野望へ


         15 巻




109−110話 神威


 ひ、ひゅー……

 あードキドキした。あー恐かった。
 重力を感じさせない速さと動き。ダメージを受けていないような表情。
 あの 『カムイ』って呼ばれてた子、あれ、人じゃない?

 あの強さは、いったい何だろう。
 黒むーみたいな鍛錬した強さとも、もちろん魔力とも違う、ただ桁違いの身体能力によるもの?
 サクラちゃんがいるから、ひたすら息を殺して隠れてたけど、どうやら最初から気づかれてたね。

 黒るんが負けるとは思わなかったけど、ちゃんと無事でいられるか、気が気じゃなかった。
 別のお客さんが来てくれて、本当によかったよー。
 黒ぴーがあれほど手こずった彼を相手に、まるで遊んでるみたいな、あの新しいお客さんもすごいなぁ。
 カムイ君が飽きっぽくて助かったねー。



 君も、ものすごくカッコよかったよー、黒さまー。
 でもね、ダメージ覚悟で相打ちを狙うのは、できればやめて欲しいなぁ……
 君には勝算があったんだろうけど、見てるこっちはハラハラしたよ。

 黒たんが目を閉じたとき、オレがどんなに恐かったか。……黒みーには解らないよね。
 君の強さは知ってるけど、いくら信頼してても心配することはまた別なんだって。
 それだけ、知ってて欲しいな。



恐る恐る15巻に踏み込んでみる。まずは軽ーく。
クリスマスらしい企画の1つもなくてすいません。ツリーは次回更新まで置いとくから(笑)

18.12.24




110−111話 逗留


 ヘラヘラ笑いながらひょこっと出てきた魔術師に、緩んだ空気がいっそう砕けたものになる。
 隠れてたコイツらのことを、あの神威とかいう野郎に指摘された時には、また周りの奴らに武器を向けられるんじゃねぇかとヒヤッとしたが。

 あいつのいつもどおりの態度ではあるが、たまに計算か? と思うことがある。
「行っていいぜ」と体よく追い出されそうになった時も、羽根が地下にあるらしいと聞けば、ふざけた自己紹介などを交えつつ、スルスルと滞在許可を取ってしまう。
 この緊張感のないへにゃ顔のせいで、危険人物ではないと判断されんのか?
 甘いな。コイツは見かけどおりの人畜無害な奴って訳じゃねぇんだが……
 だが確かに、こういう時には役に立つヤツだ。俺じゃこうはいかねぇ。



 眠ったままの姫を魔術師から引き取ろうかと思ったが、小僧の足に矢が刺さったままだったんで、そっちを担当することにする。
 おめぇはそのまま姫を抱いてろ。小僧よりは軽いだろ。
 力仕事はいつも俺にやらせたがるが、これで案外頑丈な男だ。姫の1人を抱えるくらい実は平気なのはわかってんだ。

 1階の広間から上の階に進むと、この建物にはさっきの奴らだけでなく、思った以上に大勢の人間が住み着いていることが判った。
 住んでいるといっても生活道具があるわけでもなく、戦で焼け出された村人といったような風体で、硬い床に直に座り込んでいる者ばかりだ。
 戦う力などなさそうな子供や年寄りも多く、さっきの奴らが用心棒的な役割を果たしているのだろう。
 強面の草薙などにも子供らは恐れ気もなく懐いていて、頼りにされているのがわかる。

 それでも、見慣れない俺達の事は気になるらしく、好奇と警戒の混ざった視線が集中する。
 子供を1人ずつ背負い、抱えている俺たちは、彼らの目にはどう映るんだろうな。
 まさか家族には…… 見えねぇよな? 

 ……クソ。
 ヘラいのと白まんじゅうのせいで、変な思考になっちまったぜ。




こんなこと気にする黒鋼なんて偽者注意報ですが、黒ファイ変換のためご了承願います。
「こんなお馬鹿な話を書ける日が、いつかまた……云々」とか、つい最近書きましたが、あっさり実現しました(笑)
まだ祭り前だからなー。

18.12.27




111−112話 お疲れ?
 

