(※ 倉庫令は現存しないため、以下は日本思想大系「律令」(岩波書店)に収録された復原逸文の訳です。第01条・第07条は、養老令ではなく大宝令施行期のものとなっています。)
− 目次 −
倉は、みな高く乾燥した処に於くこと。周囲に池渠〔いけみぞ〕を開くこと。倉の周囲半径50丈(約148m)以内に館舎を置いてはならない。
地租を受納するにあたっては、みな乾燥して清浄であるようにしておくこと。(到着の)順に【片旁】(=木札文書。ここでは納入書)を(提出させ)収めること。同時ならば、遠い方を先とすること。京国の官司(京職ないし国司)は、輸納する人と共に籌〔ちゅう〕(=計算に用いる竹製の算木〔さんぎ〕)を執って、直接相対して受納すること。{在京の倉は、主税と共に検校すること。国郡は長官が監検すること。}
倉(=正税その他の米穀類の官物を収めている倉庫)からの出給にあたっては、ひとつの倉の中のものを全て出し終わってから、次の倉に移ること。余分があったならば、帳簿に付けること。不足分があったならば、事状に応じて、(責任者から不足分を)徴収し、処罰すること。蔵(大蔵・内蔵など、調庸物や諸国貢献物といった中央の財物を収める倉庫)もまたこれに準じること。
大蔵(=大蔵省所管の中央財物収納倉庫)は、(各季節の)1季の間に用いる物の予定数量に応じて、量って出して、別に貯蔵すること。所用に応じて(そこから)出給すること。内蔵(=内蔵寮所管の皇室関係財物収納倉庫)は、1年間に用いる(予定の)物を納れて、毎月、別に貯蔵して、出して用いること。いずれも余分があったならば、帳簿に付けること。不足分があったならば、事状に応じて、(責任者から不足分を)徴収し、処罰すること。
倉・蔵の財物を出給するにあたっては、みな太政官符を承ること。供奉(=天皇への供給)に用いる場合、及び、緊急に出給すべき必要がある場合、併せて、諸国が式(=法)に依って出給し用いる場合は、先に用いて後に申奏すること。(倉・蔵が使用している)器物(=設備・雑器)の類で、新しい物と古い物を交換するときは、新しい物が到着するとともに、古い物はいずれも所司(ここでは、その倉・蔵が所属する官司)に送り返すこと。年の終わりに、両司(倉蔵の司と所司)は、それぞれ新旧の物を計会(=相互に対照して確認)すること。正当な理由なく欠損したならば、所由の人(欠損を生じさせた直接関係者)から徴収すること。
倉・蔵に貯積している雑物を出給するときは、まず収納年数の長い物から出し終えていくこと。長年貯蔵することができない物、及び、古くなって使用に堪えなくなった物があれば、太政官に上申して、斟量して処分すること。
倉に貯積するにあたって、稲・穀・粟は貯蔵年数9年間までとすること。雑種(=雑穀)は2年間まで貯蔵すること。糒〔ほしい/ほしいい〕(=干し飯)は20年間貯蔵すること。{貯蔵後3年以上を経たならば、1斛に付き耗〔こう〕(=目減り)1升までを認めること。5年以上ならば2升。}
公文を置いている庫(=兵器や文書を収めている倉庫)の鎖鑰〔さやく〕(=扉の錠と鍵)は、長官が自ら管理すること。もし長官が不在であれば次官が管理すること。
在京の倉・蔵は、いずれも弾正(巡察弾正)に巡察させること。在外の倉庫は、巡察使が出たときに按行〔あんぎょう〕(=視察して調べ整え)させること。
調庸などの物を京に送るときには、みな実際に送る物の数・色目(種目・名称)に依って、それぞれ簿(=調帳・調庸帳)を1通造ること。(種目ごとに納入先官司が異なるため)国は、(門文(=各官司への納品書)に、)明らかに進納する物の種目・数量を注載して、綱丁〔ごうちょう〕(=調庸物等を京に運送する際に、宰領として運脚らの指揮・納入・返抄(受領証)の受取を務める正丁のこと。国司・郡司が務めた場合は綱領という)等に預けて、各所司に送らせること。
倉・蔵、及び、文案(=発行した公文書の案(控え)、及び、受領した公文書)の孔目〔くもく〕(=公式令第82条「案成条」に定められた目録(の条目))は、専当〔せんどう〕(=担当責任者)の官人が交替する日には、いずれも事項ごとに後任者に引き継ぐこと。然る後に放還する(=責任を解いて任地を去らせる)こと。もし(収納物の)数が多くて、移動できない(実物に当たれない)場合は、(倉庫の寸法と収納物の数量から)帳簿上だけで確かめて引き継ぐこと。
倉・蔵の受納について、後の出給の際に、もし不足があったならば、受納官を務めた人と出給官を務めた人から均等に徴収すること。すでに引き継ぎを経ているならば、後任者から徴収すること。余分があった場合には、帳簿に付けて太政官に上申すること。
官倉(の収納物)を欠損して徴収する場合について、もし引き継ぎの後(の自己の管理下)で欠損を生じた官人であるときには、任を離れないならば、(徴収ぶんを)本倉に納めること。すでに任を去っているならば、便宜上、後任地及び本籍地に納めるのを許可すること。隠截〔いんせつ〕(=私的に出挙してその利を着服すること)、及び、貸用は、在任/去任〔こにん〕を問わず、みな京に納めること。
官物を欠失したり、併せて、勾獲〔こうかく〕(=帳簿と照合して欠失を検出)したりして、徴収するにあたっては、いずれももとの物に依って徴収・充当すること。その物が準備不可能な場合、及び、郷土にない場合は、その物の価格に相当する財貨で徴収するのを許可すること。死亡している場合、及び、配流しているならば、いずれも徴収を免除すること。
交易の物の費用(つまり必要物資や貢献物を購入するための支出)を着服したならば、隠截の罪と同じとする。田租を余計に徴収する、地子(=公田(や私田)の小作料)を過剰に収奪する等の罪は、非法の罪に準じること。不法に取得した財物を官司の所有となした場合は、坐贓〔ざぞう〕(=監督支配の官人としてではなく不法に財を得た者)として処分すること。私物となした場合は、(監督支配の官人が)法を犯した場合に準じて処分すること。
庫・蔵から出てくる人があって、盗みと疑わしい様子があったならば、すぐに身体検査等を行うこと。