野望へ


         10 巻




65−67話 決着


 夜叉王がいなくなってからも夜毎繰り返されてきた戦に、あの人はとうとう決着をつけたね。
 辛い、哀しい選択。
 例えまがい物だと解ってはいても、大切な人の影身を自分の手で葬る決心ができる人は、そうはいない。
 ただの幻じゃない。羽根の力で、生前そのままの姿で存在する人を。
 それはもう、『生きている』 のと同じ。それを無に還せる人がどれだけいるだろう。
 強いね、あの人は。

 そしてその決心をさせたのが、きっと小狼君とサクラちゃんなんだろう。
 それまであちらの王は、決心がつかず、徒に戦を長引かせていた。
 その気になれば、もっと早くこうすることができたんだ。
 もっと早くに幻の夜叉王を消して、月の城を制し、真の望みを唱えることが。
 それができなかったのは、その望みが叶わないことを知っていたから。
 例えただの幻でも、戦場でしか会えないとしても、一緒にいたかったから。



 ねぇ、黒わんならどうした? 例えば知世姫とかが影身になってしまったとしたら。。
 君のことだから、きっと幻に惑わされたりしないで、然るべき姿に還してあげるんだろうね。
 オレも、もしもそんなことになったら、黒さまみたいにちゃんとできるように頑張るからね。

 ……ああでも、わかんない。黒ぽんと会えなくなったら。
 君が自分の国に帰ってしまったら、君に万が一のことがあったりしたら、オレは幻だけでも欲しがるかもしれない。本物じゃないって解っていても。
 それは間違いだって解ってるし、今はそう言えるけど、いざその時になったらどうなるかわかんないよ。
 それが羽根の力で創られている幻なら、サクラちゃんにも返せないかもしれない。
 彼女の幸せを願いながら、自分のワガママを優先しちゃうんだ。

 ああもう、だから大切な人なんて作りたくなかったのに。そんなのは最初から解りきっていたのに。
 オレは弱くなっただけじゃなく、どんどん嫌なヤツになっていくね。
 ……君のせいだよ。



こんな自虐的になるハズでは……
126話時点で、いろいろと根本に関わる設定が出てきましたね。
そのうち遡って手直しが必要になることでしょうが、もう少し様子を見てからにします。

18.8.24




68話 合流
 
 
 ようやく小狼君に、オレたちだってバラすことができた。
 わーい、久しぶりー。
 ……って言うかオレ、誰かと普通に 『会話』 すること自体、半年ぶりなんだよぅ〜〜
 オレは口が利けないってことにしてたから、モコナが来てからも戦場ではナイショ話しかできなかったし。
 黒たんと2人だけのときはいっぱいしゃべってたけど、なにしろ通じてなかったから。
 わーん。長かったよー。

 黒ぷいは早速、小狼君のお師匠さんモード。君ってつくづく面倒見がいいよね。
 いきなり駄目出ししてるけど、思いがけなく弟子から感謝なんかされて照れちゃって、威厳も形無し。
 ふふー、いいもの見ちゃったー。
「わーい、黒様照れてるー」
「誰が照れてる !! 」 って、刀振り回したら危ないよぅ〜
 黒ぽっぽをからかうのは命懸け。でも楽しーい!
 またその懐かしい紅い瞳で、オレを見てもらえて嬉しいよ。



 サクラちゃんに無事に羽根を返して、やっと移動。
 この世界は、オレにはちょっと長すぎたね。
 誰とも言葉が通じなくて、黒さまだけが頼りで、いつもいつも一緒にいた。
 黒ぽんも、オレがどこかでボロを出さないか心配して、いつも気に掛けてくれていた。
 そんな贅沢に慣れちゃって、オレこれから先、大丈夫かな。

 黒むーの心は知世姫に向かってて、小狼君の先生で、サクラちゃんを庇って、モコナとは仲良しで、オレとは……
 オレとは、えーと……
 うん。オレがからかった時は、怒って追いかけて来てくれる! ……けど、もうそれくらいしか接点がなくなっちゃうなぁー。
 よーし。頑張っていっぱいからかうからね!



 モコナの魔法陣が開く。
 黒ぷーを掴まえて、それから小狼君とサクラちゃんも。
 これだけしっかり掴まえとけば、もう離れて落っこちたりしないでしょー。
 今までが贅沢だったんだ。オレだけを見てもらえなくても、旅が続く間は、まだ一緒にいられる。
 君と一緒にいられるだけで、それだけでいいんだから……



最初に黒ぷーを掴まえるファイが、かわいくてたまらんです。後ろ向き思考の割に、行動は正直です(笑) 
あー半年の間に、何があったことにしようかな。何かしらはあったことにはしたいんですが……
黒鋼には、『ファイに好かれてる気がする。なんとなく』 程度の自覚が出来てるような気がします(その程度かよ!←セルフツッコミ)。

18.8.25





68−69話 時間


 落っこちてみたら、なんだか見覚えのある風景。
 花でいっぱいに飾られてるけど、そうだ、陣社だー。
 確か清浄で閉鎖的だったはずのそこは、今日は華やかで開放的で和やかムード満載。
 わー、蒼石さんの結婚式だー。おめでとー!