 ようやく、小僧の手当てができる場所にありついた。
 問答無用でいきなり襲ってきたのは向こうだが、訳を聞いてみれば無理もねぇ部分もある。
 貴重な物らしい薬を分けて貰えたのは、破格の扱いと言うべきなんだろう。

 この世界の話を聞きながら、魔術師が小僧の足に包帯を巻いていく。
 他に見る物もねぇから見るともなしに視線が向いちまうが、上手いもんだよな。
 そういや前にあいつが足を痛めたときは、小僧が手当てをして「上手だねぇ」とか言われてやがったっけな。

 今までこの2人のことは、何をやらせても器用にこなす奴だと思ってたんだが、どうも最近キナ臭ェ。
 小僧はこの前豹変した一件があるし、魔術師はヘラい仮面に相当ガタが来てやがる。
 前はもっと、安心して見てられたんだがな…… 疲れでも溜まってんのか。
 ここで一息吐くのは無理そうだが、この次の世界ではゆっくり休ませてやれるといいが。



 ここの奴らが出て行き、暫くは姫の寝顔を見守っていた小僧だったが、いくらもしないうちに、白まんじゅうと共に姫の枕元に突っ伏した。
「小狼君、眠っちゃったね」
「前の世界から、相当な強行軍だったからな。無理もねぇ」
「傷も深いしね。……黒様は?」
「ぁあ?」
「黒むーは平気? 目の下んとこ、絆創膏貼ったげようか?」
「いるか」
「背中は? 壁に酷く打ち付けたでしょう? 首、痛くない?」
「あんなもん、どうってことねぇよ」
「黒ぷい頑丈だねぇー。よかった……」
 いつものようにヘラリと笑った後で、ふっと表情を緩めたその顔に、一瞬、何かが重なって見えた。



 ……や、ありえねぇだろ!
 コイツお得意のへにゃ顔が、一瞬でも母上のそれに見えた、なんてよ……
 冗談にもならねぇ。しっかりしろ、俺。

 母上は、父上が魔物討伐に出掛ける時にも、いつもにっこり笑って送り出す人だった。
 それはかなり無理をしていたのだろうと解ったのは、ずいぶん後になってからだったが。
 親父が無事に帰ってきた時の微笑みは、控えめであっても、当然そちらの方が本物だった。
 そのふわりと安堵した笑みが、さっき魔術師が見せた貌に重なるなんて。
 何を考えてんだ。……俺も、疲れてんのか?



 ……いや、俺は本当は知っている。
 いつものへにゃへにゃな態度を崩しちゃいねぇが、コイツは俺達のことを本気で心配してたんだろう。
 俺達は家族でも何でもねぇが、誰かが傷ついても平気って訳にはもういられねぇからな。
 それは、これだけ長いこと一緒に旅してきていれば、ごく自然なことだと思うんだが……

 だがコイツは、それを正直に表すほど素直じゃねぇ。
 自分の方からは、自らに禁じていた魔力を使ってしまうほどに、どこまでも擦り寄ってくるくせに。
 こちらからは近づけねぇよう、最初に張り巡らせた予防線をいつまで経っても解除しようとしねぇ。
 おまえの距離感はどうなってるんだ。おまえが心地良いと感じてるらしい距離が、俺には不愉快でしょうがねぇ。
 てめぇ勝手な法則で測った距離を押し付けられても、俺ァ承服できねぇんだよ。

 だからこそ、俺は確認しとかなきゃならない。コイツが何を考えているのか。
 今までは色々と邪魔が入ったりして見逃してやってたが、小僧も姫も眠ってる今がいい機会だ。
 いつまでも、逃げてられると思うなよ。




