野望へ


         12 巻




83−84話 親子


 ざんねーん。墜落しちゃったよ。もっと黒ぽんと一緒に飛びたかったなー。
 急にあんなに動き出すなんて、反則だよぅー。
 最も、『ズルしようとしてる人がいる』ってことはちゃんと教えてもらってたんだから、もっと注意しなきゃいけなかったんだよね。
 あーあ、つまんなーい!

 リタイアした人用の救急の飛行船で回収されて、連れたこられたラウンジには、大っきなモニターがいっぱい。
 レースに参加してる機体のそれぞれを、参加者の表情まで判るくらいにきちんと映し出している。すごいねー。
 リタイア機が多くなるほど、その機体を追っていた画面は、まだ残っている機体の映像に切り替わる。
 先頭集団にいる黒ぴーは、結構いっぱい映っちゃってるよ。ひゅーひゅー。

 ─── と。小狼君が、あの龍王って子を庇ってリタイア。
 別人だけど、桜都国では友達だったもんね。そりゃ、小狼君なら庇うよねー。
 いつもは羽根を何よりも優先する子だけど、今回は黒さまとサクラちゃんがまだ頑張ってるからね。
 託されちゃったね。責任重大ー。



 他の機体が苦戦する中、サクラちゃんが間欠泉をスイスイと上手にすり抜けて行く。
 すごいよ、黒さまに続いて2位まで追い上げてきたよ。かっこいー!
 周りのモニターは、黒わんとサクラちゃんでいっぱいだ。ひゅー。どっちも頑張れー。

「小狼君とサクラちゃんとモコナが兄弟でー、あの人がお父さんー」
 ほらほらっ、龍王って子、素直に信じちゃったよ。
 さすがにモコナが兄弟ってのにはビックリしてたけど、黒たんの 『お父さん』 は疑いもしなかったよ。
 やっぱりそう見えるんだー。えへへー、ちょっと嬉しくない?
 今度はサクラちゃんと、親子でワンツーフィニッシュを決められたらいいね。



龍王は明らかに色恋沙汰で小狼をからかおうとしてたのに、ファイがはしゃいで空気を読まずに割り込んだ印象(笑)
家族の中に自分を入れてないのが、色々と物思わせてくれますが、ここでは無意識パターンで。
龍王に、「で、アンタは?」と突っ込んで欲しかっただけかも知れんが(笑)

18.10.2




85話 直撃


 突然、爆発みたいに吹き上げてきた間欠泉。
 お父さんが娘を弾き飛ばすのが見えた。
 それから、水柱の中でバラバラに飛び散る、黒たん号の破片───

 あ……

 わりと、すぐに、黒たんは水面に顔を出して、無事だって、判ったけど。
 サクラちゃんに檄を飛ばせるくらい、元気だって判った、けど。



 ……えっと、オレ、行かなきゃ。
 無事、なんだよね。
 でも、ああ… 左手、使えてない……

 そうだよ、お医者さんに、診てもらわなきゃ。
 意地っ張りなお父さんを、お医者さんに、連れて行かなくちゃ。
 ねぇ、手、大丈夫なの? 重傷だったらどうしよう……!

「ほら、小狼君はあっち見て。サクラちゃん、応援してあげて」
 オレの方は、見ないでもらえるかな。これ以上は笑えないよ。
「オレと黒たんの分まで」
 サクラちゃんの応援、オレ、もうできないよ……



 さっきから、なんだかおかしいんだ。
 モニターで無事な姿を見たのに、身体が納得してないんだ。
 心臓が壊れそうなほど動いてるくせに、血はうまく流れてないんじゃないかな。
 手も足も冷たくて、頭も回らなくて、息を吸うのもヘタクソになってる。
 だって今までの妨害とは違った。容赦なかった。怪我しようが死のうがお構いなし、って感じ。
 本当に、危なかったんだよ…… 