 以前は独りきりで祀られていた夜叉像が、今は阿修羅像と一緒に鎮座している。
 ……ああ、よかったね。
 夜魔と修羅では、戦いの中でしか相まみえることができなかった。
 この紗羅の国でずっと一緒にいられるなら、もう怪異を起こすこともないよね。
 よかったね。夜叉王、そして阿修羅王。
 あの人と同じ名を持つあなたが、少しでも安らかならば、オレも嬉しいです。
 なんて…… そんなこと思っても、オレの国のアシュラ王が喜ぶ訳じゃないけどね。



 小狼君とサクラちゃんが着けてたっていう装飾品が、時を経て神器として祀られてるってことは、修羅ノ国はこの世界の過去の時代。オレたちが関わることで、歴史が変わった。
 小狼君が浮かないカオをしている意味は、よく解る。考古学に携わっていたなら尚更だよね。
 でも、うーん、これはねー。考えると、身動き取れなくなっちゃうんだよねー。

 モコナがご神体の剣を吸い込んだことで、あの像が次元の魔女さん作なんだと判った。
 なーんだ、そうだったんだー。どうりでソックリにできてるはずだよねー。
 じゃあこれも、歴史が変わったことも含めて全て、魔女さんの采配だったのかな。必然ってやつ?
 阿修羅王と夜叉王の想いを果たすための旅だったとしたら、じゃあ、オレたちが先に着いた意味は何だったんだろう。
 何か別の理由があったのかな?



 祝い酒を飲む気マンマンの黒ろんの頭上で、モコナの移動魔法が発動する。
 あららー。残念ー、ここのお酒おいしかったのにねー。もう時間切れでーす。
 だってお酒を飲んでる間に、またはぐれちゃったら大変だもの。
 いつまでかはわからないけど、旅が続く限りは一緒にいよう?
 ここの阿修羅像みたいに、会いたくて暴れちゃったりしないですむように。



半年分の意味は、日本国語習得のためでいいよね。
日本国永住エンドじゃなくても、たまに遊びに行くとか、通信とか、文通とか (笑) できるかもしれないし!
二度と逢えないエンドでも、寂しいときに1人で呟いてみたり、忘れないように毎晩声に出したりするファイとかどうですか。

18.8.26




70話 ちぅ


 新しい世界で、今度もまた住む所を借りたんだー。家っていうか、半分浮いてる乗り物みたいなヤツ。
 今度の国は平和そうだよ。箱が地面を走ったり、空を飛んだりする不思議な世界。
 やっと落ち着いて眠れたのかな、小狼君が寝坊するなんて珍しいよね。
 でももうすぐお昼になるのに降りてこないから、さすがに起こした方がいいかと思って。



 ちゃんと起こしてきてくれたモコナに、ごほうびのちぅー。
 それからモコナからオレに、お返しのちぅ。
 エヘヘ、くすぐったーい。

「えへv ファイのほっぺた、すべすべー」
「ありがとー。モコナもふかふかだよー」
「でしょでしょー?」
 こういうの、平和でいいよねー。
「あのね、修羅ノ国でね、サクラも小狼のお目々にちゅーしたの!」
「へぇ〜、そうなんだー」
「モ、モコナ!」
 わぁ、小狼君、顔真っ赤ー。微笑ましいよねー。平和だねー。
「それでね、モコナもサクラにちゅーしてあげたのっ」
「よかったねー」
 平和だよねー。
「でもね、黒鋼にちぅしたら怒られたのー」
 平和だ…… え。
 
 えぇ── !?

 モコナ、黒ぷいにもちゅーしたの? そ、それはチャレンジャー…… てか、ずるいー!
「ど、どこで……?」
「竜巻のとこでだよ。モコナが風に飛ばされたのを黒鋼が助けてくれたから、そのお礼だったのにぃー」
「そう、なんだ……」
 黒りゅんてば、そう言えば秘妖さんにもお礼にちゅーされてたよね。
 はっ、まさか、サクラちゃんや小狼君も! …って、それはないか。……ない、よね?