うお。よもやここで父上と母上が出てこようとは! 自分で書いときながらなんですが、書き始める時には予想もしてませんでした。
この先はもう祭りだから、これくらいやってもいいかと思ったんですが、でも笑うところになってしまったかもー。
さて。この後、次々と押し寄せる怒涛の黒ファイ祭りに、いったいどう対処したらよいものか(へにょ笑)
嬉しい悲鳴と言うものなのでしょうが、正直手に余る、気が……
18.12.30




112話 考え事


「寝るトコもらえてよかったねぇ」       「…………」
「サクラちゃん、まだ目覚まさないねー」   「…………」
「眠ったままでいてくれるといいんだけど」  「…………」
「オレ起きてるから、黒様寝ててー」     「…………」
「…………」

 オレの言うことに返事をしてくれないことはよくあるけど、こうもあからさまに無視されるのって、やっぱり辛いなぁ。
 ここに来てから、黒るんを怒らせるようなこと、オレ、何かした?
 腕を組んで壁際にどっかりと座り込んだまま、じっと何かを考え込んでて、目も合わせてくれない。
 おーい、黒たーん。
 手をフリフリしても反応なし。
 さみしーよー。こっち向いてよぅー。
 そんなに恐い顔して、何を考え込んでるの?



 ……その時は、わかんなかったんだ。わからないままの方がよかった。
 黒みーが眉間にいっぱいシワを寄せて考え込んでることが、オレのことについてだったなんて。
 ずっと前から、子供達に聞かれる心配がなくなったときにだけ、黒ぽんが追及したがってたこと。
 オレの考え。オレの本音。オレの事情。

 ホントのことを話さない人間に、気は許せない。そういうことだよね。
 黒るーはずっとオレに水を向けてくれてたのに。
 きちんと向き合え、って、深く付き合えるチャンスを何度もくれたのに。
 オレは逃げた。踏み込まれたくなくて、今の居心地の良さだけが続くようにと。
 黒りゅん怒ってる。返事もしたくないほど。
 いつもいつも逃げ続けて、とうとうこんなに怒らせちゃった。
 でもね。
 全部曝け出したら、オレはここにいられなくなっちゃうかもしれないんだ。それでも話せって言うの?
 オレは嫌だよ。できるだけ、少しでも長くここにいたいんだ。

 適当な作り話でごまかすこともできたと思うけど…… でもそれは、したくないと思ったんだ。
 オレ、話せないことばっかりだけど、いつも君に「嘘臭ェ」って言われてるけど。
 何を聞かれてもはぐらかしてばかりのオレが、『信じて欲しい』なんておこがましいけど、でも。
 心配してくれる君に、これ以上の新しい嘘は増やしたくないって、本当にそう思っているんだ。
 それだけは…… 解って欲しいな。



まだそれほど踏み込んでない、かな。なにせ、未だ過去が未知数なので下手に手が出せず、まー薄っぺらいこと。
ここでMY設定なんて作れませんしね。(と言いつつ、後で「実は嘘吐いてた」とか言われたらどうしよう……)
前回、人が出て行った後に会話させちゃったので、黒鋼が唐突にだんまりを決め込んだことになってしまった。
そりゃファイじゃなくても戸惑うよね(笑)  無言の間は、この上の話のようなことを考えてたということでひとつ。
19.1.3
あああ、やっぱり「嘘ついてた」って言われたぁ〜〜!(泣)(↑「本当の嘘は吐いてないよ」って言わせてました。)
4ヶ月後、こっそり修正



112話 追及


 忘れてて欲しかったなぁー。あんな昔にポロッと言っちゃったこと、黒ぽん覚えてたんだ。
 深く追求されたくないことに限ってよく覚えてるんだから。ホントに君って、侮れないよねー。
 秘妖さんのところで、初めて黒るーと一緒に戦って。
 楽しくて、浮かれてて。
 危なかったけど、君の隣でならそれもいいような気がして(ゴメンね)。
 それなりに気分が昂ってたから、つい、言わなくていいことまでしゃべっちゃったんだよね。
 オマケに、勢い余って知らない間にうっかり君に嵌ってしまって。前もって気付いてたら絶対に避けてたのに。



 黒むーがオレに答えさせたいことって何?
 旅に出てから、今日初めて使った魔力。
 今まであれだけ使わないって言ってたのに、今回は使った理由?
 それとも、自分では死ねなくて今回は死ねるかもしれなかったのに、魔法を使ってまで逃げた理由?
 
