野望へ


         13 巻




91話 魔術の国


 まだ宿酔いが抜けきらない小狼君をベンチで休ませて、オレたちは新しい国の探索に出掛けた。
 彼の付き添い係は、前の国でたっぷり眠ったサクラちゃん。
 握りこぶしで 「大丈夫です!」って言ってくれたけど、なるべく早く帰るからねー。

 この国の人は、空中を移動するのが好きなのかな。翼の生えた生き物が、人々の移動手段として大活躍だね。
「うわー、不思議な生き物がいっぱいなのー」
「いちばん怪しげなのはオメェだろうがよ、白まんじゅう」
「モコナ怪しくないもんっ!」
 蝶の翅を持つ馬の引く馬車が滑るように通りを行き交い、空には鳥や翼竜に乗って飛ぶ人。
 それから生き物だけじゃなくて、風船やパラソルに、羽の生えたステッキ。
 ドラゴンフライで飛ぶのも気持ちよかったけど、ふわふわ浮かんで移動するのも楽しそうだねー。
 ……魔法でさえなければ、ね。

 あー、ここはねー、なんかマズいみたい。モコナが言うところの、『不思議パワー』 がいっぱい。
 ざわざわと、暫く忘れていた感覚が動き出す。危ない危ない。
 影響されちゃダメだ。この世界を覆う力、溢れかえる魔術に反応しちゃダメ。
 無意識に力を使ってしまわないよう、しっかり抑えておかなくちゃ───



 まず初めに、みんなの服を調達。
 ピッフルで着ていた服の布地がこの国では珍しいらしくて、幸いにもみんなの分を賄えた。
 お店の人が勧めるまま、帽子までセットにして買えちゃうくらいにね。
 でも黒さまには、「必要ねぇ」って断られちゃった…… ちぇー。カッコいいと思うのになー。
 サクラちゃんの服はね、情報収集を兼ねてお店の人と相談しながら決めたんだよ。
 そのとき世間話のついでに聞いた。子供が魔法の授業の宿題で図書館に行ってるんだって。
 オレたちも知りたいことがあるなら、そこで調べたらいいって。
 魔法の授業、かぁー。これはいよいよ、公に魔力が支配する世界みたいだね……
 


 ひときわ目に付く大っきな建物。あれが図書館かぁ。
「うわぁ、すっごいねー!」
「本がいっぱいなのー!」
 高い高いドーム状の建物の天井近くまで、壁一面が本棚で覆われている。
 手が届かないけど、魔力で飛べる机付きの椅子があるから、この世界の人は困らないんだねー。
 それとも、最初はやっぱり上手く飛べなくて、苦労したりするんだろうか?
 
 学校で習うってことは、やっぱり魔法の上手い下手を評価されちゃったりするのかな?
 できなくて、先生に怒られちゃう子とかいるのかな。
 得意になって、イタズラしちゃう子とかもいるのかな。
 強すぎて、困っちゃったりしてる子はいないのかな。
 疎まれたり、畏れられたりしてしまう子は……



「おい!」
 飛びかけていた意識が、黒ぴーの声で呼び戻される。
 ……あー、ありがとー。危うく引きずられるところだったよ。
 どうにもここはマズい。溢れかえる魔術の気配に、何かを思い出さずにはいられないよ。
「そろそろ帰ろっか? 小狼君が起きたら、ここに連れてきてあげようよー」 
「ああ…、喜ぶだろうな」
「わー、お父さんやっさしー!」
「おとーさーんv」
「テメェら……」
「図書館ではお静かにねー」
 早く小狼君たちと合流して、そしていつもの調子を思い出さなくちゃ。早く早く。



ひさびさなのに、なんだかあらすじにしかならなくて凹み。書き方忘れたかな……
ほんのチラッとファイの過去捏造を入れてみてたのですが、急遽削りました(汗笑) 133話タイムリー過ぎ。

18.10.29





91・98話 本


 圧倒的な数の本に、案の定小狼君は目を輝かせた。
 なんとか読めそうだって。よかったー。
 嬉しそうな顔が見れて、よかったねぇおとーさん。
 オレにはちょっと危険な国だけど、小狼君がこんなに喜ぶなら、暫く滞在することになるといいね。