 大丈夫、大丈夫だよ。くろたんは、こんなことでやられたりしない。
 だから、落ち着け。しんこきゅう。
 黒たんがここに到着したら、いつもどおりに、ちゃんと笑ってお出迎えするんだ。
 ぐずる黒たんを、医務室まで引っ張って行かなきゃならないんだから。



ショック受けてて欲しいな、と。
そりゃもう、呼び名にバリエーションつけてる余裕もなくなるくらいに(笑)

18.10.4




86話 迎え


 迎えの飛行船に回収されて戻ると、入口でへにゃ顔が待ち構えてやがった。
 おう、怪我はしてねぇみてぇだな。よし。
 それでも、いつもよりちっと顔色が悪ィみてぇな気もするが…… 墜落して、ずぶ濡れついでに風邪でも引いたか?
 それほど冷たい水でもなかったと思うんだがな。

 戻った早々、姫が滝に突っ込む姿が画面に映し出されたんで肝を冷やしたが、無事に通り抜けて、見事に1位でゴールしてのけた。やったな。
「じゃ、お医者さんに見せにいこっかー」
 もういいだろうと腕を取って画面から引き離され、グイグイと引っ張られる。
 面倒臭ェつってんのに、ヘラいのは聞く耳を持たない。戯言を言いながらも真っ直ぐに医務室を目指す。
「医者は要らねぇつってんだろうが。放せ」
「ダーメ!」
 オイ、いい加減にしろ。さっきから、俺がヤメろって言うことばっかしやがって。
 こんなんで揉めるのもみっともねぇんで、人目の少なくなったところを見計らって、無理に手を振りほどいた。
「放せって! テメェには関係ねぇだろうが」



「かんけー、ないけどさ…」
 笑いを貼り付かせたまま俯く魔術師。
「関係なんか、ないけど……」
 ……ンなっ !?
 目を伏せたコイツが、次の瞬間、いきなりくしゃっと顔を歪めてポロポロ泣き出したんで、俺は心底度肝を抜かれた。
「お、オイ!」
 おまっ、人前で泣き顔を晒すようなヤツじゃねぇはずだろうが。
 いったい、何がどうしたってんだ。

 本人もこれは予想外だったみてぇで、一瞬慌てて隠そうとしやがったが、止まらないらしくすぐに諦めた。
「っ、意地っ張りも、いい加減にしてよ…… そんなの、全然、カッコよくないんだから!」
「あぁ?」
「機体が、バラバラに、なった、くせに…っ! おねがいだから、お医者さんくらい、行ってよぅ……」
「…………」
 隠すのを諦めた魔術師はとても無防備で、しゃくり上げるたびに、ほろほろと頬に涙を伝わせた。



 ……だーかーらー、解りにくいってんだよテメェはよ。
 心配したならしたと、一言言やぁいいじゃねぇか。
 ヘラヘラ笑って、戯言ばっかぬかしやがって。そっちこそ、意地っ張りもたいがいにしやがれ。

 そうだな。自分じゃわからなかったが、映像で見てたんなら、衝撃が酷そうに見えたのかもな。
 わーかった、分かったから、医務室でもなんでも行くから。
「…ンな簡単にくたばるかよ」
 そんなに怖がるな。俺はそんなに簡単には死なねぇ。
 ガキに見つかりたくなかったら、早ェとこ泣き止みやがれ。




あーあ、泣かせちゃったー。しかも人前。(うっかり通りかかって睨まれた哀れな目撃者には、たけぽんとけんぴーを推奨)
自分が辛い時には泣かないファイですが、黒鋼が死ぬかと思ったり、うっかり 『幸せだなー』なんて感じちゃった時には、泣いてしまってもいいと思います。
ところで原作の黒様は、ずーっと腕を取られたままで医務室まで連行されたんでしょうか?(笑)

18.10.6




87話 変化


 ファンファーレと大歓声の中、羽根を閉じ込めた優勝トロフィーが知世ちゃんからサクラちゃんに手渡される。
 小狼君と目が合って、嬉しそうに手を振るサクラちゃん。
 それを冷やかされて、真っ赤になってる小狼君。
 ね、最初の頃と比べて、2人ともすっごくいい表情ができるようになったよね。
 黒わんもそう思うでしょ?

