50話 イケニエ
「いーけないんだ〜 いけないんだ〜〜♪」
せっかくモコナが上手にかわいく歌ってくれたりして、新しい世界を楽しく探索してるのに、黒ちゅうはずーっと不機嫌。
うううー、怒ってるよぅ。睨まれたよぅー。こわぁ〜い。
「星史郎さんとの戦い、途中になっちゃったからー?」
……それとも、オレのことを怒ってるの?
あのね、すぐに謝ろうと思ったんだよ?
うっかり死んじゃってゴメンね、って。心配、させちゃったはずだもんね。
でも、なんか、言い出せなくて。タイミングが掴めないよぅ。
探索に出ることになった時も、つい咄嗟に、モコナに「一緒に来て」って言っちゃったんだ。
小狼君とサクラちゃんはモコナと離れても言葉が通じるけど、オレと黒ぽんはダメだから───
って、一応理由はつくんだけどさ。
あぅー、それで尚更怒ってるのかなぁ。
普通の会話はできるのに、時間が経つほど切り出しにくくなってくる。
魔女さんからのお手紙を読んだら、黒っぴはますます不機嫌になっちゃってさ。
ねー、これ、何て書いてあるの? オレには、何が君をそんなに怒らせたのかも解らないんだ……
どこの世界に行っても、オレの知らない文字ばっかり。
小狼君はいろいろな国の言葉を勉強したみたいだし、黒様だって所々なら読める、みたいな感じなのに。
オレのいた世界は、そんなに異質だったのかな。
オレ以外のみんなには、黒むーのこと、もっと解り易いのかな。
オレは君から見たら、いちばん遠いところにいるのかも。
こんなに隣にいるのに。君のことをいちばん知りたいのは、オレなのにな……
元の場所に戻ってみると、いつの間にか目覚めてて、なぜか網みたいな罠に掛かっているサクラちゃん。
えー、どうしたのー? 小狼君は?
「桜都国でやった訓練はどうなってんだ」
弟子の不甲斐なさに、黒みーはますます不機嫌。あららー、先生きびしー。
連れて行かれたっていう小狼君を追っていくと、わぁ、なんだろ、この可愛い生き物は。
「なんだ、てめーら」
あー、黒るーの一睨みでみんな怯えちゃったじゃない。ほらほら、大丈夫だよー。
「このヒト顔こわいけど、とりあえずいきなり噛み付いたりしないからー」
それどころか、誰よりも優しいんだから! ……ホントだよ。
「みんな行って帰って来なかったらイケニエいなくなる。ひとり残って!」
ってのが、彼らの言い分。んー、そーだよねー。
あははは、しっかりしてるー。……じゃあオレ、残るよー。
「ここで応援してるよー」
人選の結果っていうより、実は気になることがあったから残った、ってのが正解なんだけどね。
……でもホントは、黒様から逃げたい気持ちもちょっとはあったかも。
先延ばしにしたっていいことなんかないって、解ってはいるんだけどね。
8巻表紙の小狼の衣装が、鯉のぼりにしか見えないのは私だけですかそうですか。
ふわもこの話って、1話で終わったような気がしてましたが、3話もあったんだー。
黒鋼が怒ってた理由は、モチロン侑子さんと、あとやっぱりファイのこともあるような気がするなぁ……
18.8.6
|
51−52話 ふわもこ
みんなが出掛けている間に、オレはフワフワかわいい人達から情報収集。
この子達、いったいなんなんだろ。魔法生物じゃあないのかなぁー?
なんかね、ここは 『独自の進化を遂げた世界』っていうより、『誰か(神様?)が、作りかけの世界に、気に入った生物をちょっと置いてみた』
みたいな感じがするんだよねー。
魔術の修行中の子供たちが、ペットとしての魔法生物を創る勉強をするときに、可愛くしようといろいろと試行錯誤するのに似てる気がする。規模は全然違うけどね。
何となくちぐはぐで、無駄に可愛くて、どこか中途半端。
ホントに何なんだろう、この世界は。
他の生物の気配もよくわかんないし、なんとビックリ! この子達、羽根も持ってたんだよー。
落ちてたー、って持って来てくれたんだけど、こんな近くにあったのにモコナがめきょってならなかったのって、変じゃない?
視ている、っていう誰かが、手を出し始めたってことなのかな。
黒んたたちの方は大丈夫かなー。
羽根がここにあるのに、魔物は別のところにいるの?
今までの世界では、たいてい羽根が中心になって騒動が起こってなかったっけ?