 黒みんはオレに認めさせたくて、オレが認めないから怒ってる。
 オレが、もうみんなと深く関わっていること。
 関わりたくないって態度を取るくせに、もうすっかり関わっていること。
 関わりたくないと思っても、もう手遅れだということ。
 だからもう、隠し事はせずに何でも話せってこと?



 どうしてそんなに知りたいの?
 オレに認めさせて話をさせて、それで君はどうしたいの?
 いっつも、「俺には関係ねぇ」って言うくせに。
 ちょっと寂しいけど、君がそういう人だからこそ、オレは安心して傍にいられたのに。

 そんなオレを、君はとっくにお見通しだったんだ。
 だから今まで、そういう人のままでいてくれてたの? だったら、もう少し見逃して欲しかったなぁー。
 黒たんは何度も近づいてくれようとしたけど、オレが逃げ回ってたから深追いしないでいてくれてたんだよね。
 それももう、我慢の限界に来ちゃったってことか……

 オレの甘えが断罪されていく。
「おまえがそう望んでるんだろ」
「へらへらしながら、だれも寄せ付けないように。誰とも関わらねぇように」
 あー、とうとう言われちゃったー。
 ああもう図星過ぎて、君の嫌いな『笑顔』が貼り付いたまま固まっちゃったでしょー。

 何もかも知りたい黒ぽんと、何も話せないオレ。
 魔法を使ったことに、特別な理由なんて何もないんだけどね。
 ただオレが、みんなのことを好きになっただけ。黒みゅうのことを大切だと思うようになってしまっただけだよ。
 本当は魔法なんか使いたくなかったけど、みんなともっと一緒にいたかったから。
 そのためには魔力を使わなきゃいけない場面だったから。だから使ってしまっただけのことなんだ。



 それなのに、まだ距離を置こうとするから。言ってることとやってることが違うから。
 だからそんなに怒ってるの?
 でもそれを言うなら黒みんだって、最初の頃、自分は羽根探しには関わらないってあれほど言ってたのにさー。
 今じゃこんなに熱心に協力してあげてる理由を、照れ屋さんだから正直には言えないくせに。
「早く見つかれば、それだけ早く次の世界に行ける」 なんて、そんなの言い訳だってみんな知ってるよ。
 オレだって君と同じように、手伝ってるうちにうっかり度を越してしまっただけでしょー?
 そんな、まるでオレだけが約束を破ったみたいに怒らないでよ。

 それに、そんなに心配しなくてもこれ以上は間違えないよ。
 オレはこれ以上、君達には深入りしない。しちゃいけないんだ。だって……
「……オレは、オレが関わることで、誰も不幸にしたくない」
 やっとのことでこれだけ言えたのに、全然足りないとばかりに続きを促す黒りーの目が睨み上げてくる。
 ねぇ、これ以上言わせないで。君をこれ以上怒らせたくはないけど、もうこれ以上は。

 話を逸らすにはどうすればいい? 今までどうしてたっけ? 
 これだけ長く生きてきて、それなりの話術くらいは身に着けてきたはずなのにね。
 君が相手だと、オレは今までの経験値が全く役に立たなくなるんだ。
 頭だけは常に行くべき道を示しているのに、心も体も勝手に逸れていく。
 笑顔も上手く作れてないみたいだし、指先の震えも心臓の鼓動も全くコントロールできない。
 本気になった君に捕まってしまうと、言葉でさえ太刀打ちできないなんて。
 この世界の草薙さんたちが声を掛けてくれるまで、オレは何も言えずにただ立ち尽くすしかできなかった。