「黒るんは今も一緒」 なーんて言っちゃったけど、そんなことないよね。君だってすっごく変わった。
「俺には関係ねぇ」が口癖だった黒ぽんと、今の子煩悩なお父さんが同一人物とは思えないよ。
 ……ああ、でも、やっぱり本当は変わってないのかな。
 怒ってばっかなとこも、強いとこも、それから優しいとこも。

 きっと変わったのは黒さま本人じゃなくて、オレたちとの関係かも。
 黒むーがオレたちを仲間だと認めてくれたから、庇ってくれるし、面倒も見てくれる。
 君はもともと、身内は大事にするタイプだものね。

 だから、君自身は変わってないけど、オレたちに対する距離が変わった。
 時折、勘違いしてしまいそうになるくらいに───


 何だぁ? ガキ共が変わっただ?
 何言ってやがる。その筆頭はおまえだろうが。
 今より不景気な面してたのは確かだが、あいつらは最初っから素直だったぞ。少なくともおめぇよりは。

 コイツがたまに素の顔を見せるようになったのは、ガキ共と白まんじゅうに影響されたからだろう。
 俺に向けるのは相変わらず貼り付けたようなへにゃ顔だが、今みてぇにあいつらを離れたところから見守ってるときの眼は、そう悪くねぇ。
 幸せそうにしてる小僧と姫を見て、自分も嬉しいと感じられるようになったんだろ。
 できる限り他人と関わるまいとしてきたおまえにしちゃ、上出来じゃねぇか。



「そう思えるおまえも変わったんだろ」

「え……」



 そうだ。黒様って、そういう人だったね。
 子供達だけじゃなくて、オレのことも、ホントによく見てたんだ……
 見透かされないように、こんなに笑顔装備で頑張ってるのに。もう、敵わないなぁ。
 黒ろんがわざわざ指摘したってのも意外だったんだけど、オレ、そんなに変わってた?

 そう…、そうだよね。変わってなきゃおかしいよね。
 だって、自分のことだけで精一杯だったオレが、今はみんなのことがこんなにも大切になってる。
 逃げることだけしか願わなかったオレが、今は、これからもずっと一緒に旅を続けたいって思ってる。
 ……黒るんと、できるだけ長く一緒にいられることを祈ってる。

 そんなのが透けて見えちゃったら、困るんだー。
 黒りんは1日も早く日本国に帰りたいのに、それが叶わないように願うなんて酷いよね。
 そんなこと黒みーに知られちゃったら、また嫌われちゃうなぁ。
 だから隠すよ。どうせずっと一緒になんていられないんだから、それくらいはいいでしょう?
 お願いだから、オレのことはこれ以上観察しないでね。


 気づいてなかったのかよ。おまえも充分変わってっだろ。
 不意を突かれたような顔しやがって。
 ……そういうところが、変わったって言うんだけどな。
 いつものヘラヘラした作り笑いが崩れる場面が、多くなってきただろう。
 なにより、さっきみてぇな泣き顔を拝める日が来ようとは思ってなかったしな。

 なるべく深入りしないよう、人からできる限りの距離を取っていたあいつが、時折妙に懐いてくる。
 甲斐甲斐しくガキ共の世話を焼いたり、俺に甘えたい素振りを見せたりする。
 独りじゃやってけねぇって気づいたか? その割にはしぶとくガードしてるようだが。

 過去に囚われてるおまえより、今を大切にしてるおまえの方がずっといい。
 あとは、何もないと思い込んでる未来からも、目を逸らさずにいられるようになればな。



驚いた理由が、原作では「オレが、変わった?」なのに、 「黒たん、気づいてたの?」に変わってしまいました。
うちのファイは、自分が黒鋼でいっぱいになってしまったことを自覚してるので……
原作のファイは、このレース中すっごくはしゃいでたと思う。楽しかったんだねー(ほろり)
必ず来るお別れが怖くてたまらないので、ファイは未来からも逃げ回ってると思います。そりゃもう全力で。
18.10.9