 小狼君って歴史だけじゃなくって、本そのものがホントに好きなんだねー。
 できれば買ってあげたいけど、夜魔ノ国で稼いだお金は、前の世界でほとんど使っちゃったしねぇ……
 黒ぷいみたいにオレも帽子を我慢すれば、1冊くらい買えたかなぁー?
 うーん、ごめんね? オレも今度から節約するよー。

 魔法の国だからもしかして、って思ったけど、やっぱりこの国の文字もオレには読めなかった。
 サクラちゃんも、黒みゅうもダメ? この国の文字も、やっぱり小狼君しか読めないのか。
 いろんな国の文字が読めるなんて、すごいねー。きっとすごく勉強したんだー。
 それに引き換えオレの方は、旅を始めてから、まだ読める文字の世界にあたらないんだよー。
 つまんないー。こんなにいっぱい本があるんだから、いろんな世界の言葉があってもいいのに。



 うーん、絵や写真がいっぱいな本だったら、読めなくても楽しいかなぁ?
「何かないかなー」
 あ、黒ぴんもあれこれ開いてみてる。お互い、面白そうな本が見つかるといいねー。
「モコナも読みたーい」
 気になった本を手に取って広げてみるモコナだけど、ちょ、お、重いよぅー。
 モコナだけなら平気だけど、本を読むなら、頭の上からどいてもらえると嬉しいんだけど……

「小狼君 !?」
 読めないながらも、その辺の本をフラフラ眺めていると、サクラちゃんの慌てた声がした。
 振り返れば、開いた本を手に、何もない空間を真っ直ぐに見詰めて、涙を流しながら立ち尽くす小狼君の姿。
 彼が持っている本から感じる、特有の力。淡い光。─── 魔法が、発動してる。



 オレやサクラちゃんやモコナが引っ張っても引き離せなかった本を、黒ろんがいともたやすく取り上げる。
 って言うより、黒るーが手を掛けたら本が反応して、魔法が収束したような感じがしたんだけど……
 黒りんに魔力はないはずなのに、どうして?
「……黒鋼さん、ごめんなさい……」
 小狼君が黒むーに謝る。その涙は何のためなの? 
 あの本はいったい、小狼君に何を見せたの。黒様はどう関わってるの。

 魔法なのに、オレには感じ取れなかった。
 黒ぽんのことみたいなのに、オレ、気がつかなかった。
 ゴメンなさい。黒みー、小狼君。
 何の魔法だったんだろ。解けた衝撃で、倒れるほどの強い魔法。
 魔法には関わりたくなかったけど、こういう世界だからこそ、オレが注意してなきゃいけなかった。
 どうしよう黒さま。小狼君大丈夫かな? ごめん。ごめんね……?



お財布は、ファイが握ってるのかな、と。 まさか阪神以来ずっと、小狼が会計係のままだったり……しないよね?(笑)
本の中のことはすっ飛ばすしかなく…… くぅ。

18.10.31




99話 部外者


 小狼君が黒ぽんにお話があるんだって。
 じゃあサクラちゃんとモコナを連れて、オレは外に出てるねー。
 サクラちゃんは倒れちゃった小狼君のことがすごく気になるみたいだけど、大丈夫だよー。
 ちゃんと目を覚ましたし、黒ぴーが付いてるから。
 その間にオレたちは、あの本のこと、それから羽根のこと、いろいろ聞いて回ってみようか。

 ……本当は、オレだってすっごく気になる。
 小狼君に何があったのか、黒様に何を話すのか。
 謝ったってことは、黒たんに関係してるってことでしょう?
 ずっと図書館に置いてあった魔法の本なのに、どうして黒むーが関わっているんだろう。
 黒ぽんが関わる余地が、どこにあったんだろ。
 ううぅー、気になるよぅー。

 だから知らなきゃ。あの本のこと。
 背表紙に何も書いてなくて、中も真っ白な本のこと。図書館の人に聞けば、教えてもらえるかな?
 あぁ、でも、こんなにいっぱい本があるからなぁ。すぐにわかるだろうか。
 お願いすれば、調べてもらえるよね?