 むー。いいなー。
 今度また何か黒様に手助けしてもらうことがあったら、オレもお礼にちゅーしてみよっかな。
 そしたら、また命懸けの鬼ごっこになっちゃうだろうけどね。



私はどこまでファイさんを突っ走らせる気ですか。でも楽しい♪
男性の頬が 『すべすべ』ってどーなんだ? と思わないでもなかったんですけど、老化が遅いならいいかな、と(笑)
18.8.27




71−72話 知世ちゃん


 黒ぷいとサクラちゃんが連れ帰ってきた、団体のお客様。
 もぉ、そーいうのは前もって言っといてよねー。お茶の用意だけで大変なんだからー!
 町でバッタリ会った女の子を、そのまま連れて来ちゃうなんて…… もー黒むーてばせっきょくてきー(棒読み)



 ……そっか。この子が知世ちゃん、かぁー。
 黒みゅうのお姫様と、魂が同じだっていう人。
 く、黒さまの姫も、こんなに年下の女の子なの? えーと、サクラちゃんと同じくらい?
 黒りーが生涯を誓うほど心酔してる人なんでしょ? えーどうしよう。黒さまロリ…

 えっとね、もっと、なんと言うか…… 毅然とした女性を想像してた、かなぁ。
 まぁ、普通のお姫様は戦ったりしないだろうけど、黒ぴーのイメージからしてさー。
 こんなフワフワしたかわいいお嬢さんだとは、思わなかったよぅ。

 もっとも、黒りんの本物のお姫様の行動パターンとは、だいぶ違ってるみたい。大仰な台詞で、テンション高くサクラちゃんに迫る知世ちゃんに、黒さまドン引きしてて面白かったけどさー。
 でも基本的には、同じ人なんだよね。
 黒たんの、大事なお姫様、かぁ……



 知世ちゃんのこと、ちょっと突付いてみたら反撃されちゃったね。質問には答えてもらえなくて、逆に、あの人の話で切り返されちゃった。
 やっぱり大切な人のことだから、オレみたいのに軽々しく触れられたくないのかな……
「微笑ましかった」 とか 「面白かった」 とか言ったから怒っちゃったんだろうけど、かと言って、突然何の前フリもなく、真正面から 「知世姫ってどんな人?」なんて訊くのは、なおさら変でしょう?
 こんな話、軽いノリでしか訊けないものー。オレすっごい必死な人になっちゃうよ。

 今日はもう、この話はこれでおしまいね。
 なんかしゃべり過ぎた気もするし。オレのことは、放っといてくれると嬉しいなー。
 いつも、「俺には関係ねぇ」って言うくせに、今日はどうしたのー? 
 オレが追及しちゃった仕返しかな。自分は言えないくせに人のばっかり知りたがるのは、やっぱりズルイよね。
 ゴメンね。でも知りたかったんだ……


 まぁ家がグラグラ揺れた衝撃で話どころじゃなくなって、正直ほっとしたんだけど……
 助かったよー、サクラちゃん。でも、激突は程々にねー?



小狼君を諭す場面は、黒ファイじゃないので割愛。
けっこう重要な意味があるかもしれないところですが…… でも省く(笑)
ところで桜都国にも車走ってたけど、ファイは見ないまま終わったのかな?

18.8.28




語られなかった世界3 迷探偵 (この話に限り、デキてる黒ファイ前提。お遊びです)



 モコナがこの謎を解いてみせる! 侑子の名にかけて!

 犯人は冷蔵庫を開けて、ジャムをなめなめソファでテレビを見ていた‥‥
 見ていたのはおそらく‥‥ 黒鋼秘蔵のエッチなDVD‥‥
「えーっ、黒たんひどい! オレというものがありながら〜〜」
「誰の秘蔵だ! 誰の!!」
 そして‥‥ ジャムがついた手で、これまた黒鋼秘蔵のマガワン今週号を読みふけり、
「って、聞いちゃいねぇ」
「そんなDVDどこで買ったのー! ねぇねぇ〜」
「買ってねぇ!」
「じゃあ、何であるのー」
「知るか!
 さっぱりだ。…てか、マガワンべとべとじゃねぇか!」
 ブランケットにくるまり、ぬくぬくしたりしてるうちに
 どこからか聞こえてきた妖しげな声に驚いて、
 うっかりジャムのビンを倒して足にもジャムがついた。
「んなっ!」
「ちょ、モコ……」

 そのジャムがついたままの足で垂直移動‥‥
 このように天井まで行って‥‥
 天井の通気ダクトから、声のする部屋まで移動した‥‥
 ね v 

 解 決!



「『ねv』じゃねぇだろ!」
……なんか音がしたような気がしたんだよぅ〜
「てめぇが犯人だろ! それからどうしたオイ!」
 この目で真相を確認したの! 侑子の名にかけて!
「モコナひどいぃ〜〜」
「えー
! そうだったんだーー !!」
「姫、それ以上深く考えちゃダメです……」



また遊んでしまった…… 忍者気づけよ(笑)
例によって原作まんまが紫っぽい部分で、捏造がどピンク部分です。
原作の、真相が最初から解ってるファイと小狼が楽しいよね。

18.8.29








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