88話 犯人


 レース参加者のためのパーティの席で、羽根を狙ってたワルモノが正体を現した。
 わー、カイル先生じゃないですかぁー。
 そう…… あなただったんだ───
 この前も今回も、モコナにしてやられちゃうなんて、ずいぶんお間抜けさんだよねー。
 あなたのボスが誰だか知らないけど、叱られないといいねー。
 
 この人から力は感じないから、次元移動をさせてるのは別の誰か。指示してる人物がいるはずだ。
 しょせんは小物だよねー。
 でもね。

 黒わんたの怪我が、左手だけで済んでよかったねー。
 黒様にもしものことがあったりしたら、小物だろうが下っ端だろうが、オレ…… 容赦しないから。



 ─── 自分の思考にビックリする。「容赦しない」って、オレは、何するつもりなの?
 まさか、この力を全てぶつけるつもりじゃないよね……?

 あの時、黒たんにもしものことがあったとしたら。オレは、どうなってただろう。
 泣き喚くくらいは許されると思うんだけど、この力を、暴走させずにいられたかな。
 今だけじゃない。これから先、みんなにもしものことがあったとしたら?
 いや、もしものことが起きそうになったら? そのときオレは、どうするのかな……

 オレは魔法は使わない。どんなことがあっても使わないって決めてる。
 例えそれが、使えば誰かを助けられる場面だったとしても……
 それでも使わないって、もう、決めたんだ。
 
 ……でもね。旅に出てからのオレは、頭に気持ちがついて行かないんだよ。
 ダメだダメだって考えている方に、気持ちが行っちゃうんだよ。
 秘妖さんのときはまだ決めたばかりだったし、黒みーのおかげで使わずに切り抜けることができた。
 でも、今は……?
 今でもちゃんと決めたとおりにできるのかどうか、オレ、もうわかんないよ……



カイル先生ってばあんなにヘタレなのに、自分ではカッコつけてるところが何だかなー。
89話とセットにするつもりが、ファイのカラーが違いすぎてしまって分割。温度差があり過ぎる……(汗)
そしたら全然別の話になって、どのへんがセットだったのか、もうわからなくなりました(笑)

18.10.12




89話 事情


 黒んみってば、知世ちゃんの目を見ただけで、本気かそうじゃないか判るんだってー。
 なにそれー。知世ちゃんのことなら、何でも解るって言いたいのー?
 ……それほど、親しい間柄だったってことだよね。知世姫と。

 不正を働いてる二派のうち、片方は手加減してるっぽかったけど、そっかぁ。
 黒っぴは、それが知世ちゃんだって薄々気づいてたんだね……
 教えてくれなかったのは、理由があるはずだって思ってたから?
 知世ちゃんを信じてたんだよね。オレたちにまでナイショにするくらいに。

 こんなとき思い知らされる、黒たんとの距離。
 オレたちと黒むーはかなり近づいたようでいて、実は故郷の人たちには全然適わないんだって。
 初対面の知世ちゃんのことを、知世姫と魂が同じってだけで無条件に信じられるくらいに。



 でもさー、知世ちゃんが知世姫と連絡を取ってたとは予想外だったねぇ。ビックリしたでしょ?
 知世姫は黒たんのこと、送り出してからもずっと気に掛けてくれてたんだね。こうやって、手助けしてくれるくらいに。
 よかったねー黒さま。思いがけなくお姫様の消息が聞けて、嬉しいでしょ?
 本当に、家臣思いの、いいお姫様だね……

 黒みゅうが嬉しいと、オレも嬉しいよ。本当だよ。
 ただちょっと…… きゅうってなるだけだよ。



椅子の上でひざ抱えてるファイが可愛い。
急に増えたお客さんに秒速でお茶を出すファイさんは、お母さんというより、有能なメイドさんのようです。
「お邪魔します」の前に、もう立ち上がってるですよ。

