野望へ


         9 巻





58話 移動


 今日もまた大きく地面が揺れる。
 昨日と違うのは、空が不気味に割れていること。
 なんか、すごいよ。あの向こう、ものすごい力がぶつかり合ってる感じがする。
 なんかとんでもない感じなんだけど、あれもサクラちゃんの羽根の力なの?

 え───!?

 もう何度も体験した、身体に纏わりつく光のような力の流れ。
 まさか。
「ええ? 移動するのー?」
 モコナと離れてるのに、力は及ぶんだー。
 小狼君とサクラちゃんは一緒にいるだろうから、じゃあモコナのお口の中で合流できるのかなー?



 ……な、何か違う。今までとは違う。
 やっぱり離れたところからじゃ、モコナの力は上手く届かないんじゃないの?
 だってあの2人の姿も見えないし。
 いつもは真っ直ぐ流れるように感じられる周りの空間が、歪んで渦を巻いている。
 行きたい空間から別の方向に流されて、さっき感じた殺気の塊に引き寄せられていく感じ。

 ね、ねぇ黒むー。
 一緒に、落ちれるよね?
 こんなおかしな飛ばされ方じゃ、みんなと合流できるとは思えないよ。
 このうえ、君とも離れてしまったら───

 急に怖くなって、黒りんの袖に手を伸ばした。
 嫌だ。嫌だよ、君とまで離れてしまうのは。独りになってしまうのは。
 最初の予定では1人で逃げる気マンマンだったけど、今は、もう。
 この手がなくなったら、オレはどうなってしまうんだろう。オレはどこまで弱くなるんだろう。
 そんな情けないことにならないよう、気をつけてたつもりだったんだけど、全く無駄な抵抗だったんだよ。

 揺れとスピードを増す空間に翻弄されて、離れそうな腕に必死にしがみつく。
 嫌だ。君と逸れるのはイヤ……!
「く、くろ、さま…っ!」
 弾き飛ばされそうな流れの中、黒ぽんが反対側の腕で、オレを抱き寄せてくれたような気がした。
 ……嵐でよくわかんなかったけど。



小狼とサクラの移動風景に萌えたので、黒ファイにもマネっこさせてみました。
落ちるときも、黒様が庇ってくれるといい…… ん? それはいつものことだっけか。いや、アニメ限定か?

18.8.17





58話後 宿題
 

 オレたちがここに飛ばされてきた意味を考える。
 次元の魔女さんが言うには、全ては必然なんでしょう?
 オレたちが小狼君から逸れて、2人で来た意味を考えてみる。

 この世界に落ちて、もう何日も経った。
 何か意味があるなら、この場所にずっとこのままってことはないだろう。
 そのうちみんなと合流できるにしても、こんなに長く逸れてる意味って何?



 ここに来て、以前と変わったことと言えば。
 黒ぽんと言葉が通じなくて、別の世界の人間だったなー、って改めて思い知った。
 黒っぴがいつも子供達に示していた面倒見のよさが、オレに対して発揮されてビックリした。
 今のオレは黒ぷーに頼るしかなくて、オレの中に君が占める割合がどんどん大きくなっていくんだ。
 今までだって大きすぎるほどだったのに、溢れて溺れそうになるんだ。

 オレが黒むーのことでいっぱいになることに、何か意味があるの?
 それとも何か他に大事な目的があって、オレがこんなになっちゃってるのは単なる副作用なの?

 からかえないから、怒らせて追いかけられることもなくなった。
 でも、わざわざオレからちょっかいを出さなくても、黒るーの方から視線を向けてくれる。
 オレが困ってやしないかと、見守っててくれる。
 君の方を向くと、いつでも自然と目が合ってしまうくらいに。

 この時ばかりは、言葉が通じないことに感謝した。
 ……だ、だって、こんなの慣れてないから、何を言ったらいいのかわかんないんだもの。



 でも、話したい。何でもいいから話したい。
 声は聞こえるけど、何を話しているのか、知りたいよぅー。

 言葉、覚えられるかな……?
 言葉を覚えたら、黒むーの言ってること、理解できるよね。
 せっかくずーっと2人でいるのに、一言も喋れないなんて寂しいもんね。
 あと、黒様は口で「ひゅー」って言うの嫌いみたいだから、口笛の練習もしよう。
 黒たんみたいな座り方をして、おはしもちゃんと使えるようになろう。
 時間はいっぱいあるんだもの。ちょっとずつ、覚えてみようかな。



必然性…… 日本国永住のための予行練習ってのが、今(125話)の時点で1番しっくりくるような気が(笑)
ちょっと前までは 『妄想』 で片付けられそうだった、日本国エンドの可能性も出てきましたしね。いや油断できんが。
えー、今後半年分の捏造をしたいのは山々ですが、それをするといつまで経っても終わらないのでこのへんでー。
他サイト様の作品の数々で満足しときますー。でも、いつかやりたいぞっ。
18.8.18




58−59話 言葉


 簡単な言葉なら、なんとか聞き取れる程度には慣れてきていたから、最初は気づかなかった。
 もともと戦場なんて、怒号と悲鳴ばっかりだしね。
 でも、違う。
 小隊のリーダーと思しき人が発する指示の内容や、怪我した人の呻きの内容まで解る。
 これは───

 どこにいる……?