誰かの罠、ってことはないのかな。
魔物の正体、この国のこと、もっと詳しく訊いてみなきゃ。
えー、と……
話を聞いてみたんだけど…… あのー、これは、もしかして。
黒ぴっぴってば、また暴れ足りなくて不機嫌になってるかもー。
風を相手に、みんなでどう頑張ってるか知らないけど、もしどうにもならなくても、羽根をサクラちゃんに返せば竜巻は自然に治まるよね。
『生贄』って言葉に惑わされずに、誰も怪我しないうちに、早く戻ってくるといいけど……
わ、わ。これできっと魔物はいなくなるよって言ったら、この子達、喜んじゃって踊り始めたよ。
お祝いの踊りかぁー。楽しそうだね。
わーい。ドラムとスティック、オレにも貸してくれるってー。
すごく変な世界だけど、まぁ、いいや。
せっかくだから教えてもらって、この場は一緒に踊って楽しんじゃおーっと。
ファイって人前じゃなければはしゃいだりしない人かと思えば、楽しそうに踊ってましたねぇ……
ふわもこ達も一応、人扱いだからかな。
もしもファイが一緒に行って風に飛ばされそうになったら、黒鋼はちゃんと掴まえてくれるかなー。
すごく見たいんですけど!
モコナが飛ばされるのを掴まえるとこは、いつ見ても笑っちゃいます。
18.8.7
|
52話 竜巻
前の世界で星史郎と刃を交えている最中に魔女に水を注された分、この世界でやっと暴れられるかと思えば、魔物は竜巻だとかでまたも空振りかよ。
拍子抜けして戻ったところに太鼓の音が聞こえ、煙が上がってるのが見えて。
へにゃ野郎が生贄にされちまったかと急ぎ駆けつけてみれば、本人は至って呑気にヘラヘラ踊ってやがって。
「お帰りー」
「……何やってんだ、てめぇ」
ヤツらの太鼓を首からブラ下げ、撥を手に一緒になって踊るその姿。……間抜けにも程があるだろ。
羽根が見つかったお祝いだと?
落ちてたのを拾ったとは、なんつー怪しげな。
このいい加減なウサギども、どーにかしろ。まるでウチの魔術師みてぇに胡散臭ェ。
羽根があったからまぁ良しとするが、こんな国、さっさと移動しちまうに限る。
姫の中に羽根が戻ったとたんに起こった最後の竜巻は、それほど強いもんじゃなかったが、それでも白まんじゅうを含め、小せぇ奴らは吹き飛ばされそうになってやがった。
咄嗟にわらわらと群がって来やがって、俺は重石かよ。
……って、オイ。オマエは飛ばねぇだろ。
どさくさに紛れてしがみ付いて来た、小さくねぇのが1人いたが、
「……ごめんね」
風の音に吹き消されそうではあったが、耳元で聞こえたのは空耳じゃねぇよな。
何の事だ。留守中に何かやらかしたか?
こんなゴタゴタしてるところじゃ、問い質すこともできねぇ。
…ンの野郎。落ち着いたらじっくり訊き出してやるから、覚悟しとけ。
魔物退治のときの黒鋼は、まるで引率の先生みたいでカッコよかったよー。
これの下書きメモは5月に書いたんですけど、ちょうど今(124話)の時期、「……ごめんね」
は微妙ですよね。
でもやっぱり、命の心配をさせたから 「ごめんね」 でいいのかな、と思って。
18.8.8
|
53話 ふたり
なんで? なんでみんないないの? はぐれちゃったのー?
落ちたところにはオレと黒りーだけ。えぇー、そんなぁ!
そりゃー、あの、う、嬉しい。けど、さ……
誰もいないよりは、誰かがいてくれた方がずっと嬉しいけど。
他の誰よりも、この人がいてくれたら嬉しいんだけど、でも。
どうしよう…… 黒ぷーずっと怒ってるよぅ。
「また戦えなかったからー?」
「…………」
……返事もしてくれない。
そうじゃなければいいと思ってたんだけど─── やっぱりオレと一緒になっちゃったから?
黒ぷいオレのこと嫌いだもんね。相手がオレだから不機嫌なのかなぁ…… ちぇー。
いい大人なんだから、顔に出さないとか胸に収めるとか、そういう芸当も覚えた方がいいんじゃないのー?