 本のことは、カウンターにいた人に尋ねたらすぐに教えてもらえた。有名なのかな。
 羽根のことも判ってよかったねー。コピーも貰えたし。
 もう2人のお話も終わったかもしれないから、帰ろっか。

「小狼君のことが心配?」
「……はい」
 中庭で別れたモコナのところへ戻る途中、サクラちゃんに訊いてみる。
 話を聞いてから、ずっと沈んだ顔になっちゃってたから。
「小狼君が泣くなんて初めてだから…… わたし、どうしていいか分からなくなっちゃって」
 今にも貰い泣きしそうなサクラちゃんの頭を、帽子の上からぽんぽん撫でる。かわいいなぁ。
「サクラちゃんがそんな顔してると、却って心配しちゃうよ? 大丈夫だよー、小狼君は」
「でも……」
 小狼君のさっきの涙は、その悲しみが自分のものじゃないからだよね。
 自分自身のことなら、彼はもっと辛いことだって、頑張って堪えて乗り越えてきたんだから。
「前にも言ったでしょー。サクラちゃんの笑顔が小狼君のごちそうだって。本当だよ」
「……はい」
 今度の「はい」はさっきとは違う、頑張って作った笑顔。うん、上出来ー。
 本当はサクラちゃんには、作り笑顔なんて上手になって欲しくないけど…… 泣き顔よりはずっといいよね。

 サクラちゃんは無意識のうちに、ごく自然に小狼君の心配をする。
 まだ無自覚かもしれないけど、記憶がなくてもやっぱり大切な人だものね。当然だよね。
 そしてオレが気にしちゃうのは…… やっぱりどうしたって黒みんのこと。
 あ、あのね、小狼君のことが心配じゃない訳じゃないんだよ? 本当だよ?
 でもちゃんと気がついたし、理由も判ったし……
 ……しょーがないじゃん! だって、いちばん大切なんだもの……



サクラにしてみれば、「わたしの羽根のせいで…」とか色々思うこともあるだろうと思うのですが、黒ファイじゃないので割愛(酷)
小狼が「‥‥はい」って言った後の黒鋼の顔が好きだ。さすが俺の弟子、みたいな顔してる(笑) 
……と思ったら、笑ったの? あれ笑顔だったんだー !?  気付かんかった……
18.11.3





語られなかった世界5 添い寝


「黒鋼と小狼、どっちも同じくらい痛そうなの。だから今日は2人と寝てあげる」



「ファイー、今日もいっしょに寝てもいい?」
「いいよー。おいでおいでー」
 モコナね、ピッフル国ではファイと寝ることが多いの。
「モコナ最近、オレのところによく来るねぇ。誰かとケンカした?」
「ううん、してないよ。そういう気分なの」
「そっかー」
 どうしてモコナが毎日ファイのところに来るのか、本当は解ってるんでしょう?
「モコナをぎゅーってして寝ると、ふかふかで気持ちいいんだー」
 それはね、モコナの108の秘密技の1つ。癒し効果だよ。
「ぎゅーってするのはいいけど、お耳に息をふーってするのは、くすぐったいからナシねー」
「あははー。ゴメンゴメン」
 ぎゅーってされながら眠るのは好きだけど、うなされてそのまま俯せになられると、ホントはちょっと苦しいの。
 でもね、なんだかファイからはもっと痛い感じがするから、モコナ我慢する。

 眠ってるファイから、悪い夢がなくなりますように。
 それから起きてるときのファイの、痛い気持ちが小さくなりますように。
 ファイが、元気になりますように……




「─── ってね、モコナずーっとファイと一緒に寝てあげてたの」
「そう…… それでファイは元気になった?」
「ううん、全然。モコナには笑ってくれてたけど、痛いのは治らなかった。がっかりー」
「でも今はもう大丈夫でしょう?」
「そうなの! 侑子、なんでわかるの?」
「まぁ女のカン、ってやつかしらねー(── ったく世話の焼ける……)」
「この国に来たら、だいぶ治ったみたい。ファイ、ピッフル国が嫌いだったのかなぁ?」
「モコナだけじゃ大変だったでしょう? 今度は他の誰かに手伝わせなさい」
「誰かって?」
「そうねぇ…… 小狼はサクラちゃんだけで手一杯だろうから、暇そうなのは1人しかいないわね」
「わかった! 今度ファイが痛そうになったら、モコナ、黒鋼を連れてくね!」



本のこと聞き込みするくらいの時間があったんだから、侑子さんとはもう少し長く世間話してたんじゃないかと思って。
モコナの回想の中で、黒鋼の眠る姿はジェイド国。モコナはずっとベッタリだったもんね。じっくり観察できたよね。
ファイの姿はゆったり半袖だからピッフルのように思えたので、モコナがその姿を回想した理由を想像してみました。

18.11.5









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