなかったってか。
そんなことも覚悟してねぇヤツが、武器をオモチャにしてんじゃねぇよ。
そこでヘラいのが、のほほんとマヌケな合いの手を入れてこなければ、もうちっと脅かしてやってもよかったんだが……
それからずっと、眉毛はオレたちに付いて回ってる。
なぜ怪しいのかもろくに考えもせずに、余所者だからというだけの理由で、1日中付け回してやがる。
黙ってついてくるならいいが、いちいち大声でうるせぇんだよ。
姫がいなくなって、小僧は焦ってる。それを、いちいち神経を逆撫でするようなことばっか言いやがって。
自分が捜索の邪魔してんのが解んねぇのか。
あークソ、一発ガツンとやっちまいてぇ。
その夜。
小僧を残し、別行動で川の上流に向かう俺と魔術師を怪しいと睨んだのか、眉毛野郎はこちら側について来た。
まぁ、白まんじゅうを見られる訳にいかねぇから、好都合だったんだが…… しかし、うるせえ。
「どこまで行くつもりだ!」
「ちょっと探し物ー。町の人はあんまりこっちには来ないの?」
ヘニャヘニャ笑いながら話すコイツを与し易しとみたのか、眉毛野郎の口は案外軽い。俺には絶対に話し掛けてこないがな。
侮られてると気づいてるだろうに、魔術師は意に介した素振りも見せずに情報収集に励み、なんとかそれらしい場所を聞き出した。
「案内してもらえるー?」
「誰が! おまえ達みたいな怪しいヤツに教えられるか!」
「うわキビシー。……でもさ、カイル先生だって余所から来たんでしょうー?」
「あの先生はいい先生だからな! おまえ達とは違う!」
「へぇ〜。じゃあオレも悪いことしようと思ったら、2年くらい 『いい人』 でいればいいのかなー」
お、言ったな。眉毛から知りたいことは聞き出したから、もういいってか?
「なんだと! 何が言いたい!」
「別にー。あ、知ってるー? 一流の詐欺師って、騙されたことにも気づかせないんだってね」
「カイル先生がそうだとでも言うつもりか!」
「小狼君が来なきゃ、一流のままで終われたかもね。残念だったねー」
「黙れ! デタラメ言うな!」
……黒い。黒いぞ。もう用済みとはいえ、コイツ、こんな言い方するヤツだったか?
「もうすぐ判ることだから、先に言っといた方がいいかと思って。それとも、信じたままで終わりたかった?」
にっこりと、必要以上の笑顔。――― ああ、ひょっとして、怒ってたか?
小僧の逆鱗に触れた姫の犯人扱い。俺もちっとはムカついたが、実はコイツも怒ってたってか。
あん時もヘラヘラ笑ってやがったくせに、解りづれェんだよ。
……面白ぇ。1歩引いてるくせして、随分と身びいきするようになってきたじゃねぇか。
うわー難産だった。しかも尻切れトンボ。後半書き直してたら、全然別の物が出来上がりました。ファイが黒いよー。
無理に黒ファイに持っていこうとしたら、思わぬ展開に。今の今まで、黒鋼もファイも怒ってたなんて思ってなかったのに(笑)
ところで自警団の皆様は、夜に見回りをしたらいいんじゃないかなー。
18.7.7
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