「なにボケっとしてやがる!」
「…!」
 あー、黒さま久しぶりー。いつも何かしら声は掛けてくれてたけど、
「呆けてねぇで、真面目にやれ!」
 あはは。やっぱりそんなこと言ってたんだー。そうだと思ってたけど。
 やっぱり君は変わらないね。懐かしいよねー。
「また死んだら承知しねぇ」
 え、……それは新しい、かもー。そんなことも、言ってたの?



 矢をつがえながら黒ぴーの顔を見て、にっこり笑って告げる。
 これを言ったら、今のオレたちの関係は終わる。オレの保護者モードになってる君は、これでもう見納めだね。
「モコナが来てる」
 エヘヘ、さすがにビックリした? 一瞬固まった君の後ろにいた敵は、オレが倒してあげるからね。
「黒さまー、久しぶりぃー」
 まじまじと見詰められて、ちょっと緊張する。ちゃんと上手に笑えてるかな。

「えーと、あっち、かなー?」
 崖の端から、こちらの王様の隣に並んで見下ろせば、わー、やっぱりー。
 こちらの王の視線の先には、いつも向こうの王様がいる。それにプラスして、今日は懐かしい2人の姿。
 それを確認したところで、本日の戦いは時間切れー。
 あー、小狼君たちは向こうの王様に拾われたか…… 羽根はこっちにあるんだけどね。
 それじゃあ、あともう何日かはこの国にいられるかな、なんてことを思ってしまったのは内緒ー。



いきなり半年後です。ファイの語学力は、どの程度まで上達してたんだろうなぁー?
ファイのことだから、日常会話程度は解るようになってたと思うんですけど…… でも黒鋼にはナイショにしてたかも。

18.8.19




60−63話 次の日


 月の城から戻ると、もう言葉は通じなくなっていた。ちぇー。
 それじゃあ敵さんの国とは、ずいぶん離れてるってことだね。
 小狼君がこちらの羽根に気づくのはいつだろう。
 ここの王様にはずいぶんよくしてもらったけど、あと何日かで、きっと永遠にお別れだ。



 月が夜空に現れてから、中天に昇りきるまでの間だけ。夜毎繰り返される戦いの時間。
 今日の黒みゅうはずいぶん楽しそうだね。
 ちょっとだけ手を出したオレをチラリと睨んで、あとは小狼君との戦いに夢中。
 久しぶりだし、弟子を実戦で鍛えられるのが、嬉しくてしょうがないんだろう。
 むー。模擬戦でオレと当たったときだって、そんなに生き生きしたカオしてなかったのにー。

 小狼君がやっと本気になって、黒ぽんの技も威力を増したとき、向こうから横槍が入った。
「配下を助けるなんざ、らしくねぇな。阿修羅王」
 あー。……やっぱり向こうの王様は 『あしゅらおう』って名前なんだね。オレの聞き違いじゃなかった。
 でもあの人とは違う。魂は同じじゃない。

 お手本とばかりに、速攻で斬り込む黒さま。
 おっと! そこのブーメランのお兄さん、黒ぷーの邪魔をするのはこのオレが許さないよ。
「手出しするな」って言われてもー、ゆっくりしてる時間なんてないと思うよ。
 オレが黒りんに手出しされると怒るように、向こうの王様に手を出すと怒る人が、こっちにいるでしょ。



 圧倒的な力を放ち、その後は無言で見下ろす夜叉王。
 向こうの王の視線も、こちらの王だけを追っている。
 気づいてるよね。この夜叉王は、本当はもういないんだってこと。
 心は決まったのかな。彼を、羽根から解放する───

 時間切れだ。また明日ね、小狼君。
 その間にそっちの王は、辛い決意を固めるのだろう。夜叉王は、きっとそれを受け入れる。
 明日でおそらく、この世界での全てが終わる。
 ようやく。
 それとも、とうとう……?



殺さないのに、最強と認識されてる黒鋼(と、たぶん付き合いでファイも)って、どんな戦い方してるんだろ。
ところでモコナが留守番でも、月の城で言葉が通じるほど近いんでしょうか?
モコナの力の及ぶ範囲が、明らかに広くなってる気がします。
城は修羅の上空に見えるけど、夜魔とは離れてるのかな。近隣国じゃないらしいから、月にある国なのかもしれん。

18.8.20




65話前 前夜


 この国の夜は長い。
 月の城から戻っても、食事をし、休むまでの間には充分な時間がある。
 たいていは聞いても解らねぇ魔術師のおしゃべりを聞き流しつつ、武器の手入れや酒を飲んで過ごすんだが。