すいません。せっかくの黒ファイ祭りですが、私自身がこの一連のシーン消化不良を起こしているのです。
「オレが関わることで、誰も不幸にしたくない」のセリフは、過去編がこないことにはどうにも捌けず…… 
アシュラ王、ファイにどういうシチュで何言ったんだよー。
黒鋼の「なのに、おまえは自分から魔力を使った」もよく解りません。
なんで 『だから』 じゃなくて 『なのに』 なの? ファイが死ぬチャンスを棒に振った、みたいな言い草じゃないですか?
「誰かのせいで死ぬなら別だ」 ここのファイの目つきも謎でして。合ってるのか間違ってるのかも判んないです。

19.1.7




112 関係ねぇ


「俺には関係ねぇ」
 今まで、何度も使ってきた言葉だ。
 最初は確かに何の関係もなかったが、今となってはそうとばかりも言ってられねぇ気はする。
 それでも未だに使い続けている理由は。

 俺が関心を持たないことを、おまえが望んでいるから。
 だから今までそうしてきた。深追いせず、その都度かわされてやった。
 呆れた風を装いつつ、実は寂しがりつつ、そのくせ安心してるのがわかるから。
 それでいて、始末の悪いことに離れたままではいられねぇときてる。
 俺がソッポを向いてる間だけ、おまえは距離を測りつつ、自分からギリギリまで近づいてくる。
 ……俺ぁ『ダルマさんが転んだ』 のオニかっつーの。
 だがな、オニは背中を向けてるだけじゃねぇぞ。当然反撃するし捉まえもするんだ。
 もう充分待った。そういつまでも逃げられてたまるか。今日こそは逃がさねぇ。



 俺には武装にしか見えない笑顔。
 追及すると、魔術師はヘラヘラしたそれをスッと消した。
 ようやく仮面を脱ぎ捨てる気になったか? または剥がれ落ちたか。
 それともまさか、本当にあれで笑ってるつもりだったんじゃねぇだろうな?
「オレは……」
 どうする。何を言う気だ。何かを話す気になったか?
「オレが関わることで、誰も不幸にしたくない」

 ───それは、ゴマカシ、じゃ、ねぇよな?
 やっとのことで、ようやく引きずり出した本音の欠片。
 だが……
 なんだそりゃ? 自分が貧乏神だとでも言う気か。
 もう俺たちは、おまえに目一杯関わってると思うがな。
 そのうちの誰か1人でも、おまえのせいで不幸になったヤツがいるか?
 思い切り魔力を使うと、力に巻き込まれて死んじまうとでも言うのか。
 そこで黙るんじゃねぇ。俺に分かるように説明しろ。



 ……ったく、これからって時に、またしても邪魔が入る。
 まだだ。まだ終わってねぇ。
 毎回それで逃げられてるが、今日はまだ逃がさねぇ。
 あからさまにホッとして、これ幸いと俺を遠ざけようとしやがった奴の腕を捉まえる。
 痛くて当然だ。獲物に優しくしてやる義理はねぇ。
 おまえは俺が捕まえた。言っとくが、てめぇが俺をオニ扱いしやがったんだからな。