18.10.12




89話 もう1回


 ねぇ、名残惜しいでしょ? もっと知世姫のお話聞きたいでしょ? だったら……
「せっかくだからさー、ここで、も1回パーティしない?」
 ね。黒りんはもっと知世ちゃんと、2人でゆっくりお話してきて。

 ねぇ小狼君も、サクラちゃん優勝のお祝いなんだから、今日くらいはお酒に付き合ってよー。
 ……独りで飲んでたら、また悪酔いしそうなんだもの。



 黒りーが静かに席を外したのも、暫くして知世ちゃんが後を追うのも、オレにははっきり分かった。
 あーあ、気づきたくなかったのになー。それまでに酔っ払ってしまいたかったのに。
 やっぱダメだったかー。ちぇー。お酒に強いと、こういうとき不便だよね。
 むしろスポットライトで追ってるみたいに、2人のことだけが意識に引っ掛かって。
 そのためにパーティしよう、って言ったのに、痛いなんておかしいよね。

 知世ちゃんが向こう側に回ったから、こっちからは彼女に向ける黒むーの顔は見えない。
 見えないけど、きっとオレたちには見せない表情してるんでしょ。
 どーせオレたちにはわからないお話をしてるんでしょ。
 っ、オレが掴んだ腕は振りほどいたのに、知世ちゃんが触っても怒らないんだ───



 痛いよぅ、痛いよぅ。
 何を話し込んでるの?
 ちゃんと君のお姫様のお話聞けた? 懐かしい? 嬉しかった?
 ……また、帰りたくなっちゃった?

 やっぱり、2人だけでそんなにゆっくりしてちゃヤだよ。
 オレ、邪魔しないから。ここで動かずに待ってるから。だから……
 そのニャンコ印のお酒のビンが空っぽになったら、早く、早く戻って来てね。



黒ファイのファイなら、絶対こっそり覗いて見ちゃうと思う。これだけは譲れません(笑)
この世界では、彼にはずっと苦しいヤキモチを妬かせてしまいました。ゴメンね。あともう一息だ!(鬼)
そして結局、小狼の方が宿酔いで苦しむのであった。そっちのが鬼かも。

18.10.14




89話後 宴会中


「ねぇ、ファイって、ホントはお酒嫌いなの?」
「え、オレお酒だ〜い好きだよ?」
「そうだよね。じゃあ、泣き上戸?」
「違うよ? なんでー?」
「んーん。なんでもないのー」

 ファイはいっつも寂しいけど、今は特に寂しいの。
 でもそう言えば、前に桜都国でお酒を飲んだときもそうだった、って思い出したの。
 サクラと一緒にニャーニャーしてたけど、ホントはとっても寂しかったでしょう?
 だから、実は泣き上戸で、でも我慢して笑ってるのかなーと思ったんだけど…… 違ったの?

 モコナはね、大好きなみんなと、大好きなお酒を飲んでると、とっても楽しくて嬉しいの!
 ファイは違うの? 大好きなお酒を飲んでるのに、どうしてそんなに寂しいの?
 はっ! もしかして、モコナ達のことが嫌いなのっ? がーーーん!

 ……そんなことないよね。ファイはモコナ達のこと、だ〜い好きだよね。
 モコナも、小狼も、サクラも、それから黒鋼のことも。それくらいわかるもん!
 でも、じゃあ、どうして……?



「おい、酒」
「あ。黒さまおかえりー」
「黒鋼どこ行ってたのー?」
「ちょっとな」
「あ、知世とお話してたんだー。ねぇねぇ、どんなお話してたのー?」
「……オレ、お酒もっと持ってくるねー」
「ファイ…?」

 むーーーーー。

「黒鋼、ファイのこといじめたでしょ!」
「あぁ? 何言ってやがる」
「違うの? てっきり黒鋼が犯人だと思ったのにぃー」
「どーゆー意味だコラ!」
 だってぇー。桜都国で飲んだときも、黒鋼とお出掛けした後だったでしょう?
 今だって、黒鋼が来たのに、ファイすっごく寂しいんだよ?
 ファイの『寂しい』はいつでもそこにあって、でも黒鋼が一緒だとちょっとだけ忘れるのに。
「あいつがどうかしたのか?」
「んー、なんでもなーい。モコナ 小狼呼んでくるね。今日はガンガン飲もー!」
「コラ、待ちやがれ! ……ったく」