……って、君はそういうの嫌いだもんね。嘘とか誤魔化しとか。
でも必要なときには、素知らぬふりでやってのけるくせに……
オレの前では、いっつも不機嫌丸出しだよね。オレが怒らせてるって言うけどさ。そんなの忍者失格ー。
そのくせ、分かり易いと油断してると、不意を突かれたりするから侮れないんだけど。
取り敢えず、旅の危険について話を振ってみる。前の世界、明らかに変だったでしょう?
……あぁやっぱり。この手の話なら、きちんと応えてくれるんだー。
ホントは、どんな話にもちゃんと乗って欲しいんだけど…… しょーがないかー。
最近の君は、子供達を守るためなら全力を尽くしちゃってるものね。
危険は率先して排除するし、不安にさせないような気遣いもする。やっさしーんだー。
んー、まぁ、これなら大事な話だから、他の話題に逸らすわけにも行かないでしょ。
例えば、あの2人とモコナがいないときに、君がオレに振ろうとしてる話とかね。
この間から時々、黒たんに睨まれている気がする。
たいてい、オレが小狼君たちに向かって、何か言ってる時。
オレなんかが偉そうに話をするのが、気に喰わないのかなぁー。
何か言いたそうなんだけど、子供達の手前カンベンしてやる、みたいな感じ?
黒むーと2人きりでいられて嬉しいのに、何を言われるのか怖くて話題を選んだりする。
オレ、ダメだなぁ…… せっかく一緒にいられるのに、こんな駆け引きみたいなことしかできないなんて。
あ、そんなことしてる間にお客さんだー。
ここで軽〜く運動したら、ちょっとは黒んぴゅの不機嫌が直るかなぁ。
君が楽しく大活躍してる間、オレは邪魔しないようにゆっくり見学させてもらうね。
黒さまの戦ってる姿、かっこいいから、オレ見てるの大好きなんだー。
……見てるだけなら、いいよね? 想ってるだけなら、怒られたりしない、よね……?
茶々を入れたりからかったりしたわけではなく、本気で「やっさしー」とか「かっこいー!」と思ってたら楽しいなと。
うちのファイは惚れた弱みと「嫌い」が尾を引いて思考が後ろ向きなんだけど、自分で書いててウザくなってきたぞ……
18.8.11
|
54−55話 夜叉像
ひと暴れしてやるかと身構えたところに仲裁に入った奴は、ヘラいのと同じくらいにフニャけた奴だった。
力を持つが、穏やか。
多分、こいつが他人からそう見えるように装いたがってる姿が、こういうのなんじゃねぇか。
その割には、隙が多いし食わせ者感が漂ってるしで、成功してるとは言い難ぇが。
まぁ姫あたりは、すっかりそう思い込んでいるようだがな。
しっかし2人してほわほわ会話する姿は、俺を含めた他の野郎共からは、どう見ても浮いている。
外野が殺気立ってる中、和やか、且つあっという間に滞在を決めてしまった。
『神主』 を知らない魔術師に説明してやる。それから 『姫巫女』 という言葉も。
『姫巫女』=『知世』って訳でもねぇんだが、面倒臭ぇんでそういうことにしておいた。
「ふぅーん……」
言い方が微妙だったんで、追及してやろうかと思ったが、背後にゾロゾロと続く野郎共から邪魔が入った。うるせぇぞ外野!
うっかり睨んでビビらせたら、魔術師がへにゃ顔でフォローを入れやがった。……気に入らねぇ。
夜叉像か…… 夜と黄泉を司る神。
そして阿修羅は、戦いと災いを呼ぶ神。
俺の国でも、まぁ、似たようなことを言われていたな。
よぉ、おめぇの国でのコイツらは、いったいどんなもんだったんだ。
一瞬止まった呼吸。
気づかれてねぇつもりだろうが、見逃してやるほど親切じゃねぇ。
ヘラヘラへにゃへにゃばかりして見せてるが、不意を突いてやると意外とボロが出る。
最初の頃はさすがにピリピリしてやがったが、警戒を解くのは驚くほど早かったよな。
その後は、そのへにゃ顔が武装だっていうのが判るほどに、時に透けて見えた。
そのくせ、こちらが踏み込もうとするとピタリと閉ざしやがって。
そっちがそんなんじゃ、信用しろって方が無理だろ。
自分から閉ざしておきながら、恨めしそうな顔すんじゃねぇ。
可愛がって欲しいのに警戒心を捨てられねぇ、拾われたばかりの猫みてぇだ。
夜叉、そして阿修羅。
おめぇは何を知ってやがる。怪異の原因に心当たりでもあんのか。
クソ、何もかも洗いざらい吐かせてやりてぇ。
前の世界でどさくさに紛れた謝罪の意味も。
ファイがやっとのことで謝ったのに、黒鋼には全然伝わってないことが判明しました! 気の毒な。
ウチの黒鋼、自分ではファイのことはお見通しなつもりなくせに、色恋沙汰とは気づいてない? ような……
それじゃ根本的に解ってないんだよ!(笑) 今後半年の間に、なんとなーく伝わるんじゃないかと思うんですが、どうだろう?