「……言ったな、俺には関係ねぇと」
「うん、聞いたー。だから気にしないで、オレのこと……」
 だーかーらー違うっつの! そういう意味じゃねぇ。
 俺ぁそれほど甘くねぇぞ。そんな『寂しくても平気』みてぇなセリフを言われる筋合いはねぇ。
 この期に及んで、親切に放っといてやるつもりはさらさらねぇんだ。
「おまえの過去は関係ねぇんだよ」
 おまえが過去にどれほど多くの人間を不幸にしてきていようと、俺には関係ねぇ。
 おまえがどんな大罪を犯していようと、自分を許せなかろうと、それは俺たちには関係ねぇんだ。
 俺たちが知っているのは、旅に出てからのおまえだ。それしか知らねぇ。
 だから……
「いい加減、今の自分に腹ぁ括れ」
 おまえが最初、誰とも関わらないようにしていたとしても、今はこんなにも俺たちに関わってる。
 ガキ共のことが、心配でしょうがねぇんだろう? あんだけ可愛がって世話焼いてんじゃねぇか。
 おまえ自身で、自分が変わったことを自覚しろ。昔とは違うだろうが。
 あんなに俺が嫌う生き方をしてたおまえが、こんなに変わったじゃねぇか。

 おまえがそれを本当の自分じゃないと言うなら、それを相手にしてる俺たちは何なんだろうな。



ねぇねぇ言いすぎだ(笑)
『だるまさんがころんだ』を知らないお嬢様もいらっしゃいますかね? 意味通じるかな。
かく言う私も、ルールの詳細は怪しいですが。
しかし黒さま必死だな。なんだかずいぶんベタ惚れっぽくなってませんか? 気のせいですかそうですか。

19.1.11




112話 追及後


 草薙さんたちが呼びに来て、これでやっと解放されると思ったのに。
 後ろから強く引かれた腕。こんな場面じゃなかったら、きっと凄く嬉しかった。
 だって、オレから君に触れることはよくあるけど、その逆なんてほとんどないんだもの。
 でも今は……
「話そらせたとか思ってんじゃねぇぞ」
 思ってるよ。めちゃめちゃ助かったと思ってるのに、君はそれを許してくれない。
 がっちり掴まれた腕から、黒りんの苛立ちが伝わってくる。
 痛いよ。わざわざ手で掴まなくても、君の態度も言葉もオレを鷲掴みにしてるんだよ。
「……言ったな、俺には関係ねぇと」
 痛いよ。そんなに何回も念を押して言わなくても解ってるよ。
 君はオレのことなんか気にしなくていいんだから。だからもう、関係ないなら放っといてよ。
「おまえの過去は関係ねぇんだよ」

 ……………過去? 

 え? えぇ?
 それじゃ違うよ。意味が全然違うよ。
 黒むーにとって、『オレ』が関係ないんじゃなかったの? オレの『過去』が関係ないの?
 黒みん言葉おかしいよ。それともモコナの翻訳が間違ってる?
 だってそれじゃ、今のオレのことは、黒さまにとって関係あるみたいに聞こえちゃうよ───





 あんなに放して欲しかったのに。
 君の手が離れていった途端、支えを外されたみたいに感じた。
 体力も気力も熱も、みんな黒るーが持って行っちゃった。
 まるで今まで、君の腕のおかげで立っていられたみたいに。

 難しいよ黒みー……
 今の自分。
 セレス国から、あの人の許から離れて生きている今の自分。
 みんなと一緒に笑っている、今の自分。
 君達と旅を始めてからのオレが本当のオレだったら、どんなによかったろう。
 まるで普通の人みたいな生活をして、毎日楽しくて、とても幸せだった。
 子供達は可愛いし、何より君と一緒だった。
 今の自分。あの人の許にいたときには、こんな自分は想像もつかなかったね。
 魔力も使わず、守りたい人や大切な人がいる今の自分。
 みんなに自分から関わりたくて、笑ってもらえたら嬉しかった。