 みんなで一緒に飲み明かしたら、ファイ、ちょっとは元気出るかな?
 いっぱい飲んで眠たくなったら、モコナが一緒に寝てあげるからね。



捏造を挟んでみました。……モコナは、寂しい人しか分かんないのかなぁ? 嬉しいや大好きは?
アニメのモコナみたいに、考えてることが分かる(しかも暴露する)なんてのは願い下げですが。
そんなんだったら、ファイは一緒にいられないよね。

18.10.16




90話 伝言


 どうして聞こえちゃうんだろう。
 黒みーの、知世姫への、伝言───



 この世界とは、これでお別れ。
 楽しかったのは本当だけど、それよりもちょっとだけ苦しかった、かなー。
 黒りんと知世ちゃんのお別れを見たくなくて、一足先にモコナの魔法陣に入ったんだ。
 それなのに。何で聞こえちゃうの……?

「必ず帰る」
 聞こえないように言って欲しかったよ……

 なんて力強く、意思に溢れてるの。君は言ったことは必ず実行するもんね。
 そんなの初めから言ってたことだけど、最初っから解ってたことだけど。
 今ここで聞くのは、なんて痛いんだろう……
 怖くて君の顔が見れない。
 どんな顔してそんなこと言ってるの。オレはどんな顔になっちゃってるの。
 君の顔、見れないよー。



 と。
「もう掴まえんのはナシかよ」
「っ!」
 く、黒たん !?

 背を向けてたオレの腕を、ぎゅうっと掴んでるのは確かに君の手で。
 硬直したオレの耳元で、後ろからそっと囁く。
「はぐれたくねぇんだろ」
 ……なんでオレに言うの。なんでそーゆーこと言うの。
 帰っちゃうくせに。オレが笑ってさよならできなくなったら、どーしてくれんのさ。

 昨日1回壊れた涙腺が、また緩みそうになった気がした。



照れ屋さんな黒鋼に、そんな芸当ができるとも思えませんが。でもやらせてしまった。
1度泣き顔を拝んだから、ちょっと勝った気になっているのかも(笑)
あ、あと、トレーラーハウスも、モコナのお口にしまっちゃえばいいと思うよ!
18.10.18




語られなかった世界4 まがにゃん


 どこの世界に行っても、黒ろんはマガニャンの忍者マンガに夢中。
 モコナは一緒になってワクワク楽しんでるし、脇から覗いてる小狼君もなにげに握りこぶし。
 きっとサクラちゃんだって、女の子向けのマンガがあったら喜びそうだよねー。

 でもオレはさ…… 読んでも、あんまり楽しいと思えないんだー。
 紙に描かれた人がヤラれても活躍しても、別にドキドキワクワクしたりしない。
 むしろ、黒わんがそんなのにハマるなんて、正直言って意外だったよー。



「マンガって、モコナがいた国では子供のためのものなの」
「えー、そうなんだー」
「大人も読むけど、それは子供の世界を楽しめる人だけなの」
「じゃあ黒様は、おっきな子供なんだー」
「そうなのー。黒鋼おっきな子供ー!」

 あ、そろそろ後ろで、不穏な気配がゴゴゴゴゴ……
「てめえら……!」
 わーい! 逃っげろー!!



 マガニャンはねー、オレは厚いのがいい。それか、持ち運びしやすくて丈夫なのがいい。
 秘妖さんのところで、鎧の代わりになって黒たんを守ってくれたから。
 これから先、どこかの世界で危なくなった時に、また黒みーを守ってくれるように。



墓穴。耳が痛…(笑)
サクラが少女マンガを買ってきたら、意外とファイも読めるんじゃないかって気もします。
コテコテの純愛片想い、みたいなのにキュンとしてればいいんじゃないかな。

18.10.20








野望へ