18.8.12
|
57話 酒
「胡散臭い奴だなぁ、って思ってるでしょー」
「ああ」
「やっぱりー」
ちぇー。せっかくおいしいお酒だったのに。台無しー。
君の中のオレは、空ちゃんのところで最初の晩に「得体が知れない」って言われた、あの時からちっとも変わってないってことだよね。
オレの中の君とは大違いだよ。
オレの中で君はとても大きくて、ともするとあの人のことまで押し退けそうなほど。
一体どこまで大きくなるつもりなのー。ちょっとは遠慮してよぅ。
桜都国で酔っ払っちゃったのは、抵抗力がなかったから、かなぁ……?
だって、「一番嫌い」って言われちゃったからさー。
頭では平気だって思ったけど、全然平気じゃなかった。あれからずっと、息が上手く吸えないみたいに苦しかった。
もう何かに抵抗できる力なんて、残ってなかったんだ。
相手がお酒じゃなくて、鬼児でも犬でもしりとりでも勝てなかったと思うよ。
この間から何か言いたそうだったのは、これかぁー。
「おまえも腹割るつもりはねぇみてぇだからな」 だってー。
……黒たんはさぁー、オレになんでも話して欲しいの?
いっつも 「俺には関係ない」って、そう口癖みたいに言ってたくせにー。
オレが何かを隠してるのはイヤなの? オレのこと、知りたくなった?
そういうのって、ちょっと嬉しいよねー。10のうち、9くらいまでは話してしまいたくなるよ。
「……そうでもないかもしれないよ?」
でもね。よりによって、残りの1つの質問をするなんて意地悪だー。
……まいったなぁ。見てないようで、見てるんだから。
気づいてるなんて、反則だよぅ。
いつも気遣ってる2人がいないから、今日はオレを見てたの? だから気がついちゃったのかな。
結局、黒みーの投げた一手に、オレは応えられなかった。
「水底で眠ってる人の名前だよー」って、軽ーく答えればよかったのに、咄嗟には言葉が出なかった。
オレとしたことが呼吸も表情も取り繕えなくて、いかにも 「隠し事してます」
みたいになっちゃった。
いつもはもっと簡単にあしらえるはずなのに。相手が黒様だと、オレ、上手に喋れないみたい。
蒼石さんの朝御飯のお誘いに乗ったときの、君の恐ーい顔。
失望した? 見限った? ……また、嫌われちゃったかなぁ。
でもね、話せないよ。オレのこと、あの人のこと、君には話せない。
オレとあの人のこと。あの人の下でオレが何をしてきたか、君には知られたくないよ……
一晩飲み明かしながら何を語り合ったのか、捏造話を1本挿入できそうですよね。でも思いつかなかったー。またの機会に。
加減できない呑んだくれは嫌いなので、飲んだのは周りの数本で、あとのは地震で転がったのを放置しただけなMY設定。
だって空き瓶を、あんなにわざわざ部屋一杯に散らばす必要ないし。一升瓶1本だって、普通の人なら飲み過ぎだよ。
18.8.13
|
57話 朝食時
この国の食事は難しい。おはしだけじゃなくて、座り方も。
黒っちみたいに座りたかったけど、引っくり返っちゃいそうでできなくて。
蒼石さんのマネして座ってみたけど、あ、足が、痛いよぅ……
でもこれが黒むーの国のやり方に近いんだと思ったから、オレ必死に頑張ったのにさ。
おイモを落っことすたんびに黒みんは睨んでくるし、さっぱり食べた気がしなかったよ。
やっとのことで食べ終わったけれど、オレはちょっと、いや、だいぶ困ったことになっていた。
「おい、戻るぞ」
「く、くろたん…… 待って」
「? どうした」
「あ、足が……」
ずっと慣れない座り方をしてたら、足、がー。痛いのを通り越して、感覚が、なくなっちゃったよぅー。
立つのに失敗してガクンと手を突いたら、もうそこから動けなかった。
「……動け、ない。立たせてー」
「ぁあ?」
ドカドカとやって来た黒ろんが、左腕を掴んでグイッと持ち上げてくれたけど、萎えたままの足は役に立たなくて、顔からモロに黒ぴーに衝突した。
「ご、ごめ……」
えー、えー。わぁ、どうしようー。
正面から黒りんにしがみ付く形になってしまって、オレは軽いパニックに陥った。
そして、追い打ち。
一気に血液が巡り始めた足は、当然のことながら、痺、れ……
「ぅ、っく、ぅー……」
ど、どーしよー。動けないよぅ〜〜 どーしたら。た、たすけて……
ぎゅっとしがみ付いたまま、身動きできずにふるふるしていると、頭の上で舌打ちが聞こえた。
「ったく、めんどくせぇ」
うわぁん、ごめんなさいー! って、えっ……?