 この夜、ヘラいのは俺の腕を引っ張って部屋を出た。酒の瓶を片手に訪れたのは、王の居室。
 いつも思うんだが、ここの王は大雑把過ぎねぇか。
 素性の知れねぇ俺達をここまで取り立ててくれたのもアレだし、ふらりと部屋を訪れてもお咎めなしってのも。
 まぁ、知世姫にもそういうところはあったが、ここには諫める側近すらいやしねぇ。
 にひゃっと笑った魔術師が手にした酒を見せると、王は楽しそうに手招きしやがった。

 小僧が来てるってことは、長かったここでの暮らしともようやくオサラバってことになるんだろう。
 戦から戻ると、また言葉が通じなくなるから今イチ解らねぇが、こいつなりに夜叉王と別れを惜しんでるつもりなのか。
 ふん、確かにアンタはいい王だった。力も人望も申し分ねぇ。
 ───あの病さえなけりゃ、な。
 王がいなくなった後、この国がどうなってしまうのか。それは俺の知ったこっちゃねぇんだが……
 世話んなったことでもあるし、なるべく穏やかにコトが済めばいいと思う。


 ヘラいのがしゃべれねぇ所為で、必然的に俺が王に受け答えするはめになるんだが、それでもアイツは楽しそうに笑ってやがった。
 いつまで経っても見慣れねぇ、黒い瞳。この世界から離れれば、アレも元に戻るんだろうか。
 王もコイツのことは結構気に入ってるらしいが、そういやこの黒い目しか見たことねぇんだよな。
 元々の色の方が、コレよりも、もうちっとは見られる顔になるんだが……
 結局は見られねぇで終わるだろうことが、少し気の毒なような気がした。




や、王は別に気の毒じゃないから。阿修羅王一筋で、ファイのことなんて眼中にないから!(大笑)
最後の日、『ファイに「ありがとう」って言わせようかなー』とか、『もうだいぶ言葉がわかるって、バラそうかなー』 とか考えてたのに……
ラスト2行で、黒助がいきなりノロケ出したんで全部おじゃんだよ!(しかも無意識) アンタ何言ってくれてんの(笑)
もう他のどんなネタにも続けらんなかったよー。ビックリだよもう。

18.8.21




語られなかった世界2 ウィンク


「もしもモコちゃんがいなくて、言葉が通じない時にピンチになったらどうしましょう?」
 そーだねぇ、通じないと大変なんだよー。なんか合図があるといいよねー。
「そうだ! ウィンクを合図にしよーよぅ」
「「ウィンクって何ですか?」」
 揃って首を傾げる小狼君とサクラちゃん。……ってそこ! 「くだんねー」とか言わないのー。
 それじゃあ、オレとモコナでお手本ねー。
「片目だけとじることー」
「こんなカンジーv」
 わかったかなー?

 夜魔ノ国で黒ぽんと言葉が通じなかった半年間、オレたちも何か合図を決めておけばよかったねー。
 ウィンク1つで、『大好き』 なんてどぉ?
 黒わんと話せなかった半年間。通じないと分かってたから、オレは時々口に出してたよ。
 でももう、特別は終わったから。何でも通じる代わりに、君には話せないことばかり……
 だから言葉が通じる所では、ナイショで、オレだけの合図にしちゃおっかなー。



 なーんて言ってる間に、早速のピンチ。
 すったもんだで捕まって、でもモコナの合図(ウィンク!)で、オレと黒たんは無事に脱出成功ー!
「わーい。モコナ大活躍ー!」
「やったね!」
「ウィンク役に立ったねー」
「ねー」
 モコナと2人で、黒りんに向かってウィンク1つ。(大好きだよぅー)
「ほら、黒様も一緒にやろーよー」
「やろうよー」
「馬鹿言うな!」
 ちぇー。

 さて、小狼君とサクラちゃんは……?



 あ、いた。2人とも縛られてる。
 小狼君はサクラちゃんに向かって、なんだか一生懸命に両目をバシバシ……

「何やってんだ、アレ」
「ウィンク…… かなぁ?」
「助けないのー?」
「おもしろいから、もうちょっと見てよー」

 あちゃー。小狼君、ウィンクできなかったんだー。今まで知らなかったんだから、無理もないよねー。
 そうだ! 小狼君にウィンクを教えてあげる代わりに、オレに口笛を教えてくれないかな?
 時間だけはいっぱいあったあの国で、1人でずっと練習してたけどできなかったんだー。
 そうすれば黒ろんだけじゃなくて、オレも小狼君の先生になれるし。一石二鳥だよねー。

 ところで黒様はウィンクできるのかな?
 できなかったら、オレが先生になってあげるからね!



どこに入れたらいいかわかんないので、この辺に挟んどこう。公式ガイドブックに掲載されているものです。
未読の方も多いかと思いまして、ちょっと説明チック。最初と、「何やってんだ」 のあたりが原作です。
モコナのは片目を閉じてるんじゃない。片目だけめきょってるよ!

18.8.22








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