 こんなに幸せな今を満喫してるくせに、それを認めてないから怒ってるのかな。
 こんなのは本当のオレじゃなくて、ほんの一時の幸せな夢だと思ってるから。
 オレの罪と目的を思えば幸せなんて望むべくもなくて、今だけの猶予期間だと思ってるから。
 だって、そうでしょう?
 君はオレが何をしてしまったのか知らない(オレが言わないからだけどね)。
 何をしようとしてきたのかも、何をしようとしているのかも知らない。
 オレにとって、過去はまだ昔のことじゃないんだ。
 経った時間に関係なく、それはまだオレの首根っこを鎖でしっかり繋いでいる。
 今はこんなに楽しいけど、それは許された鎖の長さの範囲内で泳がされてるだけなんだ。
 こんなに幸せな今だって、長続きなんてしないってわかってるから。
 だからこそ1日でも長く続くようにって、祈るようにしがみついてるだけなんだ。



 あのね、最初の頃ね。
 君の手は人の命をたくさん奪ってきた手だから、血に染まった手だから、だからオレが触れてもいいかなって。ちょっとだけ、そう思ったこともあった。
 でも、君のその手は汚れてなんかいなくて、オレの手はやっぱり宙に浮くんだ。
 オレは傷の舐め合いをしようとしたのに、黒たんのはそもそも傷ですらなかったんだもの。
 たくさん奪った命だって、大切な人を守ってきた証だって胸を張って言えるんでしょう?
 オレもそのくらい強い信念で、自分の意思で生きて来てたら、過去なんて関係ないって堂々としていられたかもしれないね。

 だから、今だけ。
 オレの手と君の手は違うから、一緒に行けるのは今しかないんだ。
 いくらオレが、君達と一緒にいる今のオレのままでいたいと思ったって、そんなの許されない。
 叶わないことなんだよ……

 

もう少し待って色々判明してから書きたいところですが、そのもう少しがどれくらいの期間なのかわかんないしなぁ……
19.1.14
(1年後、密かに大幅改定)





112話 狩りのお誘いに来て、痴話喧嘩を見せ付けられるはめになった約2名


「取込中、悪かったな」
「お邪魔だったかなー」
「ぁあ?」
「いいのか? あれ」
「泣かせたんじゃないのか」
 この世界の草薙ともう1人が口々に言ってくる。余計なお世話だ。
「泣かねぇよ」
「そうか?」
「繊細そうに見えるけど」
 ―――どこがだ。
「ありゃ狸だ」
「そうなの?」
「あいつは…… こういうときに泣けるほど強くねぇ」
「ほーぉ」

 そうだ。あいつはこんなことじゃ泣かねぇ。
 泣きたいときに泣ける強さ、だったか? あいつが言ってたのは。
 どういう意味なのかイマイチよく解らねぇが、あいつを泣かせてやるには、こんなやり方じゃダメだってことは判る。
 今は別に、泣かせようとしたワケじゃねぇ。
 いつまで待っても信用されねぇ自分に苛立っての、ヤツ当たりだったかもしれねぇな。



 ヘラヘラした顔と態度を見せながら、あいつの考えはいつも後ろ向きだ。
 いつまでも過去とばっか向き合いやがって。
 逃げて来たと言いながら、その実いつまで経っても、その眠ってるって奴に縛られてんじゃねぇか。
 今のおまえと一緒にいるのは誰だ。いい加減にこっち向きやがれ。
 おまえが俺たちを想う程度には自分も想われてるって、そろそろ自覚しろ。
 そこに気付いて貰わねぇと、こっちが虚しいだろうが。
 こちらがちょっと油断すると、すぐに後ろを向いちまう魔術師に腹が立つ。

 それとも、俺の方が間違ってるか?
 いつまで待っても 『あの人』 とやらに勝てねぇ自分が、悔しいだけなんだろうか。
 仲間なはずの奴を、獲物扱いしてまで屈服させたいと思う俺は、どうかしちまってるのかもな。



惚気かよ。ヤキモチかよ。これでまだ無意識とか言ったら殴られそうだよね。
「泣けるほど……云々」とか、いくらなんでも口には出さないだろー、ってのは置いといてください(謝)
ファイはこれ以上ないほど全力で、君の方を向いているのだが…… まだ足りないとは贅沢者め。
19.1.17








野望へ