いつかと同じ。オレは荷物みたいに、黒ぽんの肩に担ぎ上げられてた。
「え、ちょっ、降ろ…、う、あぁ、ぁ、ぁ、ぁ〜〜」
のしのしと大股で歩く1歩ごとに、ジンジン響くんだよぅ〜! 痺れてるんだから、もっと、優し、く……
「暴れんな! 落とすぞ」
もしかしたら誰かに見られてて恥ずかしいのかも知れないけど、オレはそれどころじゃなくって。
ねぇ、不機嫌は解ったからさ。オレに腹を立ててるのも知ってるからさ。
だからって、だからって、
「──── っ !!」
腹いせに、担いだまま痺れた足を思いっきりグニグニするのはや〜め〜て〜〜!!
ようやく部屋に辿り着いて、畳にゴロリと転がされたときには、オレはもう息も絶え絶えになっていた。
「ひ、ひど…… でも、ありがとー」
恨み言を言うべきか、お礼を言うべきか、もーわかんないよー!
金魚みたいに口を開けて、はふはふ呼吸する。きっと顔は真っ赤だ。
でも、どうしようもないくらいの痺れはいつの間にか解けて、残ってるのは我慢できる程度のピリピリだけ。
「オレわかったよー。だから黒様は正座しないんだー」
「あぁ? 何が 『だから』 だって?」
「敵が急に襲ってきたときに足が痺れてたら、咄嗟に戦えないもんねー」
「や。別にそーゆー訳でもねぇんだが……」
絶対そうだー。ニンジャはいつでも戦えるようにしとくんだって、前に言ってたもんー。
決めた。オレおはしより先に、座る練習する!
足が痺れたせいで黒みんに抱きついちゃったり、担いでもらったりしたけど、嬉しいって感じる余裕もなかったんだものー。
こんな他愛もない小話なのに、いつもより長…… すいません。捏造はセリフを省略できないからだよね。
これを書くために、感覚がなくなるまで正座してみた私はアホですか。
実験は予想どおりでしたが、その後何でか知らんが酔ったような感じに (えー) これは予想外。き、気持ちワル……
18.8.15
|
語られなかった世界1 寿司
面白ぇもんを見た。
魔術師が寿司を食えなくて、ぷるぷるしてやがった。
あいつにも好き嫌いがあったんだな……
へっ、ざまぁみろ。甘いモンを無理やり口に突っ込まれた俺の気持ちが、少しは解ったか。
席が隣だったら、仕返しに突っ込んでやったところだ。
こんなに旨ぇモンが食えねぇとは、気の毒にな。
「おなかすいたよぅ〜」
その晩。空きっ腹を抱えた魔術師が哀れだった。
生魚だけじゃなくて酢飯のにおいもダメなら、それこそ玉子くらいしか食えるもんがなかったろう。
白まんじゅうも、こいつ用に稲荷でも干瓢でも、ガキが食うようなモンを注文してやりゃあよかっただろうに。
それともネタを剥いで、飯だけでも無理やりに食わせた方がよかったか……?
俺が気を揉む筋合いじゃねぇが、相部屋で目の前でしょげられるとどうもいけねぇ。
次があったら絶対食わせるからな。
子供らは寿司の種類を知らないので、モコナの気配り不足を責めるヘタレ黒。自分で言いなさい。
回転寿司の方が、まだ食べられそうな物がいろいろ回ってそうな。そしてサクラ様の食欲にビックリです。さすが育ち盛り。
てか食い逃げは犯罪だと思うんですが、雑誌はどこまで許容範囲ですか。差別以外なら何でもいいのか。
18.